第6話
「エド。憎き勇者たちは今、どこにいる?」
「うーん……」
四人が今どこにいるのか、僕は知らない。
夕食を食べていた僕たちと同じく、どこかの店で夕食を食べているのかもしれない。
しかし、だ。彼らも夕食を食べているとして、四人が一緒に食べているとは限らないよな……。まあ、誰か一人に伝えれば、それで済むことなんだけど。
でも、四人がどこの宿に泊まるかは知っている。
「四人が今どこにいるのかは知らないけど、今日泊まるのは『黄金の宿亭』ってところだったはずだよ」
「ふうん?」
サアラはにやにやと笑った。少し驚いてもいる。
「……?」
「奇遇だな。実は妾が泊まっている宿も、黄金の宿亭なのだ」
「いいところに泊まってるんだね」
皮肉ではなく、ただの――純粋なる感想だった。
「当たり前だろう? 妾は魔王なのだぞ」
当たり前だ、なんて言いながらも、サアラは自慢げに胸を張った。
よくよく考えてみると、魔王国の国王――女の子だけど――が、僕と同じような安い宿に泊まっているはずがない。
そんな宿にサアラのような美少女が宿泊していたら、悪目立ちしてしまう(高級な宿でも目立ってしまうけれど)。
「では、とりあえず黄金の宿亭へ――っとその前に、そなたの泊まる宿へと行くぞ」
僕の泊まる宿に? どうしてだろう?
「……もしや、宿に泊まる金がなくて、野宿だったりするのか?」
「いや、宿に泊まれるくらいのお金はあるよ」
そう答えてから、一言付け加える。
「といっても、安い宿だけどね」
「そうか」
「でも、どうして?」
「どうしてもだ」
僕の質問に対して、サアラはかみ合わない返答をした。
まあいいや。拒絶する理由も必要性もないし。ただ、僕がどんな安宿に泊まっているのかを見てみたいってわけではなさそうなんだよな。
「こっちだよ」
そう言って、僕は今日泊まる宿へとサアラを案内した。
◇
今夜僕が泊まる宿は、安いしぼろいけど個室だし、鍵をかけられる。だから、大部屋と違ってプライベートな空間があるし、プライバシーも守られる。
僕たちが宿屋に入ると、受付カウンターで退屈そうな顔をして本を読んでいた女将がこっちを向いた。
「はい、いらっしゃい――って坊やか。言っておくけど、うちの宿は一人用だから。女を連れ込むのは厳禁だよ」
「え? いやいや、違いますって!」
どうやら女将さんは面白い誤解をしているようなので、僕は言葉とジェスチャーを使って全力で否定した。
「ね。違うよね、サアラ?」
「ああ。実は少々込み入った事情があって、エドの宿泊を取りやめたいのだが」
「込み入った事情? ふうん?」
サアラの言う『少々込み入った事情』とやらが気になるようで、女将さんはにやにやしながら前のめりになって、
「あらあら~。若いっていいわね。お盛んねえ。でも、坊やとお嬢ちゃんの年齢だと、まだちょっと早いんじゃないかしら? あ、でも、最近の子は早熟って言うものね」
勝手に色恋と結び付けたようだ。
なんでそんな曲解を、と思ったけど、状況からしてそういう推測――というより妄想――をしてしまうのも仕方がないのかもしれない。
というか、宿泊と取りやめるってどういうこと?
「まあ、そういうわけだ」
サアラはあえて否定せず、意味深な笑みを作った。わざと誤解されにいってるとしか思えない。
「宿泊をキャンセルするのは別に構わないんだけど、宿泊料は返さないよ。それでもいいかい?」
「オーケー」
部屋に置きっぱなしにしていた荷物を取ってくると、僕たちは宿屋を後にした。
◇
「では、今度こそ黄金の宿亭に行くぞ」
「ねえ、サアラ」
早足で前を歩くサアラを、僕は呼び止めた。振り返ったサアラが天使的に――どちらかと言うと悪魔なのに――小首を傾げた。
「なんだ?」
「どうして宿泊をキャンセルしたの?」
「どうしてって……そなたは今日から、妾と行動を共にするのだ。まさか妾にあの宿屋に泊まれ、と?」
「いや……」
そんなことは言わないけど……。
というか、女将も言っていたけど、あの宿は一人用だから、サアラと一緒に泊まることはできない。……いや、同じ部屋に泊まることができないだけであって、違う部屋だったら大丈夫だったかも。
「だったら、僕は今日どこに泊まればいいの?」
「はあ?」
サアラが呆れたような声を出した。
「どこって……妾と同じ部屋に泊まればいいだろう?」
「えっ? サアラと?」
僕は動揺した。ちょっと顔が赤くなっているかもしれない。
黄金の宿亭で、サアラと同じ部屋で、サアラと同じベッドで――ってベッドまで同じってことはないか。
「ははあん。さてはそなた、女の子と同じ部屋で寝たことがないんだな? 初心な奴め」
うりうり、とサアラは僕の頬を人差し指で突っついた。
「かわいいなあ」
かわいいのは、君だよ。
「そう言うサアラはどうなのさ?」
「妾か? 妾は女子(おなご)とともに寝まくりだ」
いや、サアラの場合は女じゃなくて男でしょ。
そうつっこもうとしたけれど、『男とも寝まくりだ』なんて言われたら、ちょっと複雑な気持ちになるので、やめておいた。
「ちなみに、この女子というのは全員妾の部下だ」
「へえ」
サアラは僕たちヒューマンと同じような姿形をしているけれど、部下たちはどうなんだろう? やっぱり、魔物みたいな見た目なのかな? いや、ヒューマンと一口に言ってもさまざまな見た目の人がいるように、魔族も人によってさまざまなのかな?
そんなことを考えていると、件の黄金の宿亭に到着していた。
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