第15話 はぁ...身体痛い



 やっぱりと言うかなんというか薬草採取の報酬で泊まれるような宿屋は全然なかった。

 かろうじて見つけた所も最早ボロ屋なんて言葉で済ませていいのかもわからない程に酷い所だった。

 もちろん食事は無いし、ベッドなんて高価な物もある筈が無く床に布が二枚置いてあるだけ。しかも壁には無数の穴が開いていて外の騒ぎ声やらなんやらが丸聞こえで寝付くのにも相当な時間を要した。


「日本のホームレスでももっといい布使ってるぞ…」


 そんな愚痴を吐きながら俺は、やっとの思いで眠りにつく事が出来たのだった。



――――――――――――――――――――――――



「んー… 。あー身体痛い…。」


 翌朝、これまた外から聞こえる人々の喧騒で目を覚ました俺は体中の骨が軋む様な痛みを全身に感じながら伸びをする。

 本当に一応だが眠る事には成功出来た様で安心する。さすがに昨日のあのままの状態で今日も魔物と戦ったりしたら死ぬ気しかしないからだ。


 ――――当然ながら朝ごはんが出てくる筈も無いので、さっさと宿屋を出てギルドへと向かう事に。

 昨日の夕暮れ時、ボロボロの身体を引きづりながら通ってきた道を逆から歩いて行く。談笑しているおばちゃん達や走り回っている子供達の姿を見ていると、まるで昨日起きた全ての事が夢だったかの様な錯覚に陥りそうになる。

 こういった平和な空間を守る為に自分は頑張っているのだと思うと多少ではあるが元気が湧いてくる様な気がした。

 

 ギルドに着くとそこには昨日ほどの騒々しさは無かった。さすがに朝から飲んだくれてる様なヤツはこの世界でも多くないのかもしれない。


「PT募集…PT募集…っと」


 (おー、なんかこう見ると魔法使いって結構需要があるみたいだな)


 こちらからすれば何の文句も無い理想的な需要供給の形なのだが、純粋にある疑問が浮かぶ。


 (うーん、どうしてこんなにも魔法使いの募集が多いのだろうか。俺からすれば剣士や近接職の方がよっぽどリスキーだし皆やりたがらない様な気がするんだけどな)


 魔法使いを募集してるPTは4つ、内2つはB級以上なのでまず無理として……あとの2つがF級の「悪殺」と「チーム・サニス」

 申し訳ないが「悪殺」の方はPT名の時点でちょっときつい…。もう片方の名前も意味はよくわからないけど隣のと比べたら天と地ほどの差があるのは間違いない。

 どっちにするかは即決で決まっていたが、ただなんとなしに掲示板の前に立っていると不意に後ろから声をかけられた。


「おう兄ちゃん!PTを探してんのかい?職業は?」


 振り返ると――――チンピラがいた。


 最初に会ったサウロもなかなかにいかつい顔をしていたが、サウロの場合はガタイもいいしなんとなくだが貫禄の様な物を感じた。

 だがこいつは見た目通りのただのチンピラにしか見えなかった。線も細いしなんとなく素行の悪さをうかがわせる様な雰囲気を醸し出している。


「そうだね、一応探してるかな。職業は…魔法を使って戦おうと思ってるよ」


「おっ!魔法使いか。いいねーうちのPTも今魔法使い探してるんだよ。ちなみにランクは?」


 おいおい待てよ――――まさか……


「昨日登録したばっかりでね。まだGランクだよ」


 Gランクという言葉を口にした途端、チンピラの態度が急変する。それまでも若干上から目線の様な感じの話し方はしていたがまだ剣呑な空気はなかった。

 だがこちらのランクを聞いた途端、その瞳に明らかに侮蔑の色が浮かんだ。


「ッチ んだよGランクのペーペーかよ。んな奴どう使えっつうんだよ!ちなみにうちのPT名は「悪殺」だ!間違っても応募なんかしてくんじゃねえぞッ」


 (やっぱりかーお似合いの名前過ぎるだろ…)


 ――――ていうか間違っても入れてくれなんて言う気無かったのに勝手に先にフラれたんだが……。


 (なんだか少しだけ悔しい…)

 

 そもそもGランクとFランクってそんなに違うのか?どっちも同じ初心者の括りだと思っていたから少し意外に感じた。 

 今の感じだともしかしたらもう1つの方にも断られる可能性も全然あるのかも知れない。さすがに1日に2回もフラれるのは心に来るモノがある。

 

 だが背に腹は代えられない。今日お金を稼げなかったら俺はホームレスになって餓死するからだ。


 (とりあえず……猛アプローチして入れて貰うしかない!)


「すいません チーム・サニスってPTの募集を見まして是非入れて貰いたいと思ったんですが…どうしたらいいですか?」


 さっきのいざこざ?のせいで出だしから微妙な気分になってしまったが、それを振り払い受付のお姉さんへと声をかける。

 どうやら今日はユーリさんは非番らしく、そうなると他に対して顔見知りもいない為知らない受付嬢のところへと向かった。

 だがある意味先程の見事な玉砕劇をユーリさんに見られなかった事は不幸中の幸いかもしれない。俺にPTに入る事を勧めたのは彼女だ。別にこちらはその事に対して感謝以外の感情など持ち得ていないが、今の光景を見られていたら彼女的に何か思うところもあったかもしれないからだ。


「チーム・サニスですね。でしたらあと1刻程したらメンバーの方々が来ると思われますのでその頃にもう一度いらしてください」


 (なるほど。今はまだいないのか。どうしようかな、お腹減ったけどお金も無いしなぁ)


 ――――――切実にすることが無い。


 特に変化も無いと思うがステータスでも見てみようかとも思ったが、そもそも何も倒したりしていないし見るだけ無駄なのは間違いない。ただでさえ疲れの溜まっているこの体に無駄に出血までさせるのは少し気が引けた。



「こっちの世界も空は青いんだな」



 ――――それから俺は1時間ずーっと窓から空を見ていた



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