第38話
「エイミがどこにいるのか、わかるのか?」
ライデルは疑問に思い、にやにやと笑みを浮かべているベルゼに尋ねた。
世界は広い。人一人探すのは、なかなか苦労する。うまく変装されてしまうと、目撃情報を集めるのも一苦労だ。
「あの女の――エイミの匂いは記憶している。匂いをたどっていけば、エイミのもとへとたどり着けるはずだ」
鼻をクンクンとさせながら、ベルゼは言った。
犬か、お前は。
もちろん、余計なことは何も言わない。
ベルゼは小さく詠唱して、魔法を発動させた。どういう系統の魔法なのか、魔法に疎いライデルにはわからない。
「索敵の魔法だ――嗅覚を使ったな」
「エイミの居場所はわかったのか?」
「奴は………ほう……魔王国に向かっているな」
「なぜだ?」
疑問だった。
勇者の――いや、元勇者のエイミがどうして魔王国に?
「亡命か……あるいは、サアラを使って俺を殺させるつもりか……。なんにせよ、楽しくなってきたな。どうせ魔王国に向かうつもりだったのだから、ちょうどいい。エイミもサアラもまとめて葬ってやろう」
はっはっはっは、とベルゼは高笑いした。
「ああ、そうだ。あれを寄こせ」
「もちろんだ」
ライデルは神妙に頷いた。
「だが、あれは勇者どもにも抜けなかったのだぞ?」
「あいつらに抜けなかったからと言って、俺にも抜けない――そんな道理はない。俺ならば、あれを引き抜いて使いこなしてみせる」
自信満々だった。
ベルゼがライデルと手を組んだのは、とある武器を手に入れるためだった。メリットが何もないのに、ヒューマンと手を組むはずがない。
聖剣デモンスレイヤー。
それは対魔族用の最強の武器だ。
デモンスレイヤーは聖王国の王城地下に広がっている地下迷宮の最奥に眠っている。地面に深々と突き刺さったそれは、選ばれた者にしか抜くことができない。
勇者パーティーの四人ですら、デモンスレイヤーを引き抜くことができなかった。
デモンスレイヤーは意思を持つ剣である。彼――あるいは彼女?――を力で屈服させなければ、主人になることはできない。
「デモンスレイヤーのもとへと案内しろ」
「わかった。だが、あれが眠っている地下迷宮には魔物が巣くっている。案内している途中で殺されたら、たまったものじゃない」
本当にたまったものじゃない。
俺が死んでしまったら、誰が聖王国を世界の長に導くのだ?
「安心しろ。お前のことは守ってやろう」
ライデルは完全武装した兵士を10人ほど引き連れて、地下迷宮へと向かった。地下迷宮の入口がある部屋には、巧妙な擬装が施されていて、それを知っている者でなければ、見つけることはできない。
地下迷宮の入口がある部屋に向かう途中、王城内を歩いていると、数多の兵士の死体と遭遇した。元勇者どもが殺したのだろう。
迷惑極まりない。
怒りがこみあげてくる。
アラン、エレナ、ライルの三人は既に死んだが、エイミだけはまだ生きている。のうのうと生きているのだ。
ベルゼにエイミを生かして捕らえさせて、拷問でもしてやろうか。だがしかし、ベルゼにそんな『お願い』をしても、きっと奴は聞いてくれない。
何もかもが腹立たしい。
早く魔王国を支配して、悦に浸りたいものだ。魔王国を支配した後は、どの国を支配してやろうか? 別にどの国でも構わないか。ゆくゆくは世界のすべてが俺の物になるのだから――。
世界中の人々がライデルのことを崇め、ひれ伏す。
愉快だ。実に愉快だ。
「これが地下迷宮の入口か?」
ベルゼに尋ねられ、ライデルは妄想をやめた。
妄想なんてしなくてもいい。いずれ現実になるのだから。
「そうだ」
地下迷宮の入口は部屋の壁にあった。本の敷き詰められた本棚のある部分を押すと、本棚がスライドし、真っ暗な空間が先に広がる。
足元を照らすと、石造りの階段が見える。
ベルゼが魔法で光源をつくった。まばゆい光を放つ球体が、ふわふわと上がっていく。光によって空間全体が把握できた。
ベルゼが歩くと、呼応して光の球も動いていく。
地下迷宮は迷宮というだけあって、非常に入り組んでいた。道がわからなければ、永遠にさまようことになりかねない。
道中、飢えた魔物がライデルたちに襲い掛かってきた。しかし、魔物のことごとくはベルゼによって瞬殺された。魔物のレベルはかなりのものなのだが、ベルゼにとってはスライムとそう変わらないのだろう。
やがて、地下迷宮の最奥――聖剣デモンスレイヤーのもとへとたどり着いた。聖剣はなだらかな丘の頂上に深く突き刺さっていた。
「ほう、これが……」
「そうだ。聖剣デモンスレイヤーだ」
ベルゼの魔法によって全体が照らされているとはいえ、地下迷宮の中は薄暗い。そんな中、デモンスレイヤーは神々しい光を放っていた。
ベルゼは丘を登ると、デモンスレイヤーの眼前に立った。そして、子細に観察した。
神々しい聖なる光は、土に埋まった刀身から発せられている。その光が漏れ出て、剣全体を包み込んでいる。
大きく一回深呼吸をすると、ベルゼはデモンスレイヤーの柄を握った。
その瞬間、低く重い声がベルゼの脳内に直接響いた。
「誰だ、貴様は?」
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