第7話 星川愛夏とデート②
約一時間後。
やっと電車は中央駅内のホームに到着した。
ドアが開くと同時に人が溢れんばかりに車内から流れ出し、俺と星川も押し出されるような形でホームに出る。
ふと星川を見ると、顔が青白い。人混みに酔ったのだろう。
「大丈夫か? 少し休んだ方がいいんじゃないか?」
俺はそう言い、近くにあったベンチを指差す。
が、星川は首を横に振り、拒否をする。
「ううん、大丈夫だから……。それより友だちがもう来てるかも」
そう言うと、星川はすぐにバッグの中からスマホを取り出して、画面を開く。
やはり陽キャということもあり、スマホの操作に関しては結構手慣れている感じがある。友だちにラインでも送っているのか、文字入力のスピードが俺と比べて断然に早い。親指が別の生き物にすら思えてしまうレベルだ。
一通り、文字を入力し終えたらしい星川はそれを送信。ものの数秒後に着信のメロディが鳴った。
「え……?」
「どうしたんだ?」
画面を見ていた星川の表情が固まった。
何があったんだろうかと気になりつつも、星川の様子を窺っていると、少し申し訳なさそうな顔をして俺の方に向く。
「その……なんか、急用が入ったらしくて今日は無理、みたい……」
「そうか」
急用が入ってしまったことには仕方がない。来れなくなった時点で速やかに連絡をしなかった相手も悪いが、こればかりはどうしようもできない。
となると、今日のデートは中止だな……。
「だから……今日は、あ、愛夏と二人きりで、で、デートを––––」
「帰るか」
「……って、え?! なんで帰るの!?」
「なんでって、星川が俺を誘った理由は彼氏のフリだっただろ? ダブルデートもなくなった今はもうその必要性はないだろ」
「そ、それはそうだけど……せっかくここまで来たんだからどこか行こうよ!」
「そう言われてもなぁ……」
早く家に帰って、積みゲーや積みラノベを消化したいんだけど。それと、勉強もしなければならない。
俺にとってはこの後の時間は非常に無駄だ。無駄なことにかまけているほど暇ではない。
ちょうど反対側の路線に指宿・枕崎方面の電車が入って来た。
切符は買ってないにしろ、料金は向こうの駅でも後払いはできる。
「じゃあ、俺は帰るから」
「ちょ、ちょっと待ってよ! この後のお金は愛夏が払うから! ねっ? いいでしょ?」
そう言って、俺の腕を両手で掴み、いかにも帰らせないと言わんばかりの表情をしている。
目頭には、若干涙が溜まり、頰も赤く染まっている。
女子にここまで言われてしまえば、正直帰りたくても帰りづらい。
周りの目なんてものは気にしてないし、そもそも電車のエンジン音だったりでうるさすぎて俺たちの会話すら聞こえてないだろう。
すがるような瞳を俺に向け、じっと見つめてくる星川。
俺は諦めたようなため息を吐くと、足先を変え、ホーム出入り口の方に向く。
「一応言っておくが、この後のプランは全て星川に丸投げするからな? それでもいいなら早く行くぞ」
そう言うと、星川の表情がみるみるうちに明るくなり、ニパァ〜とした笑顔を見せる。
「うん!」
なんでこんな俺と二人で出かけたいのやら……理解ができない。
そもそもこれはデートの部類に入るのではないか? デートの定義が何なのかは詳しくは知らないが、だいたいは男女二人きりで出かけたりすることを示しているわけだし……。
まぁ、俺と星川はそんな関係にはならない。ただの知人と出かけているという考え方なんだろう、きっと。
俺は星川に腕を引かれるがまま、人々が混雑したホームを後にした。
☆
駅のホームを出て、少し歩くと同じ建物内に商業施設がある。地下一階から地上三階の計四階建ての施設内には、複数の専門店が入り、休日の今日は大勢の客で賑わっていた。
そんな中で俺と星川は人混みをかき分けるかのようにして、主にファッション関係の専門店が軒を連ねる二階を歩いている。
俺は別にファッションには興味がないのだが、何やら星川の方が買いたいものがあるらしい。
それに対し、なぜ俺が付き合わなくちゃならないんだとか疑問に思うところはあるが……まぁいい。どうせ暇だし。
そんなことを思っていると、ふと星川がある店に足を運ぶ。店の名前を見ると、俺ですら知っている有名ブランドの店だ。
有名ブランドと言っても別に高級とかではなく、どちらかというと庶民派みたいな? そんな感じである。
俺も星川の後を追うようにして入店する。
「今流行りのアイテムとかが欲しいんだよね〜」
そう言いながら星川は商品を物色。俺にそんなことを言われても困るんだけどなぁ……。流行りとか興味ないし。
「なぁ、外で待ってていいか? 特に何もすることがないだろ?」
「いや、ダメ! カイくんには試着担当をしてもらうんだから」
「試着担当?」
何そのぞっとするような単語? 俺に一体何をさせる気?
嫌な妄想が頭の中で膨らみつつある中で星川は後付けをするように単語の説明をする。
「べ、別にそういう意味じゃなくて、愛夏の試着姿を見て感想を言って欲しいというか……」
「そ、そうだよな!」
一気に気まずい空気になってしまった。
星川は若干頰を赤く染めながらも、気を取り直して洋服物色を再開させる。
どのくらいか店内を見て回ったところで気になる洋服を見つけたらしく、試着室の方へ向かって行く。
「カイくん、ちょっと試着してくるから……そ、その、感想言ってもらえるかな……?」
「あ、ああ……」
ということで星川は試着室の中へと入って行った。
それから数分後。
試着室のカーテンがガラガラと音を立てながらゆっくりと開く。
「ど、どう、かな?」
恥ずかしがるような上目遣いで俺を見つめてくる。
白のフリルが所々に付いたシャツにギンガムチェックのミニスカート。
「に、似合ってんじゃねーの?」
あまりにも似合いすぎて、つい目線を逸らしてしまった。
やっぱりファッションは大事だな。おしゃれしている時と、してない時では女子の印象は大きく変わる。
今、目の前にいる星川もそうだ。意外と可愛いんだな、こいつ。
俺の感想を聞いた星川はご満悦そうに「えへへ」と照れ笑い。
「じゃあ……これにしよっかな」
「本当にいいのか? まだ試着したいものとかあるんじゃないのか?」
「それはあるにはあるけど……なんかこれがいい。カイくんが初めて感想を言ってくれたから」
星川の微笑みに思わず、見惚れてしまった。
そんな俺を知らずして、星川は再び試着室のカーテンを閉める。
女子とのデートってめんどくさいと思っていたけど……案外いいものだな。そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます