第6話 青春を捨てて将来の成功を選んだ幼なじみの過去を絶対に変えたくない男、生田目明 その2

 やっぱりオレのせいなんですね……オレの軽率な行動が紗代の人生を壊してしまったんですね……!


「ねぇねぇ、どうなのよめい。ずっと子どもの頃のままだと思っていた幼なじみが大人の下着を身に着けていてドキッとしたのでしょう?」


 うふふと上品に微笑みながら、跪くオレを見下ろしてくる紗代。その滑らかな髪はキラキラと金色に輝いている。

 このままでは紗代は非行少女まっしぐら。本来なら歩めたはずの勝ち組レールを大きく踏み外してしまった。全部、オレのせいで。オレがタイムリープなんてしたせいで。

 これじゃ、天国にいる紗代のお父さんに顔向けできない。

 そうだ、絶望している場合じゃない……! まだまだ軌道修正は可能なはず。何としてでも本来のルートに戻すんだ! 


「しませんよ! 何なんですかその髪は! 一体何のつもりなんですか!?」


 うきうきモードの紗代に向かって声を張り上げる。まずはこの格好を元に戻すことからだ。


「あら、変なことを聞くのね。何のつもりって、何のつもりでもないわよ。ノリよ」

「は?」

「ノリ。特に理由はないけれど、やってみたいと思ったから勢いに任せてやってみたの。高校生の行動に動機だとか根拠を求めるなんてナンセンスよ?」


 ダメだ……頭が痛くなってきた……。


「……スカートもそれ、ダメですからね。ほら、いつも通りの長さに戻してください」

「戻すって? どうやって戻せばいいの?」

「え、蜂巣さん、もしかして切っちゃったの?」


 呆然とオレ達のやり取りを眺めていた綾恵さんが、ここにきて話に入ってきてくれる。


「ええ。切っちゃったけれど。切るものではないの?」

「少なくともうちの高校じゃ切ってる人はいないと思うけど……風紀委員とか結構うるさいじゃん、うち。すぐに戻せるようにしとかないと大変だよ?」

「ほら、慣れないことするからこうなるんですよ? 紗代は大人しく勉強だけやってればいいんです」

「えー。あ。そうだ、じゃあ私、風紀委員会に入るわ。風紀委員長になる」

「は? え、もしかして取り締まる側になって自分が取り締まられないようにするっていう魂胆ですか……?」

「そんな単純な話ではないわよ。いろいろとやりたいことを思いついたの。ところで何でこー君はヤエっちに土下座しているの? あなたもパンツ覗こうとしてるの? 男子高校生ってそんなにパンツが見たいの? それなら私とお付き合いしましょうよ。パンツなんかよりいいもの見せてあげるわよ? たくさんセックスさせてあげるわよ? さぁ、授業なんてサボってセックスしに行きましょう?」

「だからそんなのダメだって言ってるじゃないですか! てかあなた青春を何かもの凄く勘違いしてますからね!? そんなに軽々しくセックスしないでください! 授業サボってセックスとか高校生として最悪の行為ですからね!」

「何よ、明。私のことを突き放しておいて、私が別の男になびいたらそうやって干渉してくるの? うーん、その複雑で面倒くさい感情の揺らぎ、とても青春っぽいわね!」

「そんなんじゃないですってば! 勉強だけしててくださいって言ってるんです! はぁ……ていうかそもそも紗代に出る幕とかないですから。光一君はあれでしょう、綾恵さんとその、そういう関係でしょう。ねぇ?」


 申し訳なく思いながらも、綾恵さんと光一君に水を向ける。

 過去を変えないためにも、できるだけこの問題に他人を巻き込みたくなかったのですが……。まぁでも実際綾恵さんと光一君は確か既にセフレ関係にあるはずだし、ここでさっさと紗代からのアプローチを拒絶しておいてくれるとありがたい。


「あー……えーと、いや、そっか、明君ってわたしと光一の関係、何か勘違いしてる感じ? ううん、わたし達全然そんなんじゃないよ。ただの幼なじみ。これからもずっとね」

「いや違う。ただの幼なじみなんかじゃねーし、明が思ってるような不誠実な関係でもねー。俺と綾恵は将来にわたって純愛を貫き通すんだ! 大好きだ綾恵! 付き合ってくれ!」

「だから! 無理だって言ってるでしょ!」


 ……は……?


 何を言ってるんですか二人とも……? ただの幼なじみ? 純愛? そういえば、紗代を止めるのに必死で気にしてる暇なんてなかったですけど、確かに朝からそんなこと言い合ってたような気がしますね……。

 いやでも。そんなわけありません。あなた達は高校でセフレ同士になって、そのままグダグダと流れに任せていった末に何となく結婚して、すぐに別れる運命だったはずでしょう。

 もしかして、まだセフレになる前ってことですか? どうでしたっけ、今が高二の四月だから……そうだ、今日だ! 始業式から二日目!

 思い出した……今日の午前中にこの二人は学校を抜け出して初めてのセックスをしているはずなんだ……! 何度も二人から相談を受けていたオレはそれを知っている!


 おかしい……おかし過ぎます……!


 二人が今ここにいるはずがない! そしてそれ以上に、綾恵さんが光一君を異性として見ていなかったりとか、光一君が綾恵さんに真剣に告白しているなんてありえない! そんな過去は今日もこの先も絶対に存在するわけがない!

 ということはまさか……またオレがやってしまったんですか……!? オレの何気ない行動が過去を変えてしまったんですか……!?

 いけない。そんなことがあってはいけない。たとえ紗代本人のことでなくても、過去を変えることはあってはならない。何が紗代の未来に影響を与えるかなんて分からないんだ。ましてや紗代の近いところにいるこの二人の変化なんて起こしてはいけない……!

 オレの周囲の人間模様は、オレの一回目の人生と全く同じでなければならないんだ!


「……なに甘っちょろいこと抜かしてんですか……セックスしなきゃダメじゃないですか……っ」

「え? 何か言った、明君?」「どうしたんだ、明。プルプル震えて」

「早く! セックスしてください! 今すぐ二人とも家に帰って! セックス! セックスですよ! 高校生なんて学校サボってセックスに溺れてればいいんです!」

「「ええー……」」

「やっと分かってくれたのね、明も私の考えが。そうよ! 高校生は授業なんてサボって青春セックスに耽るべきなのよ! でも家でするのもいいけれど、学校でしてしまうのも背徳感満載で最高なはずよ! 私達を縛り付ける学校という檻の中で敢えて禁忌を破ってしまうの! さぁ私達も行きましょう、禁断の園(体育倉庫)に!」

「はぁ!? 高校生がセックスなんて乱れすぎです! 紗代は性交渉禁止です! あなたは卒業するまで教室で縛られていなくちゃいけません! 一生自分の席に縛られててください!」

「えー……明あなた、支離滅裂よ。頭がおかしくなってしまったの?」

「あなたに言われたくないです!」


 何でオレが紗代に本気で心配そうな顔されなきゃいけないんですか!?


「明君、ホント誤解だから。わたし光一のことそんな目で見てないし」

「そんなわけありません! 何でそんなバレバレな嘘つくんですか! 綾恵さん、オレに光一君との恋愛相談してきてたじゃないですか! 光一君のこと好きって言ってたじゃないですか!」

「うっ……そ、そういえばそうだったっけ……」

「ほら、やっぱりそうじゃねーか! 俺のこと好きなんじゃねーか! 綾恵、俺も好きだ、結婚してくれ!」

「何でそうなるんですか、光一君も! あなただって紗代のことが好きだと言いながら綾恵さんのことも性的な目で見てたじゃないですか! そんな誠実な男じゃないでしょう!?」

「やっぱりそうなのね! こー君、私のこと好きなのよね! 付き合いましょう、制服セックスしましょう!」

「紗代は引っ込んでてください、話がややこしくなるから! これ以上余計なことしないでくださいね!?」

「ねぇヤエっち、明がヤエっちのこと好きみたいなの。付き合ってあげて。制服セックスさせてあげて? 今度みんなでダブルデートしましょう!」

「やめろって言ってんでしょぉぉおぉ!?」


 いや確かにそうだった。高校生の頃のオレがほんのりと綾恵さんに好意を持っていたのは事実だ。しかしまさか紗代にバレていたとは……。てかだとしても何でそれを言っちゃうんですか!?


「え、そうなんだ……明君……あー、でもそれもアリなのかもね……うん、ちょっと考えてみよっかな……」

「ちょっと! 何その気になってんですか綾恵さん! あなた光一君を諦めさせるためにオレのこと利用しようとしてるでしょう! そんなアホなことしてないで早く光一君とセックスしてください!」

「明……そうか、お前も綾恵のことが……だが、諦めろ。綾恵は口ではこんなこと言っているが俺のことが好きで仕方ないんだ。ツンデレってやつなんだ。知ってるか? ツンデレ」

「あら、こー君こそ本当はヤエっちよりも私のことが好きなくせに。お堅い女だと思って二の足を踏んでいるのでしょう? うふふ、安心して。私は変わったの。重く考えずにお試しのつもりで付き合ってみましょうよ。合わなかったら別れればいいだけの話なのだから。それも青春よ!」

「あーもぉー! わけわかんないですよ三人とも! なに暴走してんですか、落ち着いてください! もう高校生でしょ! 意味不明なことばっか言ってないで、ちゃんと真面目にオレの言うことを聞いてください! 綾恵さんと光一君は今すぐ学校を抜け出して性欲をぶつけ合うことだけが目的の獣みたいなセックスに溺れて、紗代は青春とか恋愛とか異性とか不純なことは一切考えずにただただ机に張り付いて勉強だけしててください! ね! 簡単でしょ!」


 だってあなた達は実際にそうしてたんだから!

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高校時代の同級生4人が一斉にタイムリープしたのに全員自分だけがタイムリープしたと思い込んで各々いろいろ企んじゃう話 アーブ・ナイガン(訳 能見杉太) @naigan

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