第13話 神だなんて冗談じゃないよ

  街の人がざわめく中、エルモンテスの街を歩く僕とカルーナ。

 大魔神カツマラアの襲撃の後だけに、まだ、街は騒然としているようだ。


 今も「あなたは大丈夫だった?」「なんであんな巨人がこの街に....?」「あっちの通路に大きなクレーターが出来てるぞ!」など、大魔神関連の会話が横を通り過ぎる人達から聴こえる。

 襲撃から1時間ぐらいしか経っていないから無理もない。



 あ、そうだ。気になってた事があったんだ。


「なんで母さんの前では妹という事を否定したんだ?」

 水色と黄色、青、紫がきらめく美しい海を見渡せる高台で、柵にもたれつつ聴いた。


「ああ、あれはねー。ルーティアさんの精神向上を邪魔しないためだよん。

 こういう事に配慮するのは天使の掟みたいなものだね。

 お兄ちゃんが”実体”って口走った時のルーティアさんの反応を見ると分かる通り、ルーティアさんはまだお兄ちゃんを、息子の野田周のだめぐるとしか認識してないんだ。

 本当はアースに滞在していた全ての人間が実体を持っていて、アースで産まれる前の家族関係もある。ただ、精神が進歩するまでは実体が持っていた家族関係を思い出せないの。

 もちろん、相手が実体を持っているということにも気づかない。

 余計な混乱を招いて、今、必要なことから気が逸れてしまうのを防ぐ意味でやったことだよ」

 カルーナは僕の隣に来て大海を眺めながら切なそうに語った。


「そうか。母さんはまだ自分に実体がある事を気が付いてないだけなのか。

 しかし、それに気が付く人間とそうでない人間の違いってあるのかい?」


「アース滞在時から心の声に従っていたかどうかだね。

 誰でも、心の内側から実体の声を聴いてるんだよ。

 その多くがアースでの物的豊かさや利益には繋がりにくかったり、自分の価値観に反することだったりだけどね。

 例えば、価値のある物を無償で人に分け与える、人の意見を聴けない人だったら人の意見を聴く、といった事だったり。

 大体の場合、アースで暮らす時に形成された自我の価値観に反する事を実体は求めてる。

 それをする事で自我の皮をはいで、精神が実体に近づいていくんだ。」


 天使らしい事を語っている。見た目はギャルっぽいが時折、カルーナに天使としての風格を見る時がある。


 それにしても.........

「僕はそこまで実体の声を聴けていたかは分からない。

 無償で人のために与えるとか、自分の価値観に反する事にチャレンジしてきた覚えはあまり無いんだよな。

 でも、実体の存在を強く感じ始めている。

 もしかして、カルーナが今言ったこと以外にも、実体に近づくための条件が他にあるのかい?」


「あるよ。ただ、これはアースでの生活ではどうしようもないことだね。

 仮相界アースで産まれる前の真相界での進歩具合によって、実体に近い精神を持っている場合がある。まあ、お兄ちゃんも色々思い出せるようになるよーっ」

 なぜか、カルーナは僕の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。何だかこの辺を有耶無耶うやむやにしようとする意図を感じる。


「あと、アースの自分の部屋で女神様に会った時、僕の事を”環境変化に対する不動の心の持ち主”って言ってたな。なんかそれが関係あるのかな。」


「女神様?お兄ちゃん、女神様に会ったの?どんな人だった??」


「髪の毛は黄金の深紅色とでも言えばいいのかな、見たことがない色で、顔はハリウッド女優に何百倍もオーラ+包容力を塗り重ねた感じ」


 黄金の深紅色....とカルーナは呟き何やら考え込んでいる。

 その末に、

「女神エルソレイユ様....?」と口にした。


「それがあの女神様の名前なのかな?

 何でも”環境変化に対する不動の心の持ち主”だから僕と接触できるようになったとかおっしゃってた」

 やっぱりというか、どうやらすごい存在だったみたいなので、尊敬語を使ってみた。


「もしかしたら....だけどね。エルソレイユ様は神庁の神々よりもさらに高次の世界の神様なんだ。何でそんな神様が、遥か遠くの仮相界アースにいたお兄ちゃんの前に姿を現すことができたのか私にも分からない。

 だけど”環境変化に対する不動の心の持ち主”って呼ばれたのは、それはお兄ちゃんがアースでの試練を乗り越えた事の証明だと思うよ。その辺の事は何となく私にも分かる。お兄ちゃんにはまだ言わないけど(笑)

 ルーティアさんに感謝しなきゃねっ!!」


 まあ、カルーナが言わない方がいいというなら、そうなのだろう。

 カルーナから母さんに対して熱い感謝の思いを感じるのは、その辺の事が関係しているのだろうか。


「そういえば、お兄ちゃんが魔法陣無しで魔法を使ったって本当?

 カツマラア大魔神との闘いを見ていた人がそう言ってたけど....」


「多分だけど、本当かも。ユベールバーンとか言う組織の男に襲われた時も、魔法陣は出なかったな。相手もそれを驚いてた」


「へぇー!!やっぱり本当なんだ.....驚いたなぁ」


 魔法陣が出ない件について、何がそんなに驚きなのかさっぱりだ。


「じゃあさ、街の修復の手伝いがてら魔法を使って見せてくれる?」

 カルーナは銀紫色の髪をいじりながら遠慮がちに言った。



 そもそも、あれ、自分が破壊したものあるからな。通路のクレーターとか。

 まあ、他に行く当ても無いし、ぜひ手伝いをさせてもらおう。


 やり方分からないけどな。





 ・・・・・・・・・・



 街の通路に出来たクレーター跡までカルーナと歩いてきた。

 隕石の衝突のように幅15メートル、深さ10メートルほどの大穴が出来ている。


 カルーナが街の人を現場から遠ざけ、魔法で白い幕を生成して現場を囲った。

 (その際、現場を覆うような大きい魔法陣が出現していた)


 修復作業を観られたくない事情があるのかな?


「普通なら、街で起こった事故や劣化による修復は街の人達やメルシアの人間に任せるのだけど、今回の事は出来るだけ早く忘れてほしいから、一気に修復するために私が来たんだ。」


「じゃーあ、私が半分ぐらい直すから見ててねっ!」


 カルーナは現場から少し離れ、目の前に両手を出し、両手で左右の幅を図っている。

 うん、こんな感じかな!!というと、魔法陣がクレーターの凹みに沿って現れた。

 すると、光を伴いながら、通路と同じ材質のオレンジレンガの敷き詰められた地面が出現し、クレーターの底半分が埋まった。穴の深さは5mほどになった。


 げげっ!なんて便利な魔法なんだ。少し感動した。

 一人建設会社だ。カップのミルキー担々麺作るより速いじゃないか。


「はい!じゃあ、次はエ.....じゃなかった。お兄ちゃんの番ね。」


 今、僕の本名を言いそうだったんじゃないか?カルーナの失言により本名を知ってしまう時が来るかもしれない。


 過去の例にならい、カルーナが使った魔法と同様の光景をイメージしてみよう。

 えーっと、何かキラキラし始めて、次に通路と同じ材質のオレンジレンガの地面が出現したよな.....とイメージを描いたら、すでにキラキラが伴いつつオレンジレンガの地面が出現し、通路は元通りになった。


「きゃーっ!!ほんとだ!魔法陣が出ない!!!羨ましいなー。

 私もアースで修業してこようかしら。でも、天使がアースで転生するのって許可もいるしハードル高いなぁ。過酷だし、ウラノスに戻れる保証もないし。やっぱり大変だな.........」


 何だか一人で盛り上がり、一人で残念がっている。


「魔法陣が出ないのってそんなにすごい事なのかい?

 これだけ色々な人に驚かれると、その理由を知りたいのだが」


「うーん、これ言っていいのかなぁ?まっ、いいか。

 魔法使用時に魔法陣が出ないっていうのは神の証なんだよ」


「えっ!!!?ウソだろ!?」

 とんでもなく飛躍した答えに僕は固まった。

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