なぜか重ねてあった

人にはいくつも心があって

薄い紙がひらひら浮いてできた

階段をそっと歩きながら

自分の心の数を数えた


それはきっと傷つく老化して

あの人のところへ続く廊下を

渡ってうつむいたまま


どこか遠くへ行きたい

正しく振る舞わなくてよいような

誰も僕の心の値打ちを調べぬような

火星のようなところへ


あなたを愛しているが

きっと手放すのがよいと気づいた

いつか年を取り閉じ籠り

アルバムさえ燃やそう


渇いた川のほとり

劣った私の心を尖った私の爪先を

誰かが磨いてくれるのを待っていた


どこか遠くへ行きたい

風の下に家がたつことがないような

誰もが自分のことで精一杯で

それでも幸せだった故郷へ


誰もが私の涙を泥だと蔑み

へこんで椅子のしたに隠れた僕を

本当は違うんだよね、と

優しく微笑んで見つけてくれた人がいて

真っ白に輝く時間が、

ピンクのシャーペンと

使い古した消しゴムとともに

なぜか重ねてあったのを

僕は思い出した


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る