第十七話 刮目 大流血戦!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 ジッパーが下げられてゆくと、鎖骨が浮いた白い肌が覗けてくる。

 薄く色づく少女の肌は、緊張からか、シットリと汗ばんでいるようにも見えた。

「うぅ…っ!」

 衣装を剥がされてゆく恥ずかしさの中で、コスプレ少女はそれでも、キャラクターを護って耐えている。

(あ、葵ちゃんを…脱がせてる…っ!)

 どこか現実味の無い、目の前の素晴らしい光景。

 胸の鼓動が、マスクの中で五月蠅く感じるほどに、高まってゆく。

 もっと見たい。

 帝太郎の手は、既に少年自身の意思ではなく、求める先への無意識が動かしていた。

 膨らみの頂点を過ぎて、平らなお腹へとジッパー開拓は進む。

 恥ずかしさで乱れた吐息により、お腹が小さく上下していた。

 ジッパーがベルトにあたると、悪の右手は器用にもベルトの下へと指を潜らせ、ジッパーだけを指先で押して、ジリジリと下げてゆく。

「そ、そんな…っくうぅ…っ!」

 両の手足を引っ張て藻掻く零ダッシュだけど、悪のチェーンに自由を奪われ逃れられず、はだけさせられてゆく身体を隠す事も出来ない。

 ジジ…はらり。

 噛み合わせが外されると、ウェスト以外がワンサイズ小さい衣装は左右に分かれ、少女の肌が、左右を残して露わになった。

「は、あぁぁ…っ!」

 鎖骨から谷間、お腹から縦長の臍と、白い下腹部と純白のショーツが、悪の戦士とカメラに注視される。

(あ、葵ちゃん…っ!)

「ふ…ふふふー…」

 もう怪人少年は、キャラクターどころでは無くなってゆく。

 ドキんドキんドキんドキん!

 高まる興奮で、もう耳の中は自分の鼓動しか聞こえない。

「ダ、ダーク…メタルぅ…っ!」

 大きな瞳を恥ずかしさなどで濡らしながら、まだ帝太郎の名前呼びではない葵は、頑張ってキャラを維持している。

 そんな少女に応えたくて、少年は必至に悪のキャラクター性を演出。

「ご…極上のは–肌よのぅ…」

 言いながら、剥き出しな肌を鎖骨からお腹まで、悪のツメをツツツ…と滑らせたり。

「ぁあぅ…っ!」

 苦悶する葵に、鼓動は更に高まってゆく。

 ドキんドキんドキんドキんドキんドキんドキんドキんっ!

 もっと見たい!

 葵ちゃん!

 健全な本能が求め、悪の両手が自制を失い、開かれた変身少女の衣装をムンずと掴み、左右へと拡げた。

「葵ちゃんっ!」

 ガバっ!

 胸元を広げられた次の瞬間、葵の双乳が露わにされる。

「っ–きゃあああああああああああっ!」

 大きな膨らみが陽光を浴びて、解放された途端にタプるっと弾む。

 白い乳肌は艶めいて、プリンのように柔らかく震えた。

 先端の乳首は桃色で艶々で、全体の姿から細部に至るまで、少年脳に一瞬で完全記憶されてゆく。

 少女の生乳房を直視した瞬間、正義の必殺技を食らったかの如く、帝太郎の理性がボカンと崩壊。

 少年は身も心も、熱い野望に飲み込まれていた。

「あっあっ、葵ちゃんんっ!」

「てっ–帝太郎くんだめぇええ–っ!」

 葵が思わず叫んだ事が、帝太郎への、ある種の追撃。

「ぐはあああっ!」

 興奮が高まり過ぎた帝太郎怪人は、盛大な鼻血を噴出しながら転倒。

 マスクの目にハートマークを浮かせながら、ピクピクと痙攣しながら気を失ってしまう。

「てっ、帝太郎く~んっ!」

 葵の焦り声が屋上に木霊していた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「ぅうん…ハっ!」

 気が付くと、帝太郎は屋上の床で仰向けに転がっていた。

 マスクが外され、目の上には冷たく濡れたハンカチが被せられている。

「帝太郎くん…よかった、気が付いたのね」

 頭上から、安堵した葵の声が聞こえる。

 何だか柔らかくて暖かい枕の感触を感じつつ見上げると、コスプレ姿の葵が、優しく逆位置に見下ろしていた。

「葵ちゃん…ハアアっ!」

 混濁していた記憶が鮮明になると同時に、葵が膝枕してくれていた事も認識。

 少年は慌てて正座になると、コスプレ葵に向かって超高速の土下座を捧げた。

「あっ、葵ちゃんごめんなさいっ! 調子に乗って、葵ちゃんを裸にしたりしてっ! 本当にすみませんでしたっ!」

 嫌われたくない一心で、帝太郎は床に額を擦り付ける。

「あ、あの、帝太郎くん…。それは、あの…」

 自分もドキドキしていたから、葵は帝太郎を責めるつもりなんて毛頭ない。

 ただ、あらためて言われると、やっぱり恥ずかしい。

「そ、その事は、別に–」

「それにっ、鼻血出して気絶とかっ、格好悪いし! 膝枕までさせちゃってっ、介抱の手間までかけさせちゃってっ!」

「そ、それは気にしないで。そ、それより、帝太郎くんは、もう大丈夫? なんだかすっごく、鼻血 だしちゃってたけど…」

「え、あ、うん! なんか頭のスッキリしてるし、煩悩が浄化された感じ?」

 見ると、辺りには鼻血が渇いた茶色の痕跡。

 ヘルメットの中も鼻血まみれで、洗濯が必要だろう。

「よかった…。倒れちゃったときには、どうしようかと思ったもの」

 裸に剥きかけた事に対する怒りはなく、帝太郎の回復に、心から安心してくれている葵だった。

 話によると、帝太郎が興奮の頂点で気絶した後、葵は両手のチェーンを頑張って外し、少年を介抱してくれたらしい。

 悪のチェーンは、引っ張ると外れないけど上手くずらすと手首を抜けるように巻いていただけだから、葵は気付いて外したのだろう。

 今は、はだけた衣装も綺麗に戻されていて、まるで戦いに勝利した少女戦士そのままに、愛らしくて美しかった。

「と、とにかく…介抱してくれてありがとう。それに その…色々とごめんね」

「う、ううん…」

 撮影時を思い出して、お互いに恥ずかしくなってしまう、オタクの同士。

「あ、あの…」

 葵が、恥ずかしそうに尋ねてくる。

「さ、撮影した映像…どぅするの…?」

 女子としては、当然気になるだろう。

「ぼ、僕は残しておきたいけどっ、葵ちゃんが嫌なら、勿論 消すよ」

 言いながら、カメラを手にする。

「僕にとっては最高の映像だし葵ちゃんの天使姿だしっ–あわわっ–ででもやっぱり葵ちゃんの意思を尊重するというかそのっ!」

 本音が駄々洩れな帝太郎に、葵はモジモジしつつ、思い切って告げる。

「あ、あのっ…てて帝太郎くんが良いなら、の、残しても、いぃょ…」

「ホントっ!?」

 我が耳を疑いつつも、訊き間違いではありませんようにと、特撮の神に祈る少年。

「そ、そのかわりっ、誰にも見せないでね! 約束だからね…っ!」

 懇願しながら、頬が上気している。

 本気の願いを受け入れてくれたのだと、帝太郎は思った。

「うん! 約束するよっ! 僕は葵ちゃんの天使姿っ、誰にも見せない、って言うか、葵ちゃんの天使姿を見ていいのは僕だけだしっ! 絶対に、葵ちゃんと僕だけしか、見られないようにするからっ!」

「う、うん…」

 少年の熱血に押されて、少女はコクんと頷いた。


              ☆☆☆その③☆☆☆


 帝太郎も、今さらだけど葵に尋ねたい事があった。

「あの…葵ちゃん、スーツの下って…その、ノーブラ…?」

 触れた時も、剥いた時も、認識していたけど興奮でボヤけてしまっていた事だ。

 少年の問いに、少女は天然+慌てた様子で応える。

「う、うん…私、特撮のアクターさんってみんな、アンダー着けてるって思ってたけど…見せて貰った帝太郎くんのノートだと、女性戦士はみんな スーツの下はショーツだけだったから、ああそうなんだって、思って…え、あれっ、私、何か間違えしちゃった…っ!?」

 恥ずかしさと同時に、大変な失敗で迷惑をかけてしまったのではと、心配している葵。

 対して帝太郎は、葵の認識の素晴らしさに、脳内総会が全会一致で称賛していた。

「いいいやっ! 葵ちゃんは何一つとして間違ってなんてないよ! 僕たち二人の間では完全なる正解だよっ! 葵ちゃんっ、流石だよっ!」

「そ、そう…? よかった…」

 心からホっとしている少女だった。

「とにかくっ、あとは零ダッシュの逆転勝利を撮影すれば、撮影部分は完全だよ! 今日は陽が傾いてるから、また来週、撮影しようよ!」

「はい!」

 同趣の二人は、近々のコスプレ撮影にときめいていた。

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