第14話 サークルの勧誘④
なぜだ……。
翌日。授業も終わり、帰ろうとしたところでゼミ担の南原先生に呼び出された俺は、指定された二号館の仮部室にいた。
相変わらず無駄に広いこの教室で昨日と同じ場所に座っているのだが……
「海斗くん、就労研究会って何するのですか?」
「カイくん、本当にここが部室? なんか全然部室っぽくないけど?」
なぜか夏空と星川の姿がそれぞれ俺の両隣にあった。
––––嫌な予感がする……。てか、就労研究会って何? 俺も初めて聞いたけど、ここの正式名なのか?
二人の話はそっちのけで俺は思考回路を巡らせる。
この二人がここにいるということはつまりそういうことだよな。もはや考える間もない。
そんなことを考えていると、教室前方にある出入り口の引き戸がガラガラと音を立てながら開けられる。
「みんな揃っているようだな」
南原先生は満足そうな笑みを浮かべると、カツカツとヒールの甲高い音を響かせながらさっそく教壇の上に立つ。
「あ、あの……なぜ夏空と星川がいるんでしょうか?」
俺はすぐさまに質問した。そうでないと、なんとなくいけないような気がしたから。
南原先生は手に持っていた分厚いプリントの束を教卓の上にドンッと置く。
「私が口にするまでもなかろう。君が思っている通り、今日から入ることになった新入部員だ」
ニッコニコの南原先生。この人悪魔だ! 俺の目にはそう写っている。
「どうせ、君は部員集めなどする気がなかっただろ? このまま部員が入らなければ自然消滅するとでも思っていたのか?」
南原先生はお見通しだぞ? と言わんばかりの表情を見せる。
「まったくもってその通りなんですけど……南原先生ってエスパー使いなんですか? 俺の思っていることほぼあってて恐怖を感じたんですけど……」
「私が怖いだと? ははは……面白い冗談はよしたまえ」
と、南原先生は言っているが、目が笑っていなかった。
俺はとりあえず引き下がる。要するにこの二人は南原先生の手によって強制入部させられた被害者なんだろう。
どんな文言で誘い込んだのかは知らんが、部員が三人いるということはこの仮部室ともおさらばというわけか。たった一日だけの部室……愛着も何もねぇ。
南原先生は本題に入る前にうんと咳払いをする。
「今日、君たちに集まってもらったのは部室の件についてだ。西島はもう知っていると思うが、部員が三人以上になったということもあって、正式なサークルに昇格できる。そのため、明日からは部室棟の一階にある空き部屋を活動拠点にする」
そう言うと、南原先生は一枚のプリントを俺たち三人に手渡した。
俺はそのプリントを見る。内容としては、まず新部室がどこにあるかが記されており、他には活動内容などが書かれていた。
そして、流し目でざっと見る中で俺はある部分に気がつく。
それはサークルを運営していく中での活動資金だ。大体のサークルには学友会という中学校、高校でいう生徒会から毎年資金提供をしてもらっているのだが、金があまりかからない文化系に関しては、あまりおりてこない。だから、このふざけたサークルもおりてこない、もしくは微々たる金額だとばかり思っていたのだが……
「南原先生、なんでこんなサークルに年間二十万もおりてくるんですか?」
大学は生徒の数も多い。この大学に関しては二千五百人ほど在籍している。
そう考えると、学友会が管理している資金もそれなりにあるため、他の文化系でも五万くらいはおりてきても不思議ではないが、さすがにこの金額はおかしい。
金額的に言うと、体育系並みである。こんな多額の金……一体何に使うんだよ。
南原先生は俺の疑問を汲み取ったように説明を始める。
「就労研究会っていうのは、そこの活動内容にも書かれている通り、主にパソコンなどを取り扱う。そのため、サークル内では必然的にパソコンがなければならない。当初は五万くらいだったが、私が直々にお願いしに行った。これくらいあれば、ひとまずパソコンの一台は買えるだろ」
とは言っても、結局このサークルって、南原先生の仕事を手伝うためのものに過ぎないんだよなぁ。
一応、学友会費は年間六万程度払ってはいるけど、こんな使い方しちゃっていいのかよ。
俺の中でいろいろと思うところはあるが、学友会がそれで許可したのなら、まぁいいか。
南原先生は一度俺たちを見回す。
「他に気になるような点とか質問はなさそうだな。じゃあ、今から新しい部室に行くからついて来い」
ということで俺たちは席から立つと、南原先生の後を追って、新部室へと向かった。
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