第10話 パーゲトルにて魔法修行開始
荒川恵美視点
5話の続き
前回のあらすじ
幻覚を発症し、家にいた所、モロゾフという悪魔が出現する
↓
モロゾフと共に、暗闇の中に存在するドアを開く
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完全な暗闇の中、白いアーチ状のドアだけが目の前にある。
辺りは暗闇なのにこのドアだけが浮かび上がるように存在しているのが不思議だ。
モロゾフとか言う悪魔に促され、白いアーチ状のドアを開いた。
「え.....なにこれ....?」
そこには一面廃墟かと見紛うばかりの惨状が広がっていた。
どの建物もひび割れや穴だらけであり、路上には大きな石や砂、泥などが散乱していて、そこが通路なのか空地なのか分からない状態だ。
さらに空全体を赤黒い雲が覆っていて、それが、世界全体を毒々しい印象に変えていた。
右の奥方向には山があるが空同様に赤黒く、木は枯れているか、赤黒い、または黒い植物で覆われているようだ。
そして、正面には他の建物同様、ひび割れ、穴だらけの城が観える。
城門の中の庭に少し見える石像は”自らの腕にナイフを突きつけ薄ら笑いを浮かべる女性”という、奇怪で見るに堪えないものだった。
「ふふふ.....どうでしょう?ひどい世界だと思われたのではないでしょうか?
ここがパーゲトルです。」
モロゾフは愉快そうに口の両端を吊り上げ、笑みを浮かべている。
「こんな廃墟に連れてきて....私をどうするつもり?」
思わず、両手を抱いて身を守る仕草をとる。
「乱暴されるとでも?誤解されないでください。
この世界において、あなたはゲストです。
そのため、一番マシであろう、あの城にて”一時的”に滞在して頂きます。」
正面の城を指さすモロゾフ。
「ひねくれた部分を持つあなたですから、すぐにまともな世界にいけるわけがありません。
まずはこの世界で、上の世界に行くための学習をして頂きます。
あなたの愛する人は上の世界にいるのですから。」
自分のひねくれた部分で絶望するほど後悔しているだけに反論できない。
「分かったわ。この世界で勉強する」
「素直で宜しい。では、城の中へと案内します」
長髪の悪魔と私は城門を入り、グロテスクな植物の生える庭を進み、荒れた木材と錆びついた金具で出来た物々しい巨大なドアを開け、城の中へと入っていった。
私が案内された部屋は巨大な窓のある大部屋だった。
意外にも、モロゾフが”一番マシ”と言った通り、外に比べれば随分と豪華な部屋だった。
ベッドなどは通常のもので、机、クローゼットもある。
どの家具も傷がつき色がくすんでいるが、外の惨状を観た後では、ここはだいぶ居心地が良い。
「では、私は所用がありますので、これにて失礼します。
学習については城の者がガイドします。
またすぐにお会いできますので、寂しがらないようお願いします」
誰が寂しがるかっ!....と思いたいが、唯一の顔見知りなので居なくなるのは心細さがある。
そう考える間に、モロゾフの足元で魔法陣が銀色の線で描かれ、それが光った時にはモロゾフは忽然と消えていた。
あれはなに??モロゾフが私の部屋に現れた時も魔法陣を見たけど、あれは魔法なの?この世界には魔法があるのかしら。
死んだという自覚はあまり無いのだけど、モロゾフは”あなたはこれより死を迎えます”と言っていた。それが本当ならここは死後の世界なのかも。
思わず、自分の手や腕などを眺める。体も生前と全く同じだわ。
あと、部屋の壁面に張ってある少し割れた大きな鏡を見て、気が付いた。
私は赤黒いワンピースのようなものを着ている。
あまりにも自然に服装が切り替わっていたので道中、気が付かなかった。
黒い髪は生前と同じボブカット、私のコンプレックスである吊り目....
そうしている間に、ドアが「コッコッコッ」とノックされる。
私はビクっと体を震わせドアの方を見る。誰?怖いよ....
ドアが開くと、そこにはメイド服を着た可愛らしい女性がいた。
身長は私より少し低く、長く赤い髪を後ろで三つ編みにしているらしい。
「失礼いたします」
何となくほっとしたが、その女性の眼を見て凍り付いた。
モロゾフと同様、白目の部分が青かったのである。
この女性も悪魔なの?
「ご主人様から恵美様の魔法学習を担当するよう申し付けられましたメゾニエルです。
宜しくお願いいたします。」
そういって、お辞儀をした。
悪魔とは信じがたいほどの丁寧さである。
それにしても、学習って魔法学習のことだったの?
「こちらこそ、宜しくお願いします。
ここに連れてこられたけど何が何だか分からなくて....」
「まだ分からない事が多いでしょうけど、此の先、事の真相がお分かりになられるでしょう。
今は魔法学習に集中されることをお
何だか意味ありげな事を言われた。私は神経質なのかこういうのがとことん気になる。
でも、聴いて話してくれる雰囲気でもないので、魔法学習に集中することにした。
私が聴く姿勢になったのを
「魔法とはこの世界に直接意志を反映する一つの方法です。
一部を除き、基本的には、誰しも人格に相応しい魔法を身に着けていきます。
恵美様の場合では、神経質・几帳面という人格の性質を持っています。
そのため、”リーディング”に関する魔法の向上が見込めます」
なぜ私の性格を言い当てられたのだろう。
ちょっと恥ずかしい.....
「リーディング?それは何かを読み取るための魔法なのかしら」
「はい、その通りです」
「では、早速、実践してみましょう。
ここにペンダントがあります」
濁った灰色の石のついたペンダントをメイド服のポケットから出し、机の上に置いた。
「この椅子に座り、ペンダントに手を
言われた通りにやってみた。
すると、手のひらサイズほどの魔法陣がペンダントの下に描かれ、同時に、サファイアとエメラルド色が混合したような輝く髪色の、、、絶句するほどの美しい女性が脳裏に見えた。.....女神??どういうわけか、その女神がつけていたのは形は同じであるものの、煌めく蒼い宝石である。
美しく咲き乱れる花畑の中、女神は誰かの隣に座って楽しく会話しているようだった。
場面が途切れ、私が呆然としていると....
「成功したようですね」
と、メゾニエルに声をかけられた。
私は今、見えた映像を細部に渡ってメゾニエルに伝えた。
「はい。あなたが見たものは真実です。
どうやら、あなたにはリーディングの優れた才能が有られるようですね」
何が嬉しかったのか、メゾニエルはにっこりと笑った。
本当にこの女性は悪魔なのだろうか?
「この先もリーディング魔法を使い続ければ、熟練度も上がり、より多くの情報が得られるようになるでしょう。今はイメージしやすいように手を
あなたの愛する人に会うための手掛かりも掴めるかもしれませんよ」
なんか....最後の言葉に悪魔らしい誘惑を感じた。
ただ、愛する人って言葉を聴いて違和感が少しある。野田君に対して抱いている感情って愛なのかな??
では、次はこれらをお願いします。
と、メゾニエルが言うと、机の少し上の空間に魔法陣が広がり沢山のガラクタが机にばらまかれた。
「きゃっ!!?」
私は驚き短い悲鳴を上げ、椅子ごと後ろにズゴゴゴという音をたてて下がった。
そこには明らかに誰かが履いていたらしい汚い靴。
錆びついたナイフ。
所々ほつれ泥で黒くなった手袋。
などなど、汚らしいものが沢山あったからだ。
自分でも思うが、私はキレイ好きだ。
だから机の上にばらまかれた物に対して過剰に驚いてしまった。
これは一体なんの嫌がらせなの?
「私はこれにて失礼いたします。
宿題としてこれらの練習道具を置いていきますので、リーディング魔法の訓練に使ってください」
メゾニエルもモロゾフ同様、魔法陣が足元に描かれ忽然と消えていった。
目の前で消えられると、”いつもあなたを監視してます”というメッセージのように感じられる。
うぅ、怖いよー
誰か助けてー
私は汚い物のリーディングをしぶしぶ始めるのであった。
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