第11話 サークルの勧誘①
なぜだろうか?
大学での授業が午前中に終わり、帰ろうかと思っていた矢先。
俺は学内にある七号館の五階にある南原先生の研究室に来ていた。
……いや、来ていたという表現には少し語弊が生じるかもしれない。正しくは呼び出された。
なんの用事で呼び出されたのかはわからない。ただ、今わかっていることと言えば、俺が書類整理を強制的にやらされているということだけだ。
研究室に備え付けられたパソコンのキーボードをカタカタと鳴らしながら、書類を作成していく。
率直に言うけど、これっておかしくない? なんで生徒の俺がこんな事務作業をしなければならないわけ?
そう不満に思っていると、横で似たような作業をしていた南原先生に頭を叩かれた。
「こら、ちゃんと仕事せんか。提出日は明日までなんだぞ?」
「いやいや、そうは言いますけど、あれもこれも全て南原先生がやらなくちゃいけないものじゃないですか。生徒の俺には関係ないことだと思うんですが?」
「そうか。じゃあ、君の評価はゼロにするが……それでもいいか?」
「なに堂々と生徒を恐喝してるんですか……」
そう言うと、南原先生は失礼極まりないと言いたげな表情をして、ため息を吐く。
「もともとは君がいけないだろ? あのナメくさった論文……。文章の一つや二つもまともに書けやしないのか?」
「バカにしてるんですか? 文章くらいちゃんと書けますよ」
「なら、なぜ書かなかった?」
「論文というものはそもそも自分の意見を述べるために書くものでしょ? 自分の考えていることを書かずに成績だけを気にして書いたような薄っぺらい論文よりかはマシだと思いませんか?」
南原先生は少し思案顔になりながらも、その続きを目で促してくる。
「つまりです。俺が書いた論文の方が現実味があって、なおかつ他の人より内容がちゃんとしっかりしている。あの論文を読んで南原先生はそれでもナメくさっているとでも言うのですか?」
我ながらに説得力がありそうでないことを言えたと思う。自分で発言していて途中でそのことに気づいた。恥ずかちぃ。
「君が言いたいことはなんとなくわかった。が、私が出した論文の課題は『鹿児島をどう発展させるか?』だ。それなのに君はリア充どもがパンパン夜な夜なやればいいだの書きやがって……。私の問題文が読めなかったのか? 誰が人口減少についてどう対策すればいいのかって出題した?」
「ち、ちょっと待ってください! 俺はそこまで書いてないですよ! せいぜいリア充が毎日性行為をすれば子どもができ、人口が増えるとは書きましたけど……」
「いずれにせよ同じだろうが。君の論文を読んでいて私はとても恥ずかしくなったよ」
南原先生は頰を赤く染め、本当に恥ずかしそうにする。
なまじ美人なだけに一瞬ではあったけど、見惚れてしまいそうになった。いかんいかん。生徒と教師の禁断の恋はいかんぜよ。
「とにかくだ。私も本当は君の論文を破り捨てて、評価ゼロにしたいところではあったが、なにせ心が広い。大目に見てやってあげるからさっさと仕事しろ」
そう言うと、南原先生は再びパソコンに向き直る。
給料も出ないのに、大量の事務作業をやらされ、隣にはパワハラ上司ならぬ教授……どこぞのブラック企業だよ。
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