第14話 はぁ...疲れた
「……ん!――――アさん!」
(ん…?うるさ……なんだ?)
薄っすらとぼやけている思考の中にノイズが響き渡る。微かに聞き取れるその音の正体は恐らくだが女性の声。
本来であれば綺麗で澄んだ小鳥のさえずりかの様な心地の良い声なのだが、未だ抜け切らない疲れと喪失感により気怠さの極地にいる今この時においてソレは不快なノイズに他ならなかった。
「レイアさん!起きてください!」
「…ッ? ユーリさん…? どうしたんですか…」
目を開けるとそこには美人受付嬢のユーリさんがいた。
その顔は半泣きで怒っているような、意図的には作るのが難しそうな複雑な表情を浮かべながらこちらの事を見ている。
(というか……ここはどこだ?)
どうやら自分は横になっている様で、天井だけではこの場所がどこなのか把握する事は出来なかった。
だが1つだけわかったことがある。それは自分が死んでいなかった。という事だ。
身体を起こし辺りを見渡しようやく理解する。どうやらここは冒険者ギルドの様だ。
おぼろげだが最後の記憶では自分が力を出し尽くし気を失うところだった筈、となると何故自分が冒険者ギルドにいるのか不思議になってくる。
「どうしたじゃありません!ただの薬草採取のクエストだったのになかなか帰ってこないから心配していたら、他のクエスト帰りだったパーティーの方達が貴方をここまで運んで来てくれたんです!――――何があったのか聞いたら街の外で貴方が倒れていたって!」
なるほど、野蛮な見た目をしている者ばかりの冒険者にもいい人っているもんなんだな。
そんな呑気な事を考えてしまうのは恐らく今の自分の状況に現実味が無いからだろう。生き死にの戦いを繰り広げて、その上で生還した。
ごくごく平和な日本という国で暮らしたいたのだから、そんな状況に現実味を感じられないのも無理の無い話なのだが。
だが実際問題あの後どうなったのだろうか。自分が生きているという事は最低でもあの魔物が逃げ出す程度のダメージは与えられたって事……なのだろうか。
「あー…そうだったんですね。すいません心配をおかけしたみたいで…ちなみにその時の状況ってどんな感じだったかって聞いたりしましたか?」
「ほんとですよ!あれほど無茶はしないでくださいって言ったのに!」
(俺も出来れば無茶はしたくなかったんですけどね……。さすがにあんな化け物に遭遇するなんて想像もしてなかったからな…)
街のすぐ外にいるのがあのレベルだとすると、俺って自分で思っていたよりもだいぶ弱いのかもしれない。だとするとこれから俺はどうやってレベルを上げていけばいいのだろうか、そんな不安が過る。
「どんな状況も何も、ただ貴方が倒れていてそれを見かけた優しい冒険者さん達がここまで運んできてくれただけですよ!
冒険者さん達は多分ルーキーが調子に乗って魔物に攻撃して反撃にあって命からがら逃げてきたんだろうって言ってましたけど……。
――――本当にもうっ。もし貴方を見つけたのがタチの悪い人達だったら色んな物を盗まれていたかもしれないんですよ?」
「そうだったんですね……。いや本当に言い訳の仕様もございません…これからはもっと気を付けます…」
まさか薬草採取のクエストを受けただけで自信喪失するはめになるとは思ってもいなかった。
思わぬ形で街の外の恐さを知ってしまったが、通常の魔物であれだけ強いのだ、魔王なんて一体どれ程の強さを誇るのか想像すら出来ない。
――――なんか一気に自信を無くした…
「レイアさん。もしどうしてもモンスターを狩りに行きたいなら、次からはPTを組んでから行くようにしてください――――正直、せっかく冒険者になったのに街中でのお手伝いや薬草採取ばっかりしていたくないっていう気持ちはわからなくもないので……」
「PT…?」
そうか!パーティーか!それは完全に盲点だった。剣士としての力は正直自信は無いが、魔法に関しては見た目だけならとりあえずは人並みに使える。
もし俺の魔法の威力が他の人達よりも弱かったとしてもPTだったら他の火力職もいるはずだしそこまで悪目立ちもしないだろう。
「そうPT! クエストの紙が貼ってある板の隣にもう一つ板があったでしょ?そこはPTメンバーが不足してるPTがメンバーを募る所になってるんです」
「そうだったんですね。たしかにこんな事になっちゃった以上一人で魔物と戦うのは少しだけ恐いですし……探してみようかな」
そう俺が口にした事で、ようやくユーリさんの表情がいつもの穏やかなモノへと戻った。
「よかった!是非そうしましょう!
でも……皆がみんないい人達ってわけでもないのでPT選びは慎重に。ですよ?」
まぁそりゃそうだよな。幸運な事に俺はまだこの冒険者ギルドで悪い人に会っていないけど、あれだけみんなガラ悪いんだし悪い奴も腐る程いるだろう。
とりあえず今日は薬草採取のクエストの報酬だけ貰って安い宿を探して寝るとするかな。
――――さすがに疲れた
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