第8話 星川愛夏とデート③

 買い物を済ませた俺と星川は、建物の外に出ると、天文館通りを歩いていた。

 先ほどのショッピングモールと同様に繁華街ということもあって、人通りが多い。

 左右を見渡せば、飲食店やドラッグストア、サービス業と多種多様な店が立ち並んでいる。

 ふとスマホで時間を確認すれば、もうすぐで十二時。そろそろ昼食にしても良さそうだ。


「カイくん、昼ご飯どうしよっか?」


 隣を歩いていた星川がこちらに顔を向け、尋ねてきた。

 全て任せると言ったはずなんだけどなぁ……。

 星川の目は期待に満ちていた。まるでどこに連れて行ってくれるのか楽しみ! と、言った感じで……。


「じゃあ、俺が食べたい物で店を選ぶから文句とか言うなよ?」

「うん、言うわけないじゃん(笑)」


 それから数分後。

 俺はとあるラーメン店に入っていた。

 鹿児島と言えば、やはり氷白熊だが、ラーメンも負けてはいない。

 年に一回、鹿児島ラーメン王決定戦というものが錦江湾沿いにあるドルフィンポートで開かれる。県内のラーメン店が集い、味などを競い合ったりして、王座を決めているのだが、それくらい鹿児島県民はラーメン好きだ。

 今来ているこの店も昨年のラーメン王。

 店内はぎちぎちに客が詰まっていて、とても暑苦しい。ちなみに女子は星川のみである。


「カイくん……さすがにここはないんじゃないかな?」


 星川は店内の様子を見るなり、顔を引きつらせながらそう言う。


「文句言わないんじゃなかったのかよ……」

「そ、それは……でも」

「いいから、入るぞ」


 せっかく十分近くも待ったんだ。こんな人気店で十分待ちはむしろ早いし、運がいい。

 どんなラーメンが出てくるのだろうか……。別に俺自身そんなにラーメンは食べないが、やはりラーメン王の味というものが気になって仕方がない。

 俺と星川はカウンター席に着くと、さっそくメニュー表に目を通す。

 そして、決まったところで注文を終えると、約一分という早さで注文品が俺たちの前に置かれた。

 見た目はこってりとしていて、スープは油だらけ。肉厚のチャーシューと麺がテカテカと光を反射している。

 それを見た星川の表情はこの世の終わりでも告げられているかのようになっていた。

 まぁ、女子は体重とか食事関係には気をつけてるから、無理もないか。


「いただきます」


 俺はそれだけを言うと、割り箸を割って、麺を啜る。

 ––––って、何コレ……?

 麺を口に含んだ瞬間、スープの風味が鼻を駆け抜け、噛めば噛むほどに美味い……。ちょっと語彙力がなくなってしまっているが、要するにそれくらい味に驚かされたというわけだ。

 隣に座っている星川もおずおずといった感じで割り箸を割って、麺を一本摘み上げる。

 どのくらいか麺と睨めっこした後、口に運んだ。


「ん"んんんんんんんん〜!!」


 一瞬にして星川の顔がトロける。


「な、なんなんですか! この美味しさは?!」

「俺に訊くな。俺はここの店主じゃねーよ」


 それからというもの完食するまではあっという間だった。特に星川なんて俺より後に食ったのに気がつけば、丼ぶりの中は空っぽ。すごくご満悦そうな表情をしている。


「ま、まぁ……女子が行きづらい場所に連れて行ってくれたということは評価しなくもないです……」

「あっそ」


 というか、趣旨変わってね? 別に俺は星川にご満悦してもらうためにここへ連れて来たわけじゃないからな?

 まだ並んでいる客がいる。

 素早く会計を済ませると、俺たちは店の外へと出た。

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