第9話 優香への埋め合わせと罪滅ぼし

昼休み。真一は優香を探していた。


真一「あ、加藤さん、優香さん見かけんかった?」

加藤「いや、見てない」

真一「そうか…」

加藤「後で何か伝えよか?」

真一「悪いなぁ…。そしたら放課後、話あるって言うてくれへんか?」

加藤「うん、わかった」


放課後、図書館にて。

真一は図書館司書の富永先生の蔵書点検の手伝いをしていた。


加藤「ゆうちゃん、堀川くん、富永先生の手伝いしてるらしいよ」

優香「うん、わかった」

村田「呼んでこようか?」

優香「先生の手伝いしてるから、私、終わるまでここで待ってる。くーちゃん達、帰るなら、先に帰っててもいいよ」

村田「どうする?」

加藤「私、ちょっと用事があるから、先に帰るね」

滝川「じゃあ、私も帰るね」

村田「ゆうちゃん、いい?」

優香「うん、いいよ。ゴメンね」

村田「ううん、じゃあまた明日、バイバイ」


と言って村田・加藤・滝川は先に帰った。

優香は本を読みながら真一を待っている。

5時になり、真一が書庫から戻ってきた。


真一「あ、悪い悪い。待たせてしもうたなぁ…」

優香「ううん、大丈夫」

真一「ホンマにゴメン」

優香「いいよ。それより話って何?」

真一「明日土曜日の『埋め合わせ』の件なんやけど…」

優香「うんうん」

真一「何時スタートにする?」

優香「しんちゃんに任せるよ」

真一「何時でもいい?」

優香「いいよ」

真一「明日、昼飯もいい?」

優香「いいけど。どうしたん?」

真一「後で話す」

優香「今言うて。言いな❗」

真一「いま富永先生いてるやろ? 2人になったら話す」

優香「じゃあ、早いけど駅行く?」

真一「そうしよか」


2人は図書館を後にした。高校駅へ向かう。

いつものように、自動販売機でミルクティを2本買って1本を優香に渡す真一。


優香「ありがとう」

真一「おう」

優香「で、昼ごはんからなん?」

真一「写真の件や」

優香「男子にも見せたらしいなぁ❗」

真一「らしいなぁ…」

優香「困るなぁ…」

真一「困ったなぁ…」

優香「どうしてくれんの?」

真一「明日昼メシおごるわ」

優香「そんなんで私許すと思ってる?」

真一「アカンか?」

優香「いいよ(笑)」

真一「よし決まり。昼飯のあとはケーキや」

優香「明日はお腹いっぱい空かせておかなアカンなぁ(笑)」

真一「ナンボでも食べてよ。食べれるんか?」

優香「食べるんや」

真一「そうか…(笑)」


どうやら、真一の思い通りに優香の機嫌はよくなったようだった。


翌日、土曜日。真一と優香は予定通り昼メシを食うことに。

優香は自宅から自転車で、真一はバスに乗って北町まで出てきた。北町医療センターのバス停で待ち合わせ。真一がバスを降りると優香が待っていた。


優香「おはよう」

真一「おはよう、っていうかこんちわ(こんにちわ)やな」

優香「あ、11時か。そうやなぁ…」


優香は自転車を押しながら真一と歩いて10分程、2人が通っていた幼稚園近くのファミレスにやって来た。


店員「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

真一「2人です」

店員「こちらへどうぞ」


2人は一番奥の2人がけの席に着く。


優香「なんかここ、久しぶりなんやけど」

真一「オレもや(笑)」


そう、幼稚園の卒園式の時、真一親子と優香親子が食べに来たファミレスだ。


真一「確かあの時、優香ちゃん寂しそうにしてたんや。で、オレが見かねて優香ちゃんの頭撫でてたんやったっけ?」

優香「覚えてへんわ。でも卒園式の後で食べに来たのは覚えてるわ」

真一「参観日とかあったら、大概帰りに母親とここに来て昼飯食べてたわ」

優香「近いもんなぁ」

真一「そこ、曲がった所が幼稚園やでなぁ」

優香「しんちゃん知ってる?」

真一「ん?」

優香「ウチらの時、幼稚園の制服って青い薄っぺらいスモックみたいな制服やったやんか」

真一「そうやなぁ」

優香「ウチの弟の新次もウチらと同じそこの幼稚園やったんやけど、制服がなぁ、今ウチらの高校のブレザーあるやんか?」

真一「あるなぁ」

優香「あんなんやったんやで。どう思う?」

真一「え、マジか❗ あんな薄っぺらい制服やったんが、ブレザーって❗」

優香「ありえへん(ありえない)やろ?」

真一「ありえんなぁ」

優香「新次が入園した時、お母さんに『私の時とえらい違いや』ってボヤいてたんや(笑)」

真一「飯食ったら、幼稚園へ文句言いに行くか?(笑)」

優香「近いから?(笑)」


2人の会話は笑顔が絶えない。


店員「お待たせしました。ハンバーグセットになります」

優香「はーい」


優香は手を上げてハンバーグセットが優香の前に来る。


店員「お待たせしました、ハンバーグとエビフライのセットになります」

真一「はい」

店員「ご飯のおかわりは無料となっております。あちらにジャーがありますのでご自由にご利用下さい。どうぞごゆっくり…」

優香「じゃあ、いただきます」

真一「いただきます」


2人は黙々とハンバーグを食べた。

真一はご飯をおかわりして2人とも満腹になった。


優香「ここのハンバーグ、久しぶりやっておいしかったわ」

真一「それは良かった。食べたばかりやし、少し休むか」

優香「うん。飲み物とかいらない?」

真一「あ、何か飲むか?」

優香「うーん、ケーキまでガマンする」

真一「そうなん? 飲みたかったら飲んだらええやん」

優香「ううん、ガマンする」

真一「あ、そう」

優香「少しお腹を減らさなあかんで、少し歩きますか」

真一「そうするか?」

優香「うん」


2人はファミレスを出る。真一が会計を済ませる。


優香「ごちそうさまでした」

真一「お粗末さまでした」

優香「ありがとう」

真一「いいえ、どういたしまして。罪滅ぼしやから」


優香は微笑む。


優香「しんちゃん、お小遣い大丈夫なん?」

真一「大丈夫や」

優香「そっか…」

真一「気にせんでもいいよ」

優香「悪いやん」

真一「だから罪滅ぼしと埋め合わせしてんの」

優香「ゴメンね。いつもいつも気を使わせて、お金も使わせて」

真一「優香ちゃんですから、大丈夫や」

優香「どうして?」

真一「オレは手先が不器用や。出来んことはせん(出来ないことはしない)けど、出来ることをやってるだけや」

優香「そっか…ありがとう」

真一「おう。ここまで来たし、ついでに(幼稚園の)前通ってみるか?」

優香「行ってみる?」


2人は9年ぶりに幼稚園の門前にやって来た。もちろん、シャッターが閉まっている。


優香「変わらんなぁ」

真一「ホンマやなぁ。2人分のイス取りに行ってこなあかんなぁ」

優香「待ってるわ(笑)」

真一「イス取りの時の優香ちゃんの満面の笑みは、印象深いわ」

優香「そう?」

真一「あんだけおとなしい恥ずかしがり屋さんが、オレにめっちゃ嬉しそうな顔やったのが初めて見たから…」

優香「よう覚えてるなぁ」

真一「優香ちゃんと再会した時、ぶっ飛んでいた記憶が甦ったんや」

優香「そうやったんか…。それやったら、しんちゃんだっていつもニコニコ笑ってたから、しんちゃんの笑顔は印象深いで。今でも笑顔は絶えないしね」

真一「オレ、ただの笑い上戸なんやと思う」


2人は昔を思い出しながら、埋め合わせ会場へ向かう。


しばらくして、埋め合わせ会場のケーキ屋にやって来た。ここのケーキ屋はイートインスペースがあり、好きなケーキと飲み物をセットで注文するシステムだ。


優香「私はガトーショコラとミルクティ」

真一「オレはショートケーキとコーヒー」

優香「ショートケーキって普通やん」

真一「何でも基本が大事や。シンプルイズベストや」

優香「そう?」

真一「何でもそうや。基本があって応用があるわけや。そうやなぁ例えばカップ麺のレギュラー味があったとして、他に味噌味とか塩味とかも定番になって、チーズ入りとかチャレンジャー的なヤツとかあるやん? オレ、あんなんは要らんねん。普通がいい」

優香「新しいことに挑戦しないの?」

真一「不器用な人間には充分や。そりゃ挑戦せなアカンもんは挑戦するけどね…」

優香「ふぅん…」


この時、優香は何か思いついたようだった。

2人は店の奥のイートインスペースでケーキセットをほおばる。


優香「うん、チョコのビター感ええなぁ。おいしい❗ ビターな味は大人の味?」

真一「そうなん?」

優香「一口食べてみる?」

真一「食べてよ」

優香「食べてるよ。しんちゃん食べてみ?」

真一「う、うん。ええん(いいの)か?」

優香「いいよ。はい、あーん…」


真一は優香にガトーショコラを一口食べさせてくれた。真一は照れていた。


優香「どう?」

真一「うん、ビターが効いててあんまり甘くないなぁ」

優香「おいしい?」

真一「おいしい。なぁ、それより間接キスしたんやけど、大丈夫なんか?」

優香「嫌やった?」

真一「嫌ではないけど…。逆に優香ちゃんはよかったんか?」

優香「別に気にしてないよ。しんちゃんやし。ていうか、顔赤いし(笑)」

真一「そりゃ急にされたらビックリするやんか…。あ、ショートケーキ食べてみるか?」

優香「久しぶりに食べてみよか。今度はしんちゃんが私に食べさせてよ」

真一「間接キスで?」

優香「いいよ」

真一「間接キスしたいんか?」

優香「ええから、早くショートケーキちょうだい! 『あーん』もね(笑)」

真一「え❗」


真一は恥ずかしながら、優香にショートケーキを食べさせた。優香も顔が赤くなっていた。


優香「うん、おいしい。ショートケーキもええなぁ。ていうか、何顔真っ赤にしてんの?間接キスくらいで(笑)」

真一「あのなぁ…オレらはただの幼なじみなの❗ 何か勘違いしてるんか? それに優香ちゃんだって顔赤いし(笑)」

優香「勘違いしてないよ。しんちゃんの為やもん」

真一「なんで?」

優香「しんちゃん、私もやけど、こういうことしたことないから、慣れておかないとね…」

真一「何かあったんか? 恋患いでもしてんのか?」

優香「してない。さっきしんちゃんが『挑戦せなアカン時は挑戦する』って言うてたから…。今日な、しんちゃんが『埋め合わせ』と『罪滅ぼし』してくれたから、せめてものお礼。しんちゃん昔からやけど、優しいから。それに女の子とデートなんかしたことないやろ?」

真一「ないなぁ」

優香「だから今のうちに、幼なじみである私が一肌脱いだわけ」

真一「ありがとう。全然思ってもみなかったわ」

優香「うん。私も楽しいから(笑)」

真一「そうか…」


デート気分…というよりデートしている幼なじみの2人であった。


月曜日、優香と村田・加藤・滝川は朝から話し込んでいた。


村田「あ、そういえば幼稚園の写真のことで堀川くんから何かあった? ゆうちゃんこの間怒ってたけど…」

優香「あー、あったよ。ちゃんと『埋め合わせ』と一緒に『罪滅ぼし』してもらったよ」

滝川「堀川くん、どんな『罪滅ぼし』したの?」

優香「ハンバーグをごちそうになった」

加藤「ええなぁ、ハンバーグ」

優香「美味しかったよ」

村田「ええなぁ。『罪滅ぼし・埋め合わせ』という名のデートやったんや(笑)」

優香「そんなんちゃうわ❗」

加藤「え、ゆうちゃん、堀川くんと付き合ってるんじゃないの?」

優香「付き合ってないよ。ただの幼なじみ。また天然ボケや」

滝川「あながちそうかも。ゆうちゃんと堀川くん、2人ともそんな意識がなくても、自然体で付き合えるんじゃないの?」

村田「そうやで。ゆうちゃん、堀川くんのこと好きなんやろ?」

優香「嫌いじゃないけど、普段と変わらんよ、幼稚園の時から」


村田・加藤・滝川は首をかしげていた。


1学期も終わり、夏休みに入る。



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