第12話
妾は魔法で空高く飛んで、ぷかぷかと浮きながら、勇者パーティーを探した。
まだそう遠くには行っていないはずだ。黄金の宿亭を中心に、少しずつ索敵範囲を拡大していく。
「……いた」
すぐに見つけることができた。
四人は大通りから人気のない細い路地へと入っていくところだった。
人の多い場所で奴らと相対するのは避けたかったので、自ら人のいないところへと行ってくれるのは、こちらとしては非常に助かる。
妾は外套として、フードのついた大きな黒いローブをまとっている。露骨な変装とまではいかないものの、端から見れば怪しく見えるかもしれない。これで大きな杖でもついて、しわがれた声で喋れば、典型的な魔女だ。
フードを目深に被ると、妾は奴らのもとへと向かった。
◇
突如、目の前に降ってきた妾に、勇者パーティーの四人は驚きつつも、すぐに臨戦態勢へと移行した。
「貴様、何者だ?」
こちらへ槍の矛先を向けながら、ライルが尋ねてきた。
ほう。さすがにいきなり襲い掛かってきたりはしないのだな。思ったよりも良識的ではあるが、問答無用で襲い掛かるべきだったな。
そうすれば、妾を殺せたかもしれないのに。
――いや、仮にこいつらがいきなり襲い掛かってきたとしても、そして妾が油断していたとしても、可能性はゼロだ。
こやつらでは、妾には勝てない。
「さあな。何者だと思う?」
妾はいつもよりも低く威厳のある声で尋ね返した。
「まさか……魔王の手下か!」
「……」
惜しい。
まさか魔王が直々に出張ってくるとは思うまい。
こやつらにとって――そして一般市民にとっても――魔王とは、古めかしい城の玉座に腰かけて、勇者がやってくるのを待ち構えているイメージなのだ。それは古典的――というよりも、虚像だ。
妾が答えないのを図星だと勘違いしたライルは調子に乗って、
「やっぱりな。そうだと思ったよ」
したり顔でそんなことを抜かした。
「あんたで五人目――いや、五体目ねっ!」
エイミとかいうエドの幼馴染は、わざとらしく間違え、わざとらしく言い直した。
なるほど。妾は人ではない、と? この女にとって人とはヒューマンを指す言葉で、妾のような魔族は人ではなく魔物だと、そう言いたいのか?
怒りが込み上げてきた。
エドに暴力を振るったことに対しての怒りと混ざり合って、中和でもされたのか、心の中が氷のように冷ややかに、冷静になった。
そこで、エイミの言葉に対する違和感を覚えた。
四人は妾のことを魔王の手下だと思っている。そしてエイミは「(魔王の手下は)あんたで五人目」と言った。
……ん?
「五人目だと?」
「そうよ!」
エイミは自慢するように薄い胸を張って、
「あたしたちは今までに四体、魔王の手下を屠ってきたのよ!」
「嘘つけ」
「ほんとよ。ま、信じられないのかもしれないけど、現実を直視しなさい」
「魔王様は……」
自分で自分のことを『様』付けするのは、かなり恥ずかしい。
「魔王様は貴様らに手下など差し向けておらぬわっ!」
「何言ってんのよ? 仲間が倒されたからって、嘘をつくのはやめなさい」
?????
混乱した。
そもそも妾は勇者の名前すら知らなかった。それは興味がなかったからで、だから、わざわざ部下をこいつらのもとへ差し向けたりするはずがない。
というか、そんな命令を下した覚えはないぞ。妾の部下は忙しいのだ。勇者なんぞに構う余裕はない(というより、時間の無駄)。
もしかして、部下が独断専行で勇者を始末しに向かったのだろうか? いや、そんなことをするはずがないし、仮に始末しようとしたとしても、妾に一言何か言うはずだ。
「……どうしてそいつらが、わら――魔王の手下だとわかったんだ?」
「簡単よ」
「彼ら自ら『自分は魔王の手下だ』と白状したんですよ」
エレナが説明した。
「白状した、だと?」
「ええ」
「俺たちに歯向かう馬鹿なやつがいたから、四人でボコボコにしてやったのさ。んで、俺はそいつらの顔を見て、ピーンと来たのさ。『もしかしてこいつら魔王の手下なんじゃないか』ってね。第六感ってやつだ。試しに拷問して『お前本当は魔王の手下なんだろ?』って何回か聞いたら、『そうです。僕は魔王の手下なんです』って自白したぜ」
誘導尋問じゃねえか!
こんな奴らが勇者であることに、妾は愕然とした。もはや、勇者というより悪魔だな。悪魔といっても魔族ではなく、比喩的な表現である。魔族には心優しい者がたくさんいるぞ。
「本当はそいつら、ただの人間だったんじゃないか?」
「んなことねえって」
ぎゃはぎゃは、とアランは笑って否定した。
「だって俺たちに逆らったんだぜ? しかも、聖王国の人間なのによぉ……」
こいつらにとって自分たちに逆らう者は、魔王の手下だということらしい。都合のいい解釈をするものだ。思わず感心してしまいそうになる。
「あ、そういや、黄金の宿亭の従業員も俺たちに歯向かうゴミクズだったな。もしかしてあいつらも魔王の手下か?」
「それはない」
「ま、そんなことはどうでもいいや。まずはてめえをボコボコにして、憂さ晴らししてやるぜえっ!」
アランが大剣を振りかぶりながら駆けだした。
「ヒャッハアアアアアアア――――ッ!」
こうして、妾と勇者パーティー四人の戦闘が始まった。
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