第13話 サークルの勧誘③
入部届をほぼ強制的に書かされた俺は、南原先生とともに研究室を出て、キャンパス内を歩く。
こうして見ると、スーツ姿の美人なお姉さんを引き連れている感があって、若干照れ臭い。
まぁ実際、引き連れられているのは俺の方なんだけどな。
七号館から歩くこと約一分。フィールドハウスの近くにある二号館へとやってきた。
この二号館は一年生時の英語の授業以来、ほとんど来たことがない。建物自体も他の建造物とは違い、エレベーターも付いておらず、見た目だけで古いということが容易にわかる。
––––一体俺はどこに連れて行かれてるんだ?
正直な話、南原先生からはついて来いとしか言われていない。なんの説明もないまま、こんなところまで来たのだが……本当に何? 俺、もしかして殺されちゃう?
二号館辺りは、あまり人気がない。そのためか、閑散とした空気が流れ、ここの場所だけ少し気温が低いようにも思える。
南原先生は相変わらずなんの説明もないまま、中へと入って行き、俺も引き続き後を追う。
ヒールを履いているせいか、南原先生が歩くたびにカツカツと甲高い音が二号館全体に響く。
そして、階段を登り、最上階である三階にたどり着いたところで、一番端っこの教室の引き戸をガラガラと音を立てながら開ける。
「中は……誰もいないようだな」
南原先生は、何やら確認を終えたところで中へと入る。
俺も少し遅れて、中へ入ると……結構広々とした教室だった。
「とりあえず、そこに座ってくれ」
そう言われ、指示された教卓の前の席へ腰を下ろす。
今から何が始まるのか、よくわからないまま周りをキョロキョロしていると、南原先生がうんっと咳払いをする。
「君は少しきょどりすぎだ。見ていてすごく気持ち悪かったぞ」
「そ、それはすみません……って、生徒に対して酷くないですか? もう少しオブラートに包んだような言い方あったでしょ! 例えば……落ち着きたまえとか」
「そうだな。そこに関しては、反省する。すまなかったな。でも、私は何事にも正直でいたいんだ。だから、自分の気持ちに嘘をつくような真似はしたくない」
「なんか、かっこいいこと言ったみたいな顔してますけど、どこの受け売りですか?」
「し、失礼な! これは私の意見だ!」
南原先生はそう言うと、頰を膨らませ、顔を赤くする。何それ? そんなギャップ萌え求めてないんですけど。
「と、とりあえずだな、話が少々脱線してしまったが、説明しておこう。まず端的に言うが、ここは我がサークルの仮部室だ」
「……無駄に広くないですか?」
広さ的には大講義室くらいで高校とかの教室で表すのであれば、二〜三個分といったところか。収容人数は席の数で表すと二百人ほど。ただし、長机のため一つにつき、三人座れるというところを考慮してもやはり広すぎる。
「それに関しては、仕方がないことだ。教務課の方で使われていない教室を調べてもらったところここしか空いてなかったからな」
「そうなんですか。ですけど、本当にこの教室でいいんですか? 前期と後期ではまた教室の配置とか各教科で変わるじゃないですか? それに部室棟って、たしかキャンパスの外れのところにありましたよね?」
大学では、前期と後期で分かれていて、教室の配置も毎回変わってくる。前期の数学は四号館だったのに後期では五号館ということも珍しくはない。いずれはこの教室も授業で使われてしまうのではないか?
それと、学内にもちゃんとサークル専用の部室棟という建物が存在している。
俺自身、サークル関係者ではないため、今まで入学してから一度も行ったことはないのだが、大学のパンフレットなどで見たことがあり、たしか二階建てだった。あそこには部屋が空いてなかったのだろうか? まぁ、普通に考えて空いてないからここにしたんだとは思うけど……。
「そのことについては問題ない。今は部員一人だからこの教室が仮部室になるのだが、あと二人集めれば、正式なサークルに昇格できる。というわけなんだが、今日から部員集めを君に頼みたい」
「いや、ちょっといきなりすぎて何を言っているのかわからないんですけど……」
部員集め? この俺が? 無理無理無理無理ッ! ぜーったいに無理ッ!
コミュ力の低い俺が部員勧誘とかまじで言ってんの? 下手したら何か怪しいものだと思われて通報されかねないぞ。
だが、南原先生は俺の前まで移動してくると、優しい微笑みを向け、そっと肩に手を添える。
「君ならできるさ。私はそう信じてる」
「信じられても困るんですけどね……」
無責任な期待を込める大人とかよくいるけど、あれは個人的に良くないと思うよ? 勝手に期待しておいて、いざ思い通りにならなかった時はその人を突き放すような行為をして。
もちろん、思い通りにならなかったとしても「次ならできる」「よく頑張った」とか励ましてくれる人もいるにはいるが、俺が今まで出会って来た大人は全員そういう人ではなかった。
––––南原先生もきっとそうに違いない。
逆に集まらなかったら集まらなかったでサークル自体も自然消滅するかもしれないし、これは考え方によってはチャンスかもしれない。
「わかりました。やればいいんですよね」
「ああ、一応期限を設けておこう。来週までになんとか頼む」
南原先生は、それだけを言うと、そろそろ時間ということもあって、教室からそそくさと出て行った。
部員集めなんて俺が真面目にやるとでも思ったか? 成績に関することならまだしもこんなサークルなんてやりたくねぇ!
俺も少しした後、残りの時間を家で勉学に充てるため、教室を出た。
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