第7話 再会
「いやー、戦った戦った!」
「数日の間で一気に四体のボス戦攻略よ!私達、レベルもコンビの息も格段に上がったわね」
ヒノカは満足そうに話しながらバルカンの店の扉を開けた。
俺達は立て続けにクエストに挑み、連戦の日々を過ごしていた。
第二の将
三本の首が、回復、攻撃、防御の役割を持つ大蛇。攻撃と防御の首は、切り落としても直ぐに再生してしまう厄介な奴であった。
俺は、その二つの首を惹きつけ切り落とすと、再生する瞬間を狙い、思念を使って巨大な鋼の杭を生成し、頭ごと地面に打ち付け動きを封じた。その隙に、ヒノカが本体である回復の首を切り落として討伐完了。
第三の将 聖角の
黄金の角を持ち、矢の如く素早い。前半は俺もヒノカも構えて守り、角を突き立て凄まじい速さで突っ込んでくる奴の動きのパターンを見極めていた。突っ込んで来るタイミングに合わせて、少しずつ斬り当てタイミングを掴んでゆく、そして、何度目かで仕掛ける。正面からの突進に合わせ、俺とヒノカは奴を挟むように横にズレ、剣を水平に構え、突っ込んで来た頭から尻まで一撃で斬り込み討伐。
第四の将 猛獣の
とにかくデカい。巨大であり体力も相当なものだった。攻撃などが大振りで隙が多く、ニ人がかりで休む間もなく、ひたすら斬り続け討伐。
第五の将 輝光の
輝石で象られた巨人。ガラスの光沢を放ち剣のように硬く、斬撃でのダメージは殆ど与えられない。奴の胸には心臓が左右に一つずつあり、そこが弱点だ。俺は奴の腕を駆け上り剣で左目を突き刺す。目を両手で押さえ怯んで膝を着いた隙に、剣先を鋭く伸ばし渾身の力で飛びかかり二人同時に心臓を貫く。クリスタルは勢いよく砕け散り討伐完了。
「バルカン、お土産だ!輝石のカケラ」
「おう!ありがとな」
毎度ボロボロになって帰る俺をバルカンは少しばかり心配していた。
「なあ、カズマ。お前達が強いのは分かってる。けどよ、少し休んだらどうだ?こっから先は格段にボス攻略の難易度が上がるぞ。それでだ、休んでる間に武器強化を俺に任せてくれないか?」
確かに……そろそろ休息も必要だよな。
俺は戦闘漬けでも構わないが、ヒノカの事も考えないとな。
「それもそうだな。お願いするよ。ヒノカもそれでいい?」
「あら、お休みをくれるの?優しいのね」
「よし、決まりだ。一日あれば仕上げるぜ!それに、代金は半額でいい」
「え!本当に半額でいいの?バルカンさん」
「ヒノカ、気を付けろ。友達の女の子でも紹介させられるぞ」
「ちげーよ!それはそれでアリだけどな」
「うふふ。考えとくわ!バルカンさん」
「お前達知らないのか?クリアレコード塗り変えてる凄腕の二人が現れたって街中で噂になってんだよ!それに続けとばかりに挑戦する奴らも増えてるって話だ。それでだ、俺が専属鍛冶屋となれば、この店の知名度も上がるってもんだろうが!」
「そういうことか。俺は構わないぜ。ヒノカは?」
「私も別に構わないわ。それなら尚更、ご期待に沿えるよう頑張らないとね!カズマ」
「それで死んだらシャレにならないしな」
「おい!!頼むぜカズマ」
俺とヒノカは装備をバルカンに渡し、明日は久しぶりの休息を取ることにした。
「ねぇカズマ、着替えたいんだけど。部屋を使わせてもらえない?」
「別に構わないけど」
着替えといってもコマンドから衣服を選択して押すだけの簡単な作業にすぎないのだが、コスチュームチェンジの際、一瞬裸になるのが難点である。
俺は、自分の部屋で女性が裸になるのを想像して、少し動揺していた……。
それを見ていたヒノカは、何かを察したのかどうかは分からないが、素早く反応した。
「なによ!別に部屋なんか荒らさないわよ」
「分かってる」
着替えに部屋へと向かって行く後ろ姿を見送ると、妙にニヤついたバルカンが近寄ってきた。
「おい、カズマ。ヒノカちゃん誘ってどっか行ってこいよ。毎回、クエストデートじゃあ、そりゃ味気ないぜぇ」
「何だよ、急に……」
「女の願いを叶えてやるなんて、俺は好きだぜ、そういうお前。でもよ、もう少し女の子として見てあげたらどうだ?剣の腕磨くのもいいが、男も磨けよ!あっはっはっ」
「……いや。無いな。」
な、なぜだ……女の子要素が見当たらないのだが。そもそも、ヒノカにそんな気ないだろうし。
俺は、倒れた時に助けてくれた、あの子みたいな優しい子がタイプだなあ。しかも綺麗だったなあ……カナデ。
独りで思い耽っていると、バルカンの後ろから突然声がした。
「カズマ。お待たせ!」
「うわあああ!」
「何よ。そんなに驚いて」
「別に何でもない……。それより、いつもの酒場に行くか?」
「君、着替えた私を見てもう少しない訳?女の子として見てくれるんでしょう?白シャツにロングスカート!大人っぽくて惚れ惚れた?」
「聞いてたのかよ……。良く似合ってると思う」
「よろしい!」
気不味そうにしている俺の耳を引っ張り、俺達はいつもの酒場へと向かった。
「痛てててっ」
「ほら、さっさと行くよ!」
なに怒ってんだ……?
店に着くと、ヒノカはいつもジンジャーエールと鶏肉のソテーを注文する。いつも決まってこれだ。
「毎回それ、注文するけどよく飽きないな」
「得意料理だったのこれ、焼くだけなんだけどね。なんか懐かしくてつい頼んじゃうの」
「料理するんだな。意外」
「失礼ね!女子力は高いわよ」
俺達が話していると、後ろから知的で堂々した声が話を割って入って来た。
「お話しの所、申し訳ない。君達がカズマくんとヒノカくんかな?」
ん……?何処かでこいつ……。
白銀の鎧で身を包み、上級クラスのレアソードを腰に差した、ご立派な騎士が現れた。
部下を4人従え、この酒場には不相応で、とにかく派手だ。
左胸に不死鳥の紋章がある。ルキフェル聖騎士団で間違いないだろう。
「聖騎士団様がこんな所で何の用なんだ?」
「こはれは失礼。私はルキフェル聖騎士団団長のホルスだ。君達の噂は常々耳にしていてね。是非とも我々のギルドに入って頂けないかとお誘いに上がったのだよ」
思い出した……以前、上位クエストに傭兵参加した時、大部隊を指揮してた奴だ。
「生憎、俺はソロプレー好きな引き篭りなんで団体戦は苦手なんだ。前にも丁重にお断りしたぜ」
「そんな君がパーティを組んだと聞いてね。もしかしたら気が変わったのかと思ったのでね」
「勘違いさせたならすまない。訳あって今はパーティを組んでるだけだ。ギルドに入る気はない」
「そうか……。君は未だ何も知らないとゆうことか……。何れ君の気も変わるだろ。その時はいつでも私を訪ねて来たまえ」
ホルスの言葉に何のことだか分からず俺が困惑していると。
後ろから聞き覚えの有る声がした。
えっ!!!
薄らと茶色がかった長い髪をなびかせ前へと出てきたのはカナデだった。
「ちょっと、団長!」
カナデは美しい顔をキリッと尖らせ、少し怒った様子だった。
「これはすまない、カナデくん。しかし、運命には逆らえないものなのだよ。では、私は失礼するよ。また会おうカズマ君」
ホルスはそう言い残すと、部下を引き連れ去っていった。
カナデは未だ言い足りない様子で、こちらに近づいて来た。
「ごめんなさい。2人の時間を邪魔しちゃったみたいで」
「いや、別にそんなんじゃないんだけど」
「もう我慢できない……。なんなの君!私には一切連絡して来ないし、お礼の一言も無いのに、こんな綺麗な人と楽しく過ごしてたなんて!いいご身分ね、凄腕剣士さん」
何なんだ、コイツは……。初めて会った時とは別人の様だった。笑顔は可愛いのだが……目が笑っていない。
俺が動揺していると、カナデは更に口火を切り、まるで溜まっていた何かを爆発させる勢いだった。
「それに、ヒノカ!やっぱりアナタと団長のやり方、私は好きになれないわ」
今、ヒノカって……ええええっ!!!
知り合いかよ!!!
「ちょっと、落ち着きなさいよカナデ。大好きなカズマくんを私に取られそうで嫉妬するなんて可愛いわね」
おいおい、待てよ!
何言ってんだよヒノカさん!
ちょっと落ち着きなさいよ俺。
「別にそんなんじゃないけど……」
その話し詳しく!!!
「あのー。2人は知り合い?」
「カズマは黙ってて!」「カズマは黙ってて!」
2人の息はぴったりだった。
俺は静かに手元のコーヒーを飲んだが、味がしなかった。
バクでも起きたか?
にしても、とんでもない再会だな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます