第14話
「残すは貴様だけだ、エイミ」
「……なんであたしの名前知ってるの?」
「知ってるものは知っている。知らないものは知らない。ただそれだけのことだ」
妾ははぐらかすように言った。
エイミの名を言ってしまったことは、失策とまではいかないものの、あまり褒められたものではない。
(超絶有能探偵並みに)勘のいい奴なら、エイミの名をエドから聞いたのでは、と推測してしまうかもしれない。
まあ、それだけの根拠から真実にたどり着くのは無理だろうが、ほんの少しでも疑いをもたれるような、不用意な発言は避けるべきである。
幸い、エイミは自分の名前を知られていることに対して深く考えなかったようで、
「確かに残ったのはあたしだけだけど……あたしはこのパーティーのリーダーで、ということはつまり、一番強いってことなのよっ!」
剣を構えながら、自信満々で言った。
剣の腕前はそれなりではあるが、頭脳のほうはポンコツそうだ。物事についてあまり深く考えず、直情的で本能的。目先のことしか考えられず、大局的には考えようともしない。
それが妾のエイミに対する印象だ。
多分、そう間違ってないだろう。
元来の性格に起因している点もあるだろうが、勇者に選ばれるほどの才能が、エイミという人間をこのような性格に仕立てあげてしまったのだろう。
力があるから傲慢になれる。自らに異を唱える者に対しては、力で屈服させればいいだけなのだから。
考えてみると、エイミという女は妾に似たところがある。だから、妾はこの女が嫌いなのか? 同族嫌悪的な?
否、妾がエイミに対して憎悪を抱くのは、この女が『エドの幼馴染』という立場にありながら、エドのことをいじめていたからだ。
つまり――嫉妬。
幼馴染――つまり、ずっと昔からエドと付き合いがあるのが気に食わないのだ。妾なんてまだ数時間の付き合いだというのに!
「ハハハハハッ!」
なんだかおかしくて笑ってしまった。
知り合って間もない少年に入れ込みすぎなのではないか? どうして妾はこんなにもエドに対して助力しているのだろう?
……一目惚れというやつか。
頭に浮かんだその言葉を否定したかったが、否定できるだけの根拠はない。というより、それは事実なのだから、否定しようがないのだ。
昔、部下が『たまたま入った店の店員に一目惚れした』などと報告してきたとき、妾はなんと返したんだったか……?
ああ、そうだ……。
『一目惚れなんてものは、ただの脳の錯覚だ』
なあんて真顔で言ったんだったな。
そんな妾が弱冠14歳の少年に一目惚れしてしまうなんて……。
ああ、恥ずかしい……。
と――。
「隙ありぃ!」
敵と対峙しているというのに、余計な――少なくとも今考えるべきではない――ことを考えていた妾に、エイミが剣を振りかぶって襲い掛かる。
妾は『自分が一目惚れしてしまった』という事実を振り払うように――あるいは否定するように――必殺のパンチをエイミにお見舞いしようとした。
だが――。
「死ねえええ――きゃっ!?」
その前に、エイミがずっこけた。
地面に空いた小さな穴に足を引っかけたのだ。多分、あれは四人との戦闘の最中に誰か――形からして大剣使いのアランだと思う――が作った穴だ。
ずっこけた拍子に、剣が手からすっぽ抜けて遠くに飛んでいき、さらに顔面を地面に強打した。
運が悪かったな、と同情しつつも、
「――〈拘束する鎖
バインド・チェイン
〉」
魔法の鎖でエイミを拘束し、
「〈衝撃大波
ショック・ウェーブ
〉」
気絶しないぎりぎりのダメージを与えることにした。
妾の手のひらから放出された衝撃波を食らい、エイミの体が魚のように大きく跳ねる。鎖で拘束しているので、衝撃で吹っ飛ぶことはなかった。
さて、どうするか?
とりあえず、エイミのステータスを暴くことにした。
「――〈すべてを見通す目
クレアボヤンス
〉」
エイミ
性別:女
職業:勇者
Lv:78
HP:323(C)
MP:311(C)
STR:546(A)
DEX:603(S)
VIT:356(C)
AGI:634(S)
INT:277(D)
LUK:-777(?)
ギフト:剣術
魔族特攻
凶運
「ほう……」
やはり勇者なだけあって、かなりの高ステータスだな。そして、ギフトが三つもある。一つ目は『剣術』か。割とポピュラーではあるが、強いギフトだな。二つ目が『魔族特攻』……。妾たち魔族に対して与えるダメージが増えるので、これは脅威的だな……。で、三つ目が『凶運』ね。エドと同じギフトだな――。
「……ん?」
凶運……?
強運じゃなくて、凶運?
よく見ると、LUKのステータスがマイナスになっている。マイナスステータスなんてものがあるのか。初めて見たな。
凶運――つまり、ものすごく運が悪い。
なるほどなるほど。いいこと思いついたぞ!
うけけけけ。
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