第1章 幼馴染

          「今日は全国的に晴れが続くでしょう」


ニュースを見ながら3人で朝の食事をとる…極々平凡などこにでもありそうな家庭。


 少し変わっているところといえば家族全員の髪の色が青色なくらいだろうか。


  「今日は高校の入学式ねぇ、遅刻しないようにね」

俺の視点からでも美人な方だと思えるこの人は「雨ヶ谷 雫」

 母さんだ。


  「…ん、あぁ」


  「どうした元気ねぇなぁ、人生1度しかない高校の入学式だぞ!!」

このどうしようもないくらい元気溌剌なやつは「雨ヶ谷 湊」

 おれの父さんだ。


  「…そう思うなら学校にちゃんと話、通しといてくれよ。この髪だと色々面倒なんだよ」


      ――中学の入学式の日いきなり先生に呼び止められた――

  「おい、そこの君!!なんだその髪は?」


  「…?地毛ですけど」


  「そんなわけあるか!!」


周りに他生徒がいる中、そんな押し問答を5分くらいやった末に結局親を呼ばれ

 まぁ、そこで一応は解決したのだが周りの生徒には不良だのなんだのと騒がれて中学の入学式は嫌な思い出になっていた。


「まだ、中学の頃を根に持ってるのか。

  あの頃は父さんらも初めてだったからな…

 だが、安心しろ!!今回はちゃんと学校に話つけといたから」


父さんはあの性格だし子供の頃、こんな気にはならなかったんだろう。


「時雨…世の中には私達の家系に理解が無い人はたくさんいる。     

 私たちは時雨のその気持ちは完全には分かってはあげられないのだけれども

新しい環境に身をおくたびにそれはついてくる。だから…頑張ってね」


最後は口をつぐみながらも母は父さんよりは理解がある方だ。

 俺は母さん似なのだろう。


「それに、梅雨だって入学式じゃねぇか安心しろって!!」


その肝心な妹は中学の入学式をむかえている

今は…


 「やばい!!遅刻するーなんで起こしてくれなかったのぉ」

上の階からドタバタと降りてくる…妹だ


 「中学からは自分で起きなさいって言ったでしょ」


 「ちゃんと目覚ましかけてたもん!!でも癖で小学の時と同じ時間にセットしちゃってたぁ」


家からは小学校より中学校の方が遠くなっていて、間違えるのも無理はない

 

「にぃには、良いよねー高校が近いからってのんびりしちゃってさ」


朝から騒がしいこいつは「天々谷 梅雨」

俺の3つ離れた妹だ。まぁ見ての通り…父さん似だ。


颯爽と食卓に現れてスープを飲みパンを片手に

 「行ってきまーす」

どこの世界の少女マンガの主人公だ。

まぁ、少し抜けているところはあるが勉強も運動もできる優秀な妹だ。


 「忘れ物は無いのね?気をつけてねー」


ガチャっと妹が玄関のドアを開けるとそこにインターホンを押そうとする人の姿があった。


 「あっおはようございます、待ってて今にぃに呼ぶから。にぃにー雷華ちゃんきてるよー」


 「あぁ分かった。今から行く」


 「全くお前は高校生にもなってまだ迎えにきてもらうつもりか?

 いい加減お前から迎えに行ってやったらどうだ?」


 「…あいつの方が早起きなんだし良いだろ?」


やれやれこれだからと言わんばかりの顔をする父さんを横目にカバンを持って俺もリビングをでる。


 「ごめんねぇ雷花ちゃん、時雨をお願いします」

 「大丈夫ですよ、慣れてるんで。日課みたいなものですし」


母と話しているこいつは「天咲 雷花」

家系的に親の付き合いがあり幼稚園の頃からずっと一緒にいる。

幼馴染みたいなものだ。


 「行ってきます」


迎えにきてくれている雷花には特に何も言わず家を出ていく時雨を見て、母も少しため息を漏らす。――――――――



 「……」

高校入学までの休みの間、理由も無かったので会うこともなかったが

 つもり積もった話があるというわけでもない。

なんでこんな状態でも友達でいられるのか…

 世間一般からしたらよく分からないが、10年以上ずっと一緒にいた仲だ、お互いになにを言わずとしても察しがつく…そんな関係。


 「入学式…面倒ごとにならなければいいけどね」


 「お互いにな」


雷花も黄色がかった短い髪を揺らし…

短い…?


 「…お前、髪切ったのか」


その言葉を聞いて普段あまり表情が変わらない雷華も眉がつり上がる。

 「今、気づいたの?」


 「…わりぃ」


(流石に不味かったな、10年以上一緒にいてパッと見で気づかないのは…)


気をつかおうと言葉を選ぶ時雨を見て

 「良いわよ…あなたの周りへの感心は大体わかってたし」


しかし中学まで長いロングだったのに高校生になって急にショートにするとは…


 「いや、まぁなんだ…似合ってるよ」

 

 「…冗談」


 「本心なんだが」


そんな少なからずも多からずの会話をしながら高校に向かう2人


男の方は少し気怠そうにしているが、側から見れば美男美女の完璧なカップルである。

 2人を見てひそひそと何かを話している様は少なくない。

そんな周りにも慣れた様子で歩きながら20分もたたずに学校の門まで来た。


 「やっぱ近いな、楽で助かる」


 「あとは先生にちゃんと話が通っていれば良いわね」


校門の前に立っている先生を見ながら少し立ち止まり、そして歩き出す。


 「ん?君たちっ!!」


内心舌打ちをしながらも、近づいてくる先生になんと言い訳をしようか考える時雨。

こういう時、雷華は全くといってもいいほど頼りにならない。

俺や見知った仲以外のやつらとは全く喋ろうとしないからだ。

案外面倒を見ているのは俺なんじゃないかと思いつつも言い訳を考えていると


 「2人とも名前を聞いて良いか?」

と先生が言った。


それを聞いて少し安心したように

 「俺は天々谷時雨 こっちは天咲雷花だ」


先生は少し不思議そうに言う

 「おかしいなぁ入学は2人だけって聞いてたんだけどなぁ…

まぁいいか2人とも天名だし!!

ごめんね時間とっちゃって、まぁ色々あるだろうけど君たちも頑張ってね!!」


そう言って去っていく先生を見て

 「もう一人いる?」


 「まさか」


 「雫さん、何か言ってた?」


先生が言う天名とはその名のとおり苗字の最初に「天」がつく家系のことである。

親同士で連絡をとりあっていて、なにか変わったことがあれば親から聞いているはずなんだが


 「…いや、特になにも」


今回に関してはなにも聞いていない。


 「まぁ、何事もなく教室に行けそうだし良いんじゃない?」


 「…お前はなにも言ってねぇけどな」


そんな嫌味を遮るように雷華がいう


 「そんなことよりクラス表を見よう、間違って違うクラスになってるかも…」


天名の姓がつくものは一つのクラスに集められる。

 まぁその方が学校側としてもこちら側としても楽だからだ。

クラス表を見ようとするも周りに人だかりができていてよく見えない。

 中には一緒のクラスになれただの、なれないだので一喜一憂している生徒たちも見られる。

少し羨ましくもある。

 「見えた。同じクラスみたい」


顔を見合わせて、雷花がうなずく


 「…なるほどね。そういうこと」


2人はどうしたものかと1つ厄介ごとを抱えて教室に向かっていくのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨のち晴れ @watagasi11084

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ