第23話
深夜。
勇者パーティー四人は宿泊先の安宿の窓から外に飛び降りると、人気のない道を音もなく静かに歩き出した。
ビギンの町の規模は小さく、大都市のような歓楽街は存在しない。付近に観光地はないので、観光客などもほとんどいない。四人のようにスライムなどの弱小魔物を相手にするような新米冒険者が時折立ち寄るくらいだ。
ゆえに、夜に出歩いている者は少ない。
しかし、それでもゼロというわけではないので、できるだけ人に見つからないように、人に遭遇した時も顔を見られないように気を付けながら、同時に自然体を心がけて目的地へと向かう。
そう、目的地。
四人は自分たちのことを『スライムキラー』などと呼んで馬鹿にしてきた連中に(理不尽な?)復讐をするために、こうして歩いているのだ。
本来ならば、ビギンの町の住人を皆殺しにするところだが、そんなことをすれば大問題になるし、彼らがやったことがバレる可能性も高い。
大量虐殺がバレれば、勇者の称号を剥奪されるどころか、捕まって死刑にされかねない。常識も想像力もない四人でも、それくらいのことは容易にわかる。
しかし、何もせずにこの町から立ち去るのでは、自分たちの気が収まらない。
この一か月、たまりにたまった鬱憤を晴らして、心機一転、すがすがしい気持ちで新たなる冒険を始めたい。
二人や三人殺しても、どうってことないだろう。
そんな考えを持った四人は、やはりどこかずれているし、いかれている。勇者になるような人間は案外聖人ではなく、狂人が多いのかもしれない。
四人はこの一か月の間に『絶対ぶっ殺すリスト』なるものを作っていた。それは文字通り、ビギンの町において、こいつだけはいつか殺す――と思うほど憎たらしい人物の名前を箇条書きに殴りつけたリストだ。
絶対ぶっ殺すリストには、三〇人以上の名前が書かれている。彼らがいかに他人を憎みやすい性質なのかがよくわかる。
このリストに書かれた人の中には、四人に甚大な被害を被った人もいる。その人たちが四人を本気で殺しに来なかったのは、人として安易に超えてはならない一線、というものを理解しているからに他ならない。
よほどのことがなければ、人は法を犯したりはしない。しかしそれは、四人には当てはまらない。四人にとって自分たちの存在は、法を超えたいわば超法規的存在なのだ。
四人が法を守るのではない。法が四人を守るのだ。
つまり、四人が法を犯したとき悪いのは彼らではなく、彼らに配慮しなかった(できなかった)法のほうなのだ。
実に身勝手だ。
絶対ぶっ殺すリストに書かれた三〇人以上を全員殺すのはやはりまずい。小さな町で一晩に三〇人も殺されたら、聖王国中にニュースが流れてしまう。
しかし、三人くらいだったら問題ないよね。
実際は三人でも大問題なのだが、彼ら基準だと無問題なのだ。
絶対ぶっ殺すリストのうち、厳選に厳選を重ねた三名様のところまで、死をプレゼントしに行くことに決めた。
「着いたぜ。うけけけけ……」
そこは一軒目として訪ねた宿屋だった。
アランを見るなり顔面をぶん殴ってきたスキンヘッドの主人は、三階にある自室のベッドでぐっすりと眠っていた。
魔法を使用して音をかき消し、スキンヘッドの主人を人気のない路地裏へ連れ出す(どちらもエレナが魔法を行使した)。
アランがスキンヘッドの主人に理不尽極まりない暴力を振るっている間に、エイミとエレナは三軒目として訪れた宿屋の主人――どことなく女性っぽい動きをしている――のもとへ突撃していった。
一人残ったライルは、すれ違うたびに馬鹿にしてきた子供のもとへ向かった。貴族の自分に対して、平民の子供があんな態度をとっていいはずがない。
四人は理不尽な復讐を遂げると、宿屋に戻ってぐっすりと眠った。
言葉に形容できないほど惨たらしい行いをしたというのに、すぐに眠りにつけるのは、人として何かが欠けているからだろう。サイコパスと言えるのかもしれない。
◇
朝。
「もうこの町には用はないわ。行くわよ」
ビギンの町を出ると、四人は隣町へと向かった。隣町に行くためには、鬱蒼と茂った森を避けては通れない(厳密に言うと避けること自体はできるのだが、相当遠回りになる)。
森に入るなり、気色悪いルックスの昆虫型の魔物が、四人に襲い掛かってきた。魔物は四方から――それどころか木の上から、そしてじめじめと湿った地面の中からも現れた。
四人の武器が魔物体液でぐちゃぐちゃになる。
それでもなんとか倒しながら進んでいくと――。
「ドガアアアアアアアアア――ッ!」
偶然、森で休憩していたドラゴンに出くわした。
当然、今の四人では勝てるわけがなく、必死になって森の中を駆け抜けた。ドラゴンブレスによって四人の髪の毛は燃えてちりちりになって、ドラゴンテールの一撃によって骨をバキバキに折られて吹っ飛ばされた。
ドラゴンは四人というおもちゃで遊ぶのに飽きたのか、動かなくなった四人を放置して、広大な空へと飛び立った。
ぎりぎりではあるが、死ななかった。
運がいいのか、悪いのか……。
エレナが全員に回復魔法をかけたが、動けるようになるまで丸2日経過した。
その間に腹をすかせた魔物に体をかじられたり、こん棒を持ったゴブリンやコボルトに腹を執拗に殴りつけられたりした(人間に対する憂さ晴らしだろう)。しかし、それでも死ななかったのは幸運なのか、不幸なのか……。
隣町に着く頃には、四人ともみすぼらしい格好になっていた。
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