三話

 秋人は美冬たちの家に入り、リュックを下ろしてコート、長靴を脱いでマフラーもほどいた。

「いや、冬の山もどうかと思い挑戦したのですがかなりハードですね。春から秋にかけては登ったことがありましたが冬はさらに過酷だ。まさか美冬さんたちはここでずっとこんな生活をずっと……」

「毎年これよりももっと強い雪が降って出られない日々が続くの。あなたも少し休んだら帰るといいわ。暗くなる前に。」

 美冬は温かいココアを秋人に出す。


「いや、今日は雪が強くなるぞ……さっきも調べたろ。秋人さんは一晩泊まって行きなさい。朝にはマシになる。山に登る時はそれくらい調べてからきたらどうだ。山登りに精通しているのに何故そこまでして今日登りに来たんだ」

 男が強い口調で言うと秋人は頭を下げた。

「……実はこの街から離れることになりまして。どうしても最後に、最後に美冬さんに会いたかったのです。子供の頃から妹のように仲良く過ごしていた彼女に……それが今日しかなかった」

 男は溜息をつく。

「そんなの今のご時世、ネットでも連絡できるだろう。まぁたまに状況によっては電波悪くなるが五年前よりかは発展している」

「すいません、やはりどうしても……この目で……」

「にしても私の妻だ。君もそれなりの年、いい加減美冬につきまとうのはやめてくれ」

 男は口調がさらに強くなる。

「つきまとうなんて……秋人さんはお兄さんのような存在です。式の際にもいろいろと尽力してくださったし、毎年いろんな登山者の方を連れてきて、且つ環境活動もしてこの山のマナーもしっかり守ってくれている……」

「俺にはわかる、二人は昔付き合っていたのだろう! 」

 男がそういうと美冬と秋人はどきっとした。

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