第45話
「エイミ! ガキを殺せっ!」
「……え?」
「ガキを殺したら、お前は殺さないでやるっ!」
エドを殺せば、自分は死なずに済むのだろうか?
死にたくない。まだ死にたくない……。
エイミは右手に握った剣を見る。エドを殺すのは簡単だ。この剣で斬ればいい。エドの勇者としての能力は、自分よりはるかに下なのだから。
サアラとベルゼ。
この戦いに勝つのは、どちらだろうか?
勝ち目の高い方につくべきだ。勝ってほしい方につく、なんて馬鹿のすることだ。
どちらに勝ってほしいかと言われれば、それはサアラだ。サアラが勝ってくれた方が、自分にとって都合がいい。ベルゼはまともではない。気まぐれでエイミのことをなぶって殺すかもしれない。
エドを殺したら、サアラは激怒するだろう。
もしも、サアラが戦いに勝利したら、エドを殺したエイミをサアラは許すだろうか? いや、許すはずがない。
エドとサアラの関係がどんなものなのか、エイミは知らない。だが、仲がいいことはわかる。きっとサアラは、エイミにこれ以上ないくらいの苦しみを与えて殺すだろう。
では、エドを殺されたことに動揺してエイミが敗北したら?
ベルゼが約束を――エイミを殺さないという約束を守る保証はない。でまかせかもしれない。
先ほどの、ベルゼとサアラの会話を思い出す。
「話はエイミから聞いたぞ。そなた、聖王国の王と手を組んだのだな」
「ん、ああ……それなんだが……あいつは殺した」
「……そなたが?」
「そう。デモンスレイヤーは手に入れたし、もうあいつには用はなかったならな」
聖王国国王ライデルをベルゼは殺した。手を組んだのは、デモンスレイヤーを手に入れるためだろう。そして用済みになると、容赦なく切り捨てた。
自分も同じなのではないか、とエイミは考えた。
サアラを始末して魔王国の王になることができたら、エイミはもう用済みだ。魔族特攻のギフトを持っているヒューマンのエイミを生かしておく理由がない。
どんな選択を選んでもリスキー。確実性のないギャンブル。
エイミは静かに笑って、
「嫌よ」
「なぜだっ!? ガキを殺したら、お前を殺さないでやるというのにっ!」
「あんたが約束を守る保証がないからよっ!」
「俺の言葉が信じられないと? お前はそう言うのか?」
「ええ、そうよっ!」
「何だとっ!?」
ベルゼはエイミのほうを一瞬睨みつける。
その一瞬の間に、サアラの剣がベルゼを貫いた。
「戦闘中によそ見をするとは……」サアラはにやりと笑って、「愚か者め」
「ぐっ……」
ベルゼは血を吐きながらも、デモンスレイヤーを振るおうとした。その腕を、サアラの手ががっしりと掴む。
バキッ、と骨が折れる音がして、ベルゼは剣を地面に落とした。
サアラは左手でベルゼを突き飛ばすと、引き抜いた剣を薙いだ。その一撃は、ベルゼの腹部を真一文字に深く切り裂いた。
「……が……はっ」
ベルゼが倒れた。起き上がる気配はなかった。
死んだのだ。
「終わりは呆気なかったな」
呟くと、サアラはデモンスレイヤーを拾った。
「……貴様は誰だ? 魔族の男――ベルゼではないな?」
「うるさい。黙れ」
サアラは一瞬にしてデモンスレイヤーを屈服させた。
そして、少し歩いて周りに何もない(正確にはなくなってしまった)場所に行くと、デモンスレイヤーを地面に突き刺した。
「な、何をするつもりだ……!?」
デモンスレイヤーが慌てて叫んだ。
「何って……そなたを破壊するのだ」
「ふざけるな」
「ふざけてなどいない」
「なぜ、私を破壊するなどと……」
「そなたは魔族にとって脅威だからな。消え去ってもらう」
サアラはデモンスレイヤーに向かって手を突き出すと、詠唱を開始する。
「ま、待て待てま――」
宙に魔法陣が展開され、そこから放たれた黒い雷がデモンスレイヤーに直撃した。轟音とともにデモンスレイヤーは砕け散った。
「これでは壊せないかと思ったが、案外行けたな」
焦げて黒くなったデモンスレイヤーの破片をつまんで、サアラはそんな感想を述べた。
人生の終わりは、案外呆気ないものなのかもしれない。もちろん、劇的な終わり方をする者もいるだろうが、それはごく少数だ。
「さてと、王城に帰るか……」
戦いで崩壊した繁華街を見てため息をつきながら、サアラは歩き出した。
と――。
視界の隅で、何かが動いた。
それは、死んだはずのベルゼだった。
死んだと思っていたのだが、もしかしたら事前に復活系の回復魔法でもかけていたのかもしれない。満身創痍であったが、しかしそれでもベルゼは生きていた。
「俺は、ただじゃ死なねえぞっ!」
ベルゼは渾身の力で起き上がり、駆けだした。
彼が向かう先にいたのはサアラ――ではなく、エドだった。
今の自分ではサアラを殺すことはできない。だがしかし、サアラを絶望させることは――エドを殺すことは――できる。
「お前に絶望を味わわせてやるっ!」
エドを殺すのに、デモンスレイヤーなんていらない。貫手で十分だ。
ベルゼは貫手を放った。
ベルゼの手が槍のような凶器となり、エドに襲い掛からんとする。
そして――。
体を貫いた。
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