第33話
「あんなにたやすくアランが殺されるだなんて……」
ライルは王城内を走りながら、青ざめた顔で呟いた。
「あのベルゼという魔族は、とてつもなくやばいですね」
エレナは並走しながら言った。
三人は並んで王城内を走った。
王城は大きく、複雑なつくりをしているので、三人は迷子になっていた。王城を訪れたことは何度かあったのだが、毎回案内人がいたので、間取りはほとんど把握していない。
とりあえず適当に走っていれば、いつかは出入り口にたどり着くだろう、という安易な考えを持っていた。
「あ……」
前方に武装した兵士が二人いる。彼らに王城の出入り口まで案内させよう。そう思い、話しかけようとした三人だったが――。
「いたぞっ! 元勇者だ! 捕まえろっ!」
兵士たちは三人に対して敵対的だった。
勇者の――厳密には元勇者なのだが――自分たちに対して、敵対行動を取るだなんてなんて愚かなのだろう。
「ぶっ殺す!」
エイミは剣を引き抜きざまに一閃した。
兵士の首が二つ、宙を舞った。
三人は速度を落とさず――むしろ、加速しながら――自分たちのもとへと殺到する兵士たちを、容赦なく殺していった。
後々のことなど考えない。考えていられない。
エイミの剣が兵士の首をはね、エレナのメイスが兵士をミンチにし、ライルの槍が兵士の心臓を貫く――。
兵士たちの血が王城を赤く染めた。兵士たちの返り血が三人を赤く染めた。
三人は異常な興奮状態にあった。ほんの少し前に、パーティーの仲間であるアランが殺されたことなど、とうに忘れている。
「あひゃひゃひゃひゃひゃっ!」
三人は狂ったように笑いながら、立ちはだかる兵士たちを殺していった。殺した兵士の数がもうすぐ三桁になる、というところで――。
王城の出入り口にたどり着いた。
「外に出られるっ!」
喜びを露わにする三人だったが――。
「――と思うだろ?」
「「「――っ!?」」」
上からベルゼが降ってきた。
「逃がさないぜ」
ベルゼは舌なめずりをして、地面を蹴って駆けた。あまりの衝撃で、地面がバキバキと砕け、石片が舞った。
弾丸となったベルゼを、エレナはメイスを盾代わりにすることで辛うじて耐えた。
「ぐっ……ぅぅ……」
「エレナ、ライル! 腹くくって戦うわよっ!」
「わかった!」とライル。
「ええ……」とエレナ。
エイミとライルが武器と魔法を用いて、接近戦を行う。一方がベルゼの攻撃を受け止めて、もう一方が攻撃を叩きこむ。
エレナは回復魔法など、魔法による補助を行いながら、同時にメイスを使って接近戦に参加する。
エイミはベルゼとの戦いの中で、絶望を感じた。
どうあがいても、今の自分たちではベルゼに勝てない。アランを瞬殺したベルゼに敵うはずがない。ベルゼに善戦しているように思えるのは、彼が本気を出していないからだ。
どうする、とエイミは考えた。
今のベルゼは戦闘を楽しんでいる。遊んでいる、と言ってもいいだろう。油断、慢心している。
迷いや躊躇いなんてものは、微塵もなかった。
……。
◇
「戦いっていうのは、やはり楽しいものだな」
ベルゼは手刀を振るいながら、げらげらと笑っていた。
戦いは楽しい。だが、いつまでものんきに戦っていると飽きてしまう。楽しいうちに終わらせる方がいい。
そろそろ終わらせるか、と考えたところで――。
――ふと違和感を覚えた。
しかし、違和感の正体が何なのかわからない。
「はあああっ!」
エレナがメイスを振るい、
「ふっ!」
ライルが槍で切り上げる。
違和感の正体が何なのか、と考えていたベルゼは油断しきっていた。
隙が生まれる。この隙は半分わざと作ったものだったが。
「今です、エイミ!」
エレナの声に、しかしエイミは答えない。
「……エイミ?」
エレナは慌ててパーティーリーダーの姿を探した。しかし、エイミはどこにもいない。ライルも慌てふためいている。
「どこにいるのですか、エイミ?」
「ま、まさか、あいつの魔法で……!?」
ベルゼはようやく違和感の正体に気がついた。
そう、エイミがいない。
いつの間に逃げたのだろう? まったく気がつかなかった。ベルゼはそれほどまでに目の前の戦闘に夢中になっていたのだ。
攻撃の頻度を少しずつ下げることで、エイミは己の存在感を自然に、徐々に消し去っていった。
やがて、他のことを考える余裕なく、目の前の戦闘のみに集中しているエレナとライルを置き去りにして、一人逃亡したのだ。
「俺は何もしてない」
ベルゼはライルに言った。
「あいつはお前らを囮にして、一人逃げたんだろうよ」
「そ、そんな……」
エレナは崩れ落ちそうになった。
三人でも苦しい戦いを強いられているというのに、リーダーであるエイミがいなくなってしまったら、いよいよ勝ち目がなくなる。
「ま、まさか……」
ライルは否定したかった。だが、できなかった。
勇者パーティー四人の信頼関係は、元々それほど強固なものではない。ゆえに、苦境に立たされた時、誰かが裏切るのは必然――とまでは言わないものの、ありえない話ではない。
しかしそれでもライルは、エイミが魔法によって透明化して、油断しきったベルゼの喉元を掻っ切ってくれるのではないか、と思っていた。
「小賢しい、なめた真似をしてくれる……」
ベルゼはどうしようか悩んだ。
この二人を先に殺すか、エイミを探しに行くか。
逃げたエイミには少し腹が立ったが、自分に勝てないと悟ったから逃走したと考えると、悪い気分ではなかった。
エレナとライルをもう少しだけ楽しんで殺し、その後でエイミと楽しい楽しい追いかけっこをしよう。そう決めた。
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