エピローグ 天晴 勝利のヲタク少年!

 翌日の学校。

 帝太郎は、休み時間にコッソリ、屋上へと葵を呼び出す。

「これ、昨日のディスク」

「わあ、ありがとう♪」

 受け取った葵は、ドキドキワクワクを隠せない、愛らしい笑顔だ。

 話題を探して、ちょっと噛んだりする、緊張の帝太郎。

「さ、撮影 楽しかったよ…」

「私も♪ 帝太郎くんの作ってくれたスーツとか、演技とか、とても感激しちゃった」

「あ、あはは…」

(い、いい感じだぞ…!)

 撮影中、帝太郎は葵の事を、ずっと見ていた。

 意外とオタクだったり、密かな願望があったり。

 そして、知れば知るほど、葵に引かれてゆく自分。

 興奮のあまり、コスプレ葵の肌を露出させてしまった時に、真っ先に意識を占めたのが「僕は責任を取る!」だった。

 だから、逆転の撮影をしながら考え、編集をしながら意を決し、今。

「あ、あ、葵ちゃんっ!」

「え…?」

 いっぱいいっぱいな少年の声に、少女は少し驚いた様子だ。

 帝太郎は息を呑んで、葵に向く。

 葵は、何やら必死な帝太郎に「?」の表情。

 校庭からは、休み時間を楽しむ生徒たちの、楽しげな声が聞こえていた。

 数時間にも感じられる数秒が、二人の間で流れる。

「…帝太郎 くん…?」

 葵が、不安げに覗き込む。

(い、行け!)

 拳を握った帝太郎が、葵を見ながら、精いっぱいの勇気を出した。

「僕はっ、葵ちゃんがっ、大好きですっ! どうかっ、これからもお付き合いって–お付き合いしてっ、くださいいいいいいっ!」

 噛んで、言いながら、深く頭を下げる。

「え–」

 突然の告白に、少女は驚きを隠せない。

 少年の大声は校庭まで聞こえたらしく、学校中がシン…と、僅かの間、静まり返った。

 帝太郎は、頭を下げたまま、身を固くしている。

 判決を待つ被告人の気分だ。

 時間が音もなく過ぎてゆく。

(…ダ、駄目かあぁぁ…)

 敗北した悪の戦士よりも絶望的な想いに飲み込まれそうになった時、葵が小さな声で告げる。

「こ、こちらこそ、あの–ふふつつかものですがっ–よよよよろしく、ぉぉおねがい、いたしますです…!」

「…ぁ…」

 震えながら見上げると、葵は耳まで真っ赤に染めて、潤む瞳で帝太郎を見つめていた。

 視線が合うと、一秒くらいしてからハっと気づいて、少女は恥ずかしそうに視線を逸らす。

 葵がOKをくれた。

 まるで夢みたいだ。

「ぼ…僕で、いいの…?」

「……はぃ…」

 声も身体も小さくなって答える少女は、恥ずかしそうに嬉しそうに、少年の好意を受け入れていた。

 被告人から一転して、善悪を超えて天国へと舞い上がる気分だ。

「っっっやっ–」

 やったーと叫び出しそうになった瞬間、屋上の入り口から、クラスメイトたちの声が響き上がった。

「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」」」」」

 帝太郎の声と告白に、クラスのみんなが気づいて、屋上まで駆けつけたらしい。

 男子たちは驚愕。

「ぅおいウソだろ! 風間っちが帝太郎とっ!?」

「ヘ、ヘビヲタの帝ちゃんが、風間っちに告白しただとっ!?」

「しかも葵っちが、それを受け入れただとおおおっ!?」

 対して女子たちは、なんとなく感づいていた感じだ。

「あらやっぱりねー♪」

「葵ってば、皇上くんが好みだったんだー♡」

「え、えっと…」

 否定しない葵。

 葵に憧れていた男子たちは、もはや暴動寸前だ。

「まさか風間っちが、オタク好みだったなんてええっ!」

「くっそおおおっ! 俺もオタクだったのならあああっ!」

 勘違いしている男子たちも多いけど、帝太郎に対する怒りは、みんな一緒だ。

「「「とりあえずゲンコツ食らわせさせろ!」」」

「な、なんでだよ~!」

 男子なりの祝福から逃げ回る帝太郎だけどアッサリ捕らえられ、クラスメイトの手でモミクチャにされている。

「男子バカだね~」

「えへへ」

 そんな中でも、帝太郎と葵は、新しいコスプレ撮影に想いを馳せたり。

 休み時間が終わっても、屋上はニギヤカだった。


                              ~終わり~

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