第12話 一人っ子なのに実の妹に会う
野田周視点
僕は、目の前にいるふくさんを前にし混乱の極致にあった。
なんで!?どうして?今までの事は全部幻で
様々な考えが
「こんにちはっ。
この独特のしゃべりはふくさんだ。
幻覚じゃなかったのか?いや、幻覚と思ってた謎の声も幻覚じゃなかったし.......
まだ僕の思考は追いついていない。
「ふふふ....なーんてね。」
透き通る若い女性の声を出し、目の前のふくさんがぐにょぐにょ変形しはじめた。僕は再度、目ん玉を飛び出させながらその様子を見つめる。
変形したふくさんは若い美しい女性の姿に変わっていった。
輝く銀と紫色が合わさった感じの
と思った瞬間、
実体はこの女性の事を良く知っていたのだ。
「カルーナ.....?」
「もう思い出せるのね!あーー来て良かったー。思い出してくれなかったらどうしようと思って、初めは”ふくさん”の姿を使ってみたの。あんた誰?って言われるのも悲しいじゃん?でも、お兄ちゃんを観たら、えいっ、やっちゃえやっちゃえ!と思って、本来の姿を見せてみた」
カルーナに対する情報整理が追い付かず、呆然としている俺に対して、カルーナは一気に話しかける。
「今の名前は
何やら焦って口の周りを両手で覆っている。
が、それどころではない。
・・・・・・・俺の頭の中では、カルーナと共にどこかの街を破壊し尽くしている場面が浮かんでいるからだ。
上空から俺らしき人物が、地面に突っ込むと大爆発が起こり、周囲の建物が吹き飛んでいる。まるで核爆弾である。
同様に上空に浮かぶカルーナの周囲には光る玉のような物が浮かび、カルーナが手を前に突き出すと、それらが街に降り注いでいき街は壊滅させられていく。二人の表情はどこか悲しそうだった。
ただ、解せないことは、俺に関しては今の紅蓮の髪といった容姿では無かった。
金髪で短髪の褐色の顔の男性だった。
こ、これは.....どういうことだろう....。
目の前の女性も俺もそんな事をするような人間とは思えない。
俺の実体は何を知っているのだろうか?
「おや?.....おーい、帰っておいでー!!」
カルーナが僕の目の前で手を振っている。
「あ、あぁ、久しぶりだね。カルーナ。
実体の存在には気づいてきてるから、本当の名前があることも驚かないよ。
ただ、カルーナの言う通り、まだ知らない方がいいかもしれない。
もう少し、野田周として時間をかけて理解していく方が良いと思う」
自分の実体だか、本能だか分からないが、ソレが、一気に知ろうとする事を拒んでいる。
「そういえば、ふくさんの姿をしていたけど、僕が老人ホームで見た”ふくさん”の錯覚はカルーナだったのかい?」
「うーん。この辺は複雑なんだけど、そうとも言えるし、そうでないとも言えるよ。
確かに、私がお兄ちゃんの前に錯覚として登場する案を出したのだけど、私じゃアースと接触するのは難しいんだ。これでも天使だから。
中継役として、変身魔法が使える途中の世界の人を選んで、その人に錯覚として登場してもらったの」
あの出来事にはそんな背景があったのか。
どうやら、ファントムウイルスはただ幻覚を見せるウイルスではないらしい。
「そうなんだ。色々お世話になったみたいだね。ありがとう。」
「それでさー、今日来たのはお兄ちゃんに会うためだけじゃないんだ。
さっきカツマラアがこの町で大暴れしてたでしょ!お兄ちゃんが魔神界に帰してくれたみたいだけど。街の修復と原因調査のために来たんだ。」
あの大魔神、カツマラアって言うのか。
帰した覚えは無いのだが、大魔神が光の粒子になって空に向かっていったのは、元の世界に帰ったということなのか。
メルシアに初めて来て
それ同様に、大魔神に対しても何らかの魔法が自動的に発動された。
以前、女神様が僕の部屋に現れた時に『
ということは、あの時、
「そうなんだ。あの大魔神が現れたのって珍しいことなのかい?
カルーナが調査に来るほど?」
実体の記憶なのか、カルーナはメルシアより高次の世界から来ている事はすでに知っている。
「あんな魔神にしょっちゅう暴れられたらたまんないよ。
カツマラアは普段穏和だし、今までメルシアで暴れた事は無いんじゃない?
なぜか分からないけど、エルモンテスの街に現れたんだ」
トットットットッ。
階段を下りて来る音がする。
母さんだった。
「お客さん?めぐ君が応対してくれたんだね。
わ....すごい美人さん!!」
母さんは泣き
「うん。僕の実体の妹なんだ」
「実体??めぐ君は私の一人息子よ。妹はいないはずなんだけど....」
母さんは何が何だか分からないという顔で首を
「いえいえいえ!!私は妹ではなく、周様に大魔神退治の感謝を伝えにきた
周様は何らかの理由で私を妹と誤解されたのでしょうっ!アースから帰ってきたばかりでは、この世界は不思議な事ばかりでしょうから。あははは。」
どういうわけか”妹”ということを慌てて否定するカルーナ。
何やら
「あぁ........そうなんだね。確かに、妹なんておかしいと思ったなぁー。はっはっは!!」
僕も頭の後ろに手を当てて笑い、ごまかした。
妹であることを母さんの前で否定した理由については、後で聴いておこう。
それにしても、母さんは実体という概念を知らないらしい。
僕よりもメルシアに詳しいから、その事は意外だった。
母さんは実体の意識や記憶らしきものをアースから離れた後に感じたことが無いってことか?
謎の声によるガイドとかも無いのか?
僕は誰でも、”メルシアや別の異世界に滞在していた別の自分”といった、実体という概念を知っているのだと勝手に思っていた。
母さんは「ふーん........」と納得できない感じで、目を細くして僕たち二人を見ていた。
「初めまして。私はカルーナと申します。
周様のお母様のルーティア様ですね。
”本当に”素晴らしいご子息をお育てになられましたね。
大魔神討伐の件、神庁を代表し感謝を述べさせて頂きます。
誠にありがとうございました。
お二方のお陰で被害を限りなく最小に留めることができたのだと思います」
そんな遥かな場所から来た事を感じさせるような高貴さを放つ振る舞いをしている。
見た目はギャルっぽいのだが、それを感じさせないほどだ。
ただ、気になるのは、母さんに対する感謝の念が尋常じゃなく強いものであるように感じた。
”本当に”の部分に何か熱い思いを感じたのだ。
お調子者の母さんだからさぞかし鼻高々になるだろうと思ったら
「ありがとうございます。ただ他にも、大魔神と戦い、犠牲になってしまった人もいます........」と、悲しそうに目を伏せた。
「ダンクロックス様ですね。あの方の事は神庁でも良いように取り計らわせて頂きます。
あの大魔神に立ち向かった功績は体を無くしても消えることはありません。
ダンクロックス様がお目覚めの際には、その功績の分だけ素晴らしい恩恵があられるでしょう。」
母さんにダンちゃんと呼ばれていた男性の名前はダンクロックスと言うのか。
そして、やはり死んだわけではなく、復活できる事がこの会話で分かった。
ダンクロックスさんが立ち向かわなければ僕は大魔神との闘い方が分からなかった。
目覚めたら再度お礼を言いたいと思う。
「それで、当方、大魔神出現の原因調査のためにもお伺いしています。
周様にも同行頂き、街の中で現場を歩きながら二人で話をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
母さんにも目を向けながらカルーナは言った。
何となく、これは僕を外に連れ出すための方便であるように感じた。
「はい、承知いたしました」
と、何となく僕も
母さんも後ろで「行ってらっしゃいっ!」と手を振っている。
そして、僕たち二人は母さんの家を出た。
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