第11話 幻に囚われた人間達

 この城に来てから一週間ぐらい経ったと思う。


 思ったよりも城の中の悪魔達は親切で、丁寧に扱ってくれているのが分かる。


 初めの頃、お腹が空いた時には私の好物であるシチューとパンとかを異空間?から出してくれたし、お風呂に入りたくなったら城の中のお風呂へ案内してくれた。


 でも....今では食事を摂る必要も、お風呂に入る必要も感じなくなった。さらには眠る必要すらも感じなくなった。

 なぜならお腹も空かないし、こんな汚れた世界にいるのに汚れた感じもしないの。空はいつも赤黒いままだし眠気もやってこない。


 そして、魔法の訓練のために城の中に閉じ込められるかと思えば、城から街に出ることすらも許された。


 あの悪魔達は一体、なにを考えてるのかな?


 ただ、街を出るときには「街を出歩くときには周囲に注意してください」とだけ言われた。

 それで、部屋の中でリーディングを繰り返すのに疲れてきた私は、廃墟?を出歩いてみた。


 注意してくださいの意味をすぐに痛感した。


 路上を歩いていると嘗め回すように見てくる人相の悪い男達や、般若のような形相をした女性達が睨んでくる。なぜか、どの人達も顔色が青黒く....歪んだ顔をしている。


 実際に襲われたこともある。

 錆びれたパチンコ屋のような外観の劇場を通りかかった時、そこに立ってた熊のような巨漢が声をかけてきて....


「姉ちゃん、ここらじゃ見られないべっぴんさんだねぇ」

 と言い、突然、抱きついてきた。


 私はパニックになって「いやっ!!」って振りほどいたら、なぜか、巨漢は飛ばされるように壁に打ち付けられた。明らかに私よりも体格が大きいのに。


「ご、ごめんなさい!」と言い、私はその時は走って逃げて城の部屋に戻った。


 こんな感じに街は危険な所だった。

 だけど、外にある物をリーディング魔法にかけてみたりもした。


 例えば、城門の中にあった”自らの腕にナイフを突きつけ薄ら笑いを浮かべる女性”の石像をリーディングしてみた。

 私の脳裏に映像が流れていく。


 すると、驚くことに、その石像を作ったのは私が元居た世界アース彫刻家だんせいで、義親に対する介護の辛さにより発狂して自殺した奥さんを忘れないために作ったことが分かった。

 奥さんの死は自分の責任だと責め続け、その後、男性も自殺してしまったらしい。

 なぜ、パーゲトルにこの石像があるのかリーディング中に疑問が湧いたら、脳裏に聴こえる言葉として教えてくれた。(映像だけじゃなくて言葉もあるのね!)


 『石像が作られた動機・作り手である男性の精神状態が暗くパーゲトルに近いものであるがゆえに、石の塊である石像の”実体”はパーゲトルに落ち着くことになりました。

 何らかの理由でこの場所に紐づけられ、出現しています』

 ということみたい。


 今まで色々してみたリーディング結果から分かるのは、誰かが認識した物体には実体があって、例え、元居た世界アースで物が壊れたとしても、実体は壊れずどこかの世界で存在しているということ。


 リーディング魔法からアースとパーゲトルとの繋がりまで知ることができるとは思わなかった。

 あっ、ちなみに、元居た世界がアースって呼ばれてるのを知ったのもリーディング魔法からなの。


 こんな感じで、リーディング魔法にかけると、一つの物にまつわる様々な事が分かるようになった。さっきの石像を例にすると、石像から作り手の家族関係や、なぜ、この世界にあるのかといった事まで芋ずる式に分かる範囲が増えてきた。


 ただ、リーディングが出来ないこともある。



 例えば、この前、

「試しにメゾニエルをリーディングしていい?」

 と、メゾちゃんに聴いてみた。

 (メゾちゃんとは、本人に向かっては言ってないけど、心の中でそう呼んでる)


「....どうぞ」と、本人が言ったのでリーディングしてみた。


 その結果、脳裏にテレビの砂嵐みたいなザーっとした画面が出てきて、リーディングできないことが分かった。


「メゾニエルがリーディング出来ないようにしてるの?」

 って私が聴いたら.....どうやら違うらしい。


恵美めぐみ様が持つカルマ上の理由で、試練のために必要な情報以外は得られないようになっています。リーディングにおいても、今、知る必要のあることだけを知ることができます。」

 と、メゾちゃんが言ってた。


 私は気になって

「カルマってなに?」

 と、メゾちゃんに聴いたけど、


「恵美様、私は所用がございますので、これにて....」

 と、いつも通りに魔法で消えてしまった。


 ここ一週間の印象の強い出来事をまとめたら、こんな感じ。


 それで、なぜかは知らないけど、今日は胸騒ぎのようなものがする。

 特に理由は分からないのだけど落ち着かないのだ。


 と、部屋を行ったり来たりしていたら、振り向いた瞬間にモロゾフがいた。


「うぎゃーっ!!」


 目の前にモロゾフの青黒い眼があって死ぬかと思った。

 胸騒ぎってこれか!!突然部屋に魔法で現れる変態の登場。


 モロゾフは動じることなく言い放った。


「本日は私と一緒に来てもらいます。

 メゾニエルから、あなたのリーディング魔法の上達が一定水準に達したことを聴かされまして、、、、

 行き先はパーゲトルより一つ上の世界、マルフィです。」


 と言って、私の肩を抱き寄せると、二人の足元に魔法陣が描かれた。


「きゃ!?ちょ、ちょっと待っ!!」

 この悪魔、いつも敬語なんだけどすっごく強引だわ。


 と考えた一瞬に、マルフィなる世界に到着したらしい。

 目の前をよく見ると....そこには、


 赤と白のレトロなレンガ風のデザイン。

 東京都の丸の内にある『東京駅』があった。


 私は驚きを通り越して気絶しそうになった。

「あふぅ....」と吐息を漏らして足元から崩れ落ちそうになった所、モロゾフにわきを支えてもらった。

 これはどういうことなの?私は生き返ったの....?


「あなたは再びアース滞在用の体を持ったわけではありません。

 これはアースの人間の意識が作り出した実体の世界です。

 最近のリーディングでも、人間が認識した物体は実体を持つと結果がでませんでしたか?」


 アース滞在用の体......


 まあ、それは置いておいて、確かにパーゲトルの城の庭にある石像をリーディングした時も、物体が壊れても実体は残ると結果が出てた。



「まあ.....実体と言っても、マルフィの住民はアースでの仮の暮らしを実体として信じているぐらいですから、この世界はぼやけて見えるのでは無いでしょうか?」

 なぜか、モロゾフは残念そうに言った。私はそこにどんな意図があるのか分からないけど。


「確かに、全体的にかすみがかっていて遠くまで見通すことが難しいわ」

 東京駅周辺を見渡すと、霞のような白いもやがかかって、遠くまで見通すことができない。

 東京駅前の大丸など高層ビルも白い靄に刺さるように上半分が見えなくなっている。


 霞の中、もぞもぞ動いている人影があちらこちらに見られる。

 人間は結構いるようだ。


 あっ、その一人が何かの商業ビルに入っていく、女性かな.....ん!?私は異様な光景に目を見開いた。

 その女性の後ろをぴったりと何か緑色の小悪魔みたいなのがついていっている。ゴブリンと言うとイメージが湧きやすい。


 私が小悪魔に目を奪われているのを察し、モロゾフは、

「アレについて行ってみますか?この世界の実情がよく分かるかもしれません」

 と、面倒くさそうに言った。しかし、その実、見せたそうでもある。


「うん。見てみたい。」

 私も興味があったのでついていく事にする。



 ・・・・・・・・・・



 商業ビルの中は丸の内のビルらしく、フォーマルな感じをさせつつも豪華な内装になっている。

 小悪魔と一緒に入っていった女性はエスカレーターで2階に上がった。


 その女性はエスカレーター上がって正面のパン屋のようなお店に向かっている。

 あっ、そこの店員さんらしき男性と....小悪魔がいる。こっちは赤い。

 小悪魔の顔はグレムリンと少し似ている。


 近くで見るとよく分かったけど、店員も女性も、人間の方は二人とも目を瞑っていた。


 女性は何も無い棚が並ぶ店内を、まるでパンがあるかのようにトングを使って取る仕草をしている。

 そして、女性はトレーだけを持ってレジに向かった。


 短髪の男性は「いらっしゃいませ!」と接客のベテランである事を感じさせる調子で黒髪のロングパーマの女性に声をかける。

「お会計は289円です」と言い、女性から小銭を受け取り、何かを手渡す仕草をした。


 女性は何かを片手で持つ仕草をしながら、小悪魔を連れて店を出ていった。


 なんなの?これ??この奇怪な光景を見て戸惑っていると.....


「彼らは今もアースで生活を送っていると信じているのですよ」


 モロゾフが首を横に振りながら、疲れたように口にした。

 

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