第18話

「――というわけで、奴らをボコって、なおかつ経験値を全部奪ってレベルをゼロにして、聖王国の最南端に飛ばしておいた」

「……」

「奴らがそなたの前に姿を現すことは、二度とないだろう……多分」


 多分、という付け足された言葉に、ほんの少しの不安を覚えた。


「絶対じゃないんだ?」

「不屈の精神で成り上がり、再び相まみえることもあるかもしれない。まあ、そうはならないと思うけどな」

「? どうして?」


 レベルがゼロだろうと、四人が才能あふれる勇者であることには変わらない。

 もちろん、今までみたいに強い魔物を、ばっさばっさとなぎ倒すことは難しいだろうけれど、弱い魔物を倒してリハビリ(レベルアップ)していくことは可能なはず。


 ということは、元の強さに戻った四人と相まみえることになるのは必然なのでは?


「実はな、〈すべてを見通す目

クレアボヤンス

〉でエイミのステータスを覗いてみたのだ。そうしたら、なかなか面白いものを発見してしまった」


 ぷくくく、と口を押さえてサアラは笑った。


「面白いもの?」

「ギフトだ」

「ギフト?」


 面白いギフトって何だろう? 

 僕の『強運』みたいに、一見よさそうだけど、実はあんまり役に立たないような名ばかりギフトなのかな?


「エイミのギフトは三つあった」

「三つって多いほうなの?」


 ちなみに僕は『強運』一つだけ。


「うむ。大半の人はギフトを一つも持っていない。だから、一つでも持っていれば、それは誇らしいことではあるんだが……」

「僕の『強運』みたいに大して役に立たないのもある、と」

「いや、役に立たない程度なら全然いい。問題は――」


 そこで言葉を切ると、サアラは僕の拘束を解いた。

 僕がサアラの膝の上から降りると――。


「とらんすふぉーーーむっ!」


 再び光の渦がサアラを覆った。

 少女形態へと戻った。


「問題は――マイナス補正をかけるギフトだ」


 と言い直した。


「マイナス補正をかけるギフト? そんなものがあるの?」

「ああ、それは贈り物

ギフト

というよりも、呪い

カース

とでも呼んだほうがいいかな?」


 呪い――それも解呪できない、生まれたときから死ぬまで背負い続けなければならない一生もの。

 もしも――。

 もしも、僕がそんなものを持っていたらと考えると――ゾッとした。


「それで……エイミのギフトはなんだったの?」


 三つのギフトのうち、どれか一つは――あるいは三つすべてかもしれない――その呪いのギフトだったのだろう。


「一つ目は『剣術』」

「なるほど。エイミは剣の才能があったからね。ギフトだったんだ」

「二つ目は『魔族特攻』」

「勇者にふさわしい――というか、必須のギフトだね」


 多分、他の三人も持っているはず。

 むしろ、勇者に選ばれた僕が魔族特攻を持ってないのが不思議なくらいだ。


「そして、問題の三つ目」


 びしっ、と三本の指をたてるサアラ。

 言葉を口の中でため続け、僕が「そろそろ言ってよ」と言い出そうとしたときになって、ようやく言葉を紡いだ。


「きょううんだ」

「『強運』って……僕と同じじゃないか」

「違う違う。運がいいほうの『強運』ではなく、運が悪いほうの『凶運』だ」

「ああ……『凶運』かぁ」


 凶運。

 運が悪くなるギフト。

 シンプルではあるけれど、恐ろしいまでに呪われしギフトだと思う。世の中には偶然ってものが満ち溢れていて、それが毎回のように悪いほうに働くのだから。


「……あれっ?」


 そこでふと気づいた。


「でもさ、エイミって今までに、そこまで不幸な目にあったことないと思うんだけどな」

「それはそなたが腰巾着のように付き従っていたからだ」


 こ、腰巾着って……。


「そなたの強運とエイミの凶運。二つのギフトが混ざって中和した結果、幸運でも不幸でもない『普通』になった。妾はそう考えている」

「なるほど……」


 サアラの考察が正しいかどうかはわからないけれど、納得はいった。


「つまり、エドがいなくなった今、勇者パーティーはきっと不幸な目にあいまくるはずだ。愉快だな。実に愉快だ」


 くっくっく、とサアラは魔王みたいに笑う。


「果たして奴らは、自分たちがどうして不幸な目にあいまくるのかわかるだろうか? もしわかったとしても、パーティーのリーダーで要でもあるエイミを追放することができるだろうか? 楽しみだ。実に楽しみだ」


 ◇


 朝食を食べた僕とサアラは冒険者ギルドに向かった。


 僕の冒険者としての実力はとても低く、いまだF級(一番下)だった。一方、サアラの階級はB級だった。サアラの実力ならS級になるのも容易だと思うんだけど、どうしてB級なんだろう?

 そう思い、尋ねてみた。


「ん、S級になったら目立つだろう? 目立ちすぎたら、妾が魔王であることが何かの拍子でばれてしまうかもしれない」


 なるほどー。まあ、今でも十分に目立っているんだけどね……。


 さて。

 僕とサアラは適当なクエストを見繕って、冒険に出かけることにした。


 サアラはあの四人と違って、僕を無能だと馬鹿にしたりいじめたりしないし、とってもやさしい。サアラに出会えたことは、僕の人生において一番の幸運といえる。


「楽しい楽しい冒険

ピクニック

の始まりだ!」

「うん!」


 今日という日を、僕は忘れない。


 新しい人生が始まった、今日という日を――。

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