八話

 その日はきた。春彦が秋人の家に4WDの車を走らせて来た。


「悪いな、立派な車を格安で譲ってくれて」

「いや、秋人の旅立ちの餞別さ。無理をするなよ」

 最後まで見送りたいと春彦が言う。秋人は美冬達が住む山までついてきてもらった。同級生である美冬にも会えるということもあって楽しみにしていたようだ。

「よく思えば僕たち三人でよく山に登っていたな」

 春彦は昔話を始めた。

「か弱い美冬は僕らについて来て、しんどいとか言ってた。でも今じゃそんな山の上で暮らしている……不思議な感じもするな」

「……ああ」

 秋人は返事が少ない。美冬は待っているのだろうか。いくら大丈夫だと言っていたのにあの男の遺体が眠るあの家に置いて来てしまったことを後悔している。


 しかしその後悔は、嫌な予感に変換され、現実になってしまった。


 約束の山の麓で待っていても来ない。いつまでたっても来ない美冬を友と待つ秋人。スマホから電話をかけても美冬は出ない。


「もう約束の時間から2時間も経つぞ。美冬に何かあったかもしれない……」

「まさか山に行くのか?今から」

「それしかないだろ……幸い装備はある」

「おい、今は雪解けの季節だから雪崩の危険もあるぞ……秋人は初春の登山の経験はないだろ」

 春彦の制止を振り払い着替える秋人。

「いや、行く!お前は先に帰っててくれ。また連絡するからこの車は持って帰ってくれ。登山すると記帳はする……」


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