第6話 隠されたクエスト
上位クエスト攻略組に追いつくため、ステータスとレベル上げ、装備強化の日々を送っていた頃のことだ。
俺はヒノカから、どうしても手に入れたいアイテムがあると相談を受けた。
いつものように一日の終わりに、行きつけの酒場に寄って次のクエストのことや、必要な強化素材などの話しをしていた時だった。
「ねぇ、カズマ!下位クエストには隠れクエストが存在するらしいの。でね、その報酬アイテムがどうしても欲しいのよ!お願い手伝って!」
「別に構わないけど、出現条件は?」
「下位クラスのボスを二名以下で全て倒すこと」
「全12体…。最初の六体までは問題ないだろうな。けど、残り六体はかなり厳しいな……。クリアレコードを見ても、複合パーティで六人が最小人数だぞ」
「分かってるわよそんなことぐらい。だからお願いしてるの」
半分以下の人数では、今までの攻略データなど全く意味をなさない。
そもそも、そんなリスクを背負ってまでアイテムを手に入れようとする奴はそうはいない。だが、俺は少し興味を惹かれていた。
余程の報酬アイテムなのだろうな。それにだ、クリアレコードを塗り変えるという優越感は、ゲーム攻略者にとっては嬉しいご褒美だしな。
「こんな条件なら、余程のアイテムなんだろうな」
「カズマには、あまり必要ないかも。思い出の滴。それが報酬アイテムよ」
「思い出の滴……。効果アイテムとか?」
「んー。少し違うかな。記憶の中から、強く想うことを実体化できるの。少しの時間だけだけどね」
俺は人族のスキル、思念に似たようなものをイメージしていた。
実際に俺はこのスキルを僅かだが、使えるようになっていた。思念は心に強く想うことで、具体化、生成できるスキルだ。
例えば、炎や太陽などを燃えている物をイメージする。その念じる力の強さで威力が変わる。
レベルの低い間は安易に使うなとヒノカに何度も注意されたが、理解して生成できるまでかなりの時間がかかったのはゆうまでもない。
ドラゴンなんかも試してみたが、物体として生成できても意識までは生み出せない。魂のない、ただの大きなドラゴン人形だった。
「思念とは違うのか?記憶からってことは」
「そうね。意識なんてイメージできないわよね。でも、記憶からなら存在していた事実を元にして人なんかも生成できるらしいのよ。ちょっと興味あってね」
「家族にでも会いたいのか?」
「まあ、そんなところかしら」
お互いの間に少し寂しげな空気が流れた。
まずい……。変なこと聞いたか……。
そりゃ家族に会いたいよな。いつになったら帰ることが出来るのか分からないし。
もしかしたら……。
いや、必ずクリアして元の世界に戻るんだ!
「分かった。協力するよ」
「うん。ありがとう」
「ティア、ちょっといいか?」
「はいはーい!あっ!ヒノカ久しぶり」
「あら、ティアちゃん!お久しぶりね」
「話は聞いてただろ?下位クラスのボスデータを集めておいて欲しいんだ」
「了解っ!それにしても二人共また、とんでもないことに挑むのね。単純に考えて経験値を二人で振り分けるんだから、全てのボスを倒しちゃったらレベルなんか格段に上がるわね。うんうん、楽しそう!」
「ティア、死ぬ確率のが高いからな……」
「だーい丈夫!二人の愛の力があれば!」
「それは無いな!」「それは無いわ!」
俺とヒノカはテーブルを叩きながら勢いよく立ち上がった。あまりの息の合いように俺達は笑っていた。
「そんなに怒らなくても……」
こうして、隠されたクエスト攻略のための戦いが始まった。
翌日、クエストを受けるため、街の中央にあるアポローの塔へ向かった。
受付でクエストを選択し、レベルが条件を満たしていれば承諾される。
実に簡単だ。
「これでよし」
「それじゃ、さっそく出発しましょ!」
◇
第一の将
【青銅の
はじまりの街オルヴィエートから北に位置するレオン大渓谷。谷の奥深くに
断崖の壁に一本の道が奥へ続いている。逃げ場などは当然存在せず、最奥まで引き返すことなく突き進まなければならない。
「一気に突っ込むわよ!ボス手前のセーフティーエリアまでどっちが早く着くか勝負よ」
「ああ、いいぜ」
「もたもたしてると置いてくわよ」
ヒノカはそう言い残して飛び出した。
「おい!スタートは!」
「おっ先ー!」
彼女はいつも猪突猛進だ。後先など考えやしない。
結果なんか考えてたら先に進めやしないじゃない!それが、彼女の口癖だ。
もう少し慎重になった方がいいのだけどな……。
「まったく……」
この辺りの敵はそんなにも強くはない。
狼やハイエナに似た獣が襲いかかってくる程度だか、とにかく数が多い。
「くっ、止まったら押されるな」
群れをなして威嚇している五、六体に、一瞬で間合いを詰め、なぎ払うように斬り付けては倒してゆく。
「きりがないな、これ。ヒノカはまだ先か……」
片っ端から敵をなぎ倒し、鬼人の如く進んで行くと、谷の中盤地点でヒノカを捉えた。
「ヒノカ!お前が敵を倒さずに突っ走って行くから、全部俺の所に来てんだぞ!」
「お疲れ、お疲れ。戦闘好きには喜ばしいことじゃない!カズマさんっ!」
「お前な。ボスまでに気力が尽きそうだ」
「そんなことより。ほら、あそこ、先行パーティーがいるのよ。どうする?」
「もちろん先に行かせてもらう」
六人編成のパーティーが獣の群れと交戦していた。見たところ経験値稼ぎか、パーティー戦の訓練か何かだろう。
俺は壁を蹴り、人溜りを一気に飛び越え最前に出た。
敵の群れを斬り倒し一気に駆け抜けた。
「悪いな!ここのボス戦、先に行かせてもらうぜ」
後ろで何かを叫んでいる声がしたが、気になどしてはいられなかった。
こっちは二人のパーティー、しかもここまで一人で戦っている。なんとしてもヒノカの前に出ていなければ身が持たない。
「あら、カッコつけちゃって。皆さん、ごめんね。と言うことなんで、お先に行かせてもらうわね!」
俺は先にセーフティーエリアに着いてヒノカを待っていた。
「負けちゃったかあ、残念。ご丁寧に敵を全部倒してくれちゃって。お陰でつまらなかったじゃない」
「どっちにしても俺が倒す役割だったろ」
「バレてたか」
俺達は回復を済ませ、ボスのフィールド前で立ち止まる。
「ティア!ボスの情報は?」
「はーい。青銅の
「スピードが有りそうだな。作戦は?」
「まあ、戦ってみましょ!」
「そう言うと思ったよ!」
フィールド内へゆっくりと足を踏み入れると、張り詰めた空気が身体に伝わり、互いに息を潜めた。
すると、谷間の奥から押し返すかの様に、風が勢いよく吹き抜けてゆく。
次の瞬間、薄暗く視界の悪いフィールドの奥で巨大な松明が激しい炎を巻き上げ火を灯し、辺りを明るくした。
ボッ!!!!
こちらに気付くとゆっくりと立ち上がり、落雷の如く、けたたましく吠えてみせた。
ヒノカが息を殺し、横で呟くように俺に問いかける。
「先行は?」
「俺がいく。どのくらい硬いのか試してくる」
「なら私が後ろから、あいつの一撃目、剣で軌道を逸らすわ」
「任せたぜ」
俺が先行して勢いよく走り出し、その背後をヒノカが追走する。
ヒノカが僅かに横にずれたのを背後に感じると、俺は高く跳び上がり奴の真上から背中めがけ叩き斬る。
全身を覆う毛皮が光の反射で青白く輝いて見えた。
「くっそ、やっぱり硬いな」
まるで、銅を斬っているかのように鈍く重たい感触と共に奴の背中に浅く傷が付き、クリスタルが僅かに欠けた。
待ち構えていたヒノカが爪に剣を当てそのまま腕に沿って斬り上げてゆく。
「何よこれ、重たーい!」
軌道が僅かにずれ、俺の左肩に傷をつけた。
奴と向かい合い、獰猛な表情が正面間近で止まると、俺は喉元を狙い、下から大剣を背負うように切り上げる。
今度は手応えを感じた。クリスタルは半分まで砕けた。ダメージさえ与えられれば、俺達のレベルなら、さほど強いボスではないのだか、攻撃力は桁外れだ。
奴の腹と喉には、毛皮が無く硬さを備えていない。ここに斬り込めば大きくダメージを与えられる筈だ!
「情報通り外皮以外は硬くないな」
「でも、同じ手は効かないわよ」
「分かってる。次は俺が正面で攻撃を受け止める。下に滑り込んで腹を掻っ切ってくれ」
「まったく。簡単に言ってくれちゃって」
「いくぞ」
「りょーかーい」
奴は雄叫びを上げると、壁を蹴り両手の爪を立て、勢いよく飛びかかって来た。
それを大剣で受け止め、右に振り払おうとするその瞬間、ヒノカが下に滑り込みながら奴の首元から腹まで一気に斬り抜いてゆく。
怯んだのか、俺の剣の軌道に合わせて右に振り払われ着地した。が、直ぐさま勢いを付けこちらに突進してきた。
俺は構えが少し遅れ、奴に押し倒される。
剣先が喉元を捕らえ刺さったが、体勢が悪く深く入り切らなかった。
「くそっ!」
「まだ、諦めないわよ!おりああああ!」
ヒノカが大剣の柄頭を両手てで押し上げると剣先は喉の奥深くまで突き刺さり、クリスタルは砕け散り
俺達はその場に倒れ込み、レベルが上がってゆくのを眺めていた。
二人とも盾の装備無しってのは無謀だな。
俺も相当だけど、ヒノカも真面じゃないな……やっぱり。
「勝ったな……」
「そう、みたいね……」
「帰りはヒノカが敵の討伐担当な」
「命の恩人に酷い仕打ちじゃない?」
「帰ったらいつもの酒場で何か奢るよ」
「なら、よし」
彼女の手を引き、立ち上がるのを手伝った。
しなやかな手を見て、この手に救われたと思うと、少し可笑しくて、笑いを堪えた。
やっぱり盾は必要ないかな。
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