第6話 亡くなった母親との再会

 異世界に来てから初の戦闘。

 その後、母親らしき人物が浜辺に繋がる道から走ってきた。


「おかえりなさい!あなたに会えるのを待っていました!!」

 走ってきて疲れた様子もなく、嬉しそうにいった。


 髪の色はエメラルドと少量の黄色を混ぜたような、元居もといた世界には見られないような色。顔立ちは、明らかに大人なんだけど、少女漫画のヒロインのようなあどけなさを感じる。

 身長は僕よりも20センチほど低い。服装は左右にスリットの入ったワンピースで純白が基調で緑色の刺繍が輝いていた。その下には純白のぴったりとしたズボンを履いてる。


「えーっと、こんにちは。

 違かったら申し訳ありませんが、もしかして、母さん??」

 人違いだった場合の保険を織り交ぜたら変な日本語になった。


「はい!私はあなたの元居た世界における母親の野田和子(のだかずこ)です。

 こちらでの名前はルーティア。

 めぐ君のことはずっとこの世界から見ていたの。」

 母さんは少し気恥ずかしそうに、こちらの世界での名前を口にした。

 元居た世界のなごりを感じさせるその仕草を見て、相手が母親であることの実感が強まった。また、安心感も湧いてきた。


「そうなんだ!って、ずっと見てたのか....。

 僕も会えて嬉しいよ。元居た世界はお互い、大変だったよね。

 母さんも無事で良かったよ。」

 僕の自我は、母親に見せちゃいけないあんな所もこんな所も見られてたのか!?と一瞬動揺したが、実体の意識なのか”その点は対策がなされているので恥ずかしがる必要は無い”として動揺を書き消した。


「立ち話も何だから、ゆっくり歩いていきましょうか。あっちに私が滞在する街があるの。

 街に向かいながらこの世界の事、めぐ君の事について話していくわね。」


「ありがとう。この世界のことをもっと知りたいな。」


 僕たち二人は浜辺に繋がる道を歩き出した。

 さっきまで周囲を観察する余裕は無かったが、この世界はあまりにも雄大だ。


 まず、空を見上げると全体が緑や空色、ピンクなどが混合されて、混じりあうことなく全てが調和し美しい色模様いろもようになっている。

 さらにその空の奥の方は藍色あいいろの広い空間が広がっていて、環を持つ巨大な惑星が手前に見え、少しズレてその向こうには月ほどの大きさで見える蒼い星がある。

 昼と夜が共存しているような美しくも不思議な感じだ。


 遠くには、宇宙まで続くような高い山、天と繋がるような高い塔なども観られる。

 これだけを見ても、明らかに元居た世界とは違う物理法則で成り立っているのが見て取れる。


 白いキラキラした何かで整地された道を歩いていると、僕が風景の雄大さに驚いているのを察し母さんが言った。


「どう?仮相界かそうかいから帰ったばかりだと、この世界の風景に驚いたんじゃないかしらっ??」

 なぜか少し自慢げである。お調子者である昔の母さんらしさが出てきた。


「私の場合は、事故で仮相界を去ってから、ここに来るのに時間がかかったけど、初めてこの風景を見た時の感動は忘れられないわ。」


仮相界かそうかい?僕たちがいた世界はこっちの世界では仮相界っていうの?」


「そうね。仮相界にも無数の種類があるらしいから、総称(そうしょう)して........という感じだけどねー。

 私もこちらに来て教えてもらったんだけど、仮相界は人間が成長するために用意された場なんですって。


 そのために物的制約が強く設定されていて、本来の能力を発揮できないようになっているみたい。

 その代わり、物的制約がある中、知恵や意志力で乗り越えた分だけ、飛躍的に成長できるようになっているの。

 ふふっ、私たちが元居た世界はとびっきり過酷な世界の一つらしいわよ」

 母さんが口元に手をやって嬉しそうに言った。


 僕たちのいた世界はとびっきり過酷な世界だったのか。

 もしかしたらそうなんじゃないかなーって思ってたんだが、やっぱりそうだった。何かショックなような得をしたような。


 ん?元居た世界が仮相界なら、ここは何なんだろう??

 そのままの質問を母さんにしてみた。


「もちろん、ここが真相界。世界としての名前は”メルシア”という名前があるみたいよ。全ての源流はここにあるの。

 植物も動物もこちらの世界の存在がモデルになって、仮相界にもゆっくりとついていくように現れてくるんだって。

 物的制約があるから真相界に追いつくことはいつまでも無いみたいだけど。」


 この返事を聞いて、僕の中に猛烈な違和感を覚えた。

 いや、ここは真相界ではない。

 実体による知識なのか、僕は遥かに真相界と呼べるような世界があることを知っている。

 まあ、これについては置いておこう。きっと、真相だろうが仮相だろうがみんなにとって大切な場所は今いる場所なのだから。


「そういえば、あなたを襲った男について気にならない?あの男はめぐ君が元居た世界の裏にある世界、「パーゲトル」の住民よ。


 その中でもユベールバーンっていうテロ集団の一人だと思う。

 ユベールバーンは人間が仮相界から離れてすぐを狙って、攫いにくるの。

 組織に色々な人間を引き込み勢力を拡大していってる。


 色々な場所でテロのような事をやる困った連中ね。」

 母さんは細い眉をひそめ、腕を組んで言った。

 物騒な内容を話しているのだが、端から見ると待ち合わせで遅刻してきた相手に美少女が怒っているような感じに見える。


「実は、あなたがユベールバーンに狙われている事は事前に知っていたの。

 私たちの世界にも警察のような組織があって、そこの人から教えてもらったんだ。

 でも、めぐ君を助けることについては止められたのよ。


 何でも、めぐ君の場合は仮相界を通して天使級の力を身に着けているからユベールバーンの1戦闘員に負けることはないだろうって。


 本当は近くで様子を見る事も止められてたんだけど、心配だから隠れて見てたんだ。

 それにしても、魔法陣も通さずに魔法を使えることには驚いたけど....」

 久しぶりにあった息子が急に背丈が伸びたのを驚くような目で母さんはじろじろ見た。

 いや、こっちの世界に来て、背丈に関しては実際に伸びてる気がする。今も母さんの頭頂部がよく見える。

 母さんの例もあるし、顔までも変わってる可能性大。


「魔法陣については襲ってきた男も言ってたね。僕には何が何だかよく分からんのだけど。」


「魔法陣は世界に意志を反映させるための手段なんだよ。

 自分の中にある思いやイメージを魔法陣を通して、世界に具現化させるの。

 私は、なんでめぐ君が魔法陣を通さずに魔法を使えたのか分からない。

 だけど、もしかしたら、カルバンの人なら知ってるかもしれない。

 さっき言った、この世界の警察のような組織で、私はカルバンの人から”天使級の力があるから君の息子は大丈夫だ”ってことを聴いたから。」


 ふーん。天使級の力かぁ。その言葉が何を意味するのかまだよく分からない。

 ただ、僕にそんな力があるようには感じないのだが。

 脳裏によぎったイメージ通りに輩は撃退できたので、それがその力なんだろうけど、もし戦いにしか使えない力だったらあまり興味は無い。

 僕は争い事がとことん苦手だから。


 花が咲いて7色に輝く丘を登って大きな海を見渡せる場所に差し掛かった時に、一番気になっていたことを母さんに聞いた。


「母さんの事故は何が原因だったの??

 親父が車のスピード出しすぎで崖から転落したとは思えないんだけど」

 明らかに母さんの顔が曇った。

 予想どおり、何か他に理由があるらしいことが分かった。


「めぐ君、父さんはね、自分からアクセルを踏んで崖から落ちたの」


 一瞬、僕は何を言われているのか分からなかった。

 自分からアクセルを踏んで崖から落ちた?自殺?

 そんな訳ないだろ、あの楽天的な親父が。


「え...........?それってどういうこと?」


「あの時は車の中で、若い頃に旅行した時の話だったり、窓から見える景色の話をしてた。

 ただ、なんというか、父さんの話が支離滅裂になりはじめたの。

 山の中を走っていて窓からは森が見えてたから”ここはイノシシとか出るのかな?”って言った。

 そしたら、海にイノシシなんて出るはずがないだろって父さんは笑ってた。

 山を海と言い間違えてるのかな、と思って聞き直そうとしたら、突然、”海にこんなに長い橋がかかってるなんてキレイな場所だな。あ、最低でも100キロの標識がある”って言って、父さんがアクセルを踏み始めた。

 私は、慌てて止めさせようとしたけど、父さんは聴かなかった。

 そのままカーブを直進して崖から落ちて、気が付いた時には病院のベッドに居たわ。

 ただ、そのベッドは元居た世界仮相界ではなくて、異世界の病院のベッドだったけど。

 .....こちらの世界に来てから、まだ父さんとは会えてないの。今、どこにいるのか分からない」

 母さんは子供が泣くのをこらえるように、ぐっと口を結んだ。


 幻覚の話を聞いて、まず思ったのが、ファントムウイルスだ。

 でも、この事故(?)が起こったのはファントムウイルスの流行が始まる7年前である。

 それとも、父さんに何らかの病気があり、それが幻覚の症状を出したのだろうか?

 全ては憶測おくそくにすぎない。


「そうなんだ...」

 と一言口にするのが精いっぱいだった。


 ただ、ぐっと口を結ぶ母さんの顔を見て、いつか必ず父さんを見つけ出そうと決意をした。


 海と山の雄大な景色の中、さらに丘を登ると、母さんの言っていた街を見つけた。

 その町は全体が何やらもやがかったオレンジ色のオーラを放っている。


「ここが私の滞在している街、エルモンテスよ」

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