第31話
エドとサアラが魔王国へと向かったころ、勇者パーティー四人は聖王国の国王であるライデルに呼び出しをくらい、王都へとやってきていた。
「なあ。どうして俺たちゃ王様に呼び出されたんだ?」
アランが空を見て歩きながら、三人に尋ねる。
「そんなのあたしが知るわけないじゃない!」
エイミは不機嫌さを隠そうともせず、荒々しい口調で言い放つ。
勇者パーティーの旅は苦難の連続だった。数々の不運と不幸に見舞われ、それによって四人の関係はぎくしゃくしたものとなった(もともと良好というわけではないが)。
どうして自分たちがこんな目に遭わなければならないんだ? 何が原因で悪いことばかり起きるのだろうか?
それぞれ考えてみたのだが、まるでわからない。
四人は、四人とも自分に非があるとは思っていない。パーティーのリーダーであるエイミのギフトが、不幸の主な原因であることに気づく気配すらない。
彼らは人生が上手くいかないことから溜まった鬱憤を、行く先々で晴らした。何の罪もない人々を痛めつけることもあった。
自らが勇者であることを声高々に自慢し、それを免罪符として彼らは悪行を行った。非難する者や逆らう者は自我が崩壊するほど徹底的に痛めつけた。そんなことをすれば、当然、勇者に関する悪い噂が聖王国中に広まる。
噂を耳にした町の住人たちは、四人が自らの町にやってくると、できるだけ関わらないようにしたり、冷たくあしらったり、罵詈雑言を吐いたりする。
すると、四人はさらに鬱憤が蓄積し、それを吐き出すために悪行を重ねる。その悪行が新たな噂となり、聖王国に流れる……。
負のスパイラルとでも言うべきか。
サアラにレベルを根こそぎ奪われ、レベル0になった四人だったが、元来の――勇者に選ばれるほどのハイスペックによって、レベルはすぐに上がっていった。
一か月強という短期間のうちに、彼らのレベルは元の――サアラに奪われる前の――状態にまで戻っていた。
しかし、まだ足りない。
魔王を殺すにはまだまだ力が、レベルが足りない。
早く魔王を討伐して残りの人生を謳歌したい、と考えている彼らにとって、国王からの呼び出しは迷惑でしかなかった。
四人は聖王国の人間ではあるが、国王に対して尊敬の念など欠片も抱いてはいない。ただの偉ぶったおっさんでしかないのだ。
「なんだか、嫌な予感がしますね」
天気が良く、気温も比較的高いのだが、エレナは寒そうに体を震わせている。顔色も悪い。彼女は神殿に仕える神官ということもあって、第六感に優れている。
そんなエレナが言うのだから、国王からの話は決していいものではないのだろう。
「僕たちの悪い噂が、国王にまで伝わったのか?」
ライル気取った仕草でそんな推測をする。
「そう、かもしれませんね……」
頷くエレナはどこか歯切れの悪い言い方をした。
四人の悪い噂が国王まで届き、その結果、勇者の称号を剥奪される。それは想定する限りでは、最悪のシチュエーション。
しかし、エレナの『予感』は想定の最悪さえも超えるものだった――。
◇
「入れ」
国王ライデルの低く厳かな声がドアの奥から聞こえた。
王城内を案内した男が、荘厳な両開きのドアを開けた。
四人がその部屋の中に入ると、ライデルは相変わらず偉そうな顔をして(実際、偉いのだが)、玉座に腰かけていた。王の周りには、配下の者が控えるように立っている。
「なぜ私に呼び出されたかわかるか?」
ライデルは四人に尋ねた。
「わかりません」
パーティーを代表して、エイミが敬語を使って答えた。
「貴様らの噂は、私の耳にまで届いている」
とんとん、と指で耳を叩く。
「貴様らは本当にどうしようもないゴミだな」
「なんだとっ!?」
ライデルにとびかかろうとしたアランを、エレナとライルが必死になって止めた。国王に怪我をさせたら、この国にはいられない。それくらいはわかる。
「行く先々で好き放題してるらしいじゃないか」ライデルは言った。「今まで貴様らの横暴に目をつぶっていたのは、貴様らが魔王を始末する勇者だからだ」
そこまで言うと、ライデルはこれ見よがしにため息をついた。
「だがしかし、貴様らはいつまでたっても魔王を殺さん。いや、殺せずにいる。これ以上待つのはうんざりだし、時間の無駄だ。ゆえに、現時点をもって貴様らを勇者から解任する」
「か、解任……」
ライルが呆然と呟く。
「つまり、クビってことだ。今の貴様らは勇者ではなく、ただの一般人だ。今まで目をつぶっていた数々の罪――殺人、暴行、窃盗、詐欺、エトセトラ……それらに対しての罰を受けてもらおう」
罰を受けてもらおう。
その言葉を聞いて、四人の顔色が変わった。
「ま、待ってくだ――」
「待たない――と言いたいところだが、ああ、そうだっ!」
ライデルはわざとらしく手を打った。
「魔王を始末してくれる、新しい勇者を諸君に紹介しよう」
ドアが開いて一人の男が中に入ってきた。
その男を見て、四人は驚いた。見知った顔だったからではない。男がヒューマンではなかったからだ。一目見てすぐにわかる。その男には細長い尻尾と一対の角が備わっていた。――そう、魔族だ。彼は聖王国が敵視している魔王国の人間だった。
「おいおい、そいつが勇者って何かの冗談だろ?」
アランがへらへらとした軽い口調で、ライデルに問いかける。
「勇者といっても、貴様らとは違って、私にとっての勇者なのだ」
ライデルは手を組むと微笑みながら、
「私は彼と手を組んで、魔王国を我が手中に収めることに決めた」
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