第40話
王城に戻るまでは特にアクシデントなどはなかった。
ライデルは自らの部屋に戻ると、ベッドに倒れこんだ。普段、それほど動かないので、地下迷宮を冒険しただけで、どっと疲れた。
「ベルゼがデモンスレイヤーを手に入れた。鬼に金棒ってところか。これで魔王を確実に殺すことができる。いよいよ魔王国が我が手中に……くくくくくっ」
思わず零れた笑みをかき消すかのように、ドアが荒々しく開いた。
一瞬、メイドか兵士かと思ったが、彼らがこんなに荒々しく、それもノックもなしにドアを開けるわけがない。
果たして誰なのか――。
「よぉ」
ベルゼだった。
無遠慮に、部屋の中に入ってくる。
「何の用だ?」
ベッドから起き上がって、ライデルが尋ねる。
ベルゼとはつい先ほど別れた。
早速、エイミと魔王を殺しに行ったのだと思ったのだが……。何か忘れ物でもしたのだろうか? いや、ライデルのもとにやってきたということはつまり――何らかの話があるのだろう。
一体、何の話なのか?
思い当たることはない。
「パラダイムシフトとでもいうのか……デモンスレイヤーを手に入れたときに、ちょっとばかし考え方が変わったんだ」
突然、ベルゼは語り始めた。
「は? 何を言っているんだ?」
「ああー。つまり何が言いたいのかっていうと……」
ベルゼはデモンスレイヤーをお手製の鞘から引き抜き、その切っ先をライデルに向けた。
「魔王国は俺が直々に支配する」
「なっ……」
絶句するライデル。
「最初はさ、いろいろとめんどくさいしお前に任せようかと思ったんだけど、やっぱりヒューマンに好き勝手されるのは気に食わないというか……」
「や、約束と違うっ!」
ライデルは立ち上がって、子供のように叫んだ。
気まぐれすぎる。
こんなにも早く考えが変わるだなんて……。
「約束? 知らないな。大体、口約束なんて破られても文句言えんだろ。お前だって今までに人との約束を何回も、何十回も破っているんだろう? だから、俺に約束を破られても文句は言えねえ。いや、言わせない」
「くっ……」
ライデルは歯を食いしばる。
確かに、ライデルは今までに約束というものを、何回も反故にしてきた。反故にされた者は決まって「約束と違う」と泣き叫んでいた。そんな彼らを、ライデルは冷たい目で、ゴミを見るかのように見下してきた。
だが――。
反故にされるのは初めてだった。――いや、初めてではない、か……。ライデルとの約束を反故にした者は、例外なく処刑してきた。
だがしかし、この男を――ベルゼを処刑するのは不可能だ。むしろ、こちらが斬首されてしまう。
どうすれば――
「デモンスレイヤーを手に入れた今。お前は用済みだ」
それは、死刑宣告だった。
絶望。
しかしそれでも――。
「だ、誰か……」
「呼んだって誰も来ないと思うぞ」
「ま、まさか……貴様、私の部下を全員殺したのかっ!? あの元勇者みたいにっ!」
「いや」
ベルゼはシンプルに否定した。
「そんな野蛮人みたいな真似はせんよ」
と、野蛮人は言った。
「では――」
「俺に立ち向かったところで死ぬだけってことは、お前の部下だって重々承知だろうよ。命を懸けてまでお前のことを守ろうって気概があるやつは皆無なんだ。おわかり?」
「馬鹿なっ! 私は聖王国の国王だぞっ!」
「だから?」
ベルゼは馬鹿にするように鼻で笑った。
「自分は国王だって胡坐かいて、好き勝手していたら、信頼されるわけねえだろ。こんなに慕われていないっていうのに、今まで殺されずにのうのうと生きてこられたのは、奇跡ってやつだな。だが――」
ベルゼは剣を地面と水平に、半身の状態で構えた。
そして――跳び出す。
「――その奇跡も終わりだ」
「ま、待て――」
デモンスレイヤーがライデルの心臓を貫いた。
「がっ……」
目を大きく見開いて、ありえないとでも言いたげな表情でライデルは倒れた。
既に死んだライデルに、ベルゼは剣を鞘におさめながら言い放つ。
「魔王国の統治権をお前に渡すって約束は破ったが、魔王と勇者を殺すって約束は守るつもりだぜ。てなわけで、安心して死んでくれよな。グッバイ」
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