第十一話 怪奇 善悪の撮影会!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 帝太郎にとっては特に必要のない自分撮りだけど、葵は撮影したいらしい。

 というか、悪の戦士に対してさりげなく「さん」付けする無垢なヒロインが、愛おしい。

「ポーズ、私も考えていい?」

 頬が朱い少女は、野外でのコスプレ撮影に、やや興奮してテンションが上がっている感じだ。

 帝太郎怪人は、変身葵が考えたポーズで写真に納まる。強そうに両手を上げて雄たけびを上げる感じだとか、いかにも冷徹な感じでのカメラ目線っぽい仕草とか。

 メカハサミを見せ付けたり、悪の鞭を頭上で振るったりもする。

「帝太郎くん…格好良い~!」

 からかっているわけではなく、瞳も潤む素の感想だ。

 こんな敵に、追い詰められるピンチ。

 そのシュチュエーションは、帝太郎だけでなく、葵自身もドキドキするシーンであった。

 変身ヒロインと怪人の撮影が終わったら、今度は戦闘シーンを激写する。

「こ、こう…? え~い!」

 腰を捻ったヒーローパンチを、帝太郎怪人の胸に食らわせる一枚。

 逆に、怪人の鞭で細い首を絞められて苦しそうな一枚。

 ダーク・メタルの腹部へと、零ダッシュの立ちキックをお見舞いする一枚。

 この一枚は、もう少しで下着が覗けそうな、ギリギリの神カットになったり。

 ハサミでの責めや、更にパンチラギリギリのローアングルなど、撮影した写真を一緒に確認していると。

「な、なんだか…Hな感じの写真が…」

 恥ずかしそうに頬を染めつつ、瞳はドキドキで濡れている。

 という感想に、帝太郎あらためて確信したのは。

(葵ちゃん、やっぱりピンチのシュチュ、好きなんだな)

 という事実だった。

 その後も、数十枚のシュチュ撮影を終えると、次はいよいよ、帝太郎も初めてと言っていい、動画撮影だ。

「アクション…う~ん どうすればいいのかな…?」

 なんて悩む少女に、少年は自らのちょっとした黒歴史を語る。

「少し昔の話をしようか…」

「?」

 分かりづらいネタ振りの後、帝太郎は「自分にしかわからないであろう恥ずかしい話」を始めた。

「いや実はさ、このスーツを作った時に 動撮した事あったんだよね…。一応、色々とポーズとったり、ツメを振るったりとか、振るった爪がカメラに当たって倒しちゃったりとか。で、撮り終えて見てみたら データ目線っていうか、ポーズもイマイチだし、怪人が一人でこじんまりと暴れてるだけだから絵面も乾いた笑いにしかならなかったし…。何より、スーツの出来の方が気になっちゃって 映像そのものには集中できなかったよ」

「そ、その映像 今度見せてもらっていい?」

「え い、いいけど…男一人の映像なんて、ホントにつまらないよ?」

「わ、私は見てみたいわ…」

「そう…?」

 駄目映像に興味を持つとは思わなかった帝太郎だけど、オタクとして尊敬する帝太郎の映像は何であれ見たい。という、葵のオタク心もあった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「それじゃあ、まずは零ダッシュのパンチ攻撃が二手~三手あって、ダーク・メタルがその攻撃を喰らったりして。次はダーク・メタルの攻撃で、葵ちゃ–零ダッシュがピンチになる。って感じでやってみようか」

「は、はい!」

 初めての撮影で緊張している葵は、帝太郎が「撮影の時にはキャラ名で呼ぶのがデフォなのに葵ちゃんと名前呼びしそうになって慌てた」という事実も、認識できていなかった。

「最後は逆転して零ダッシュの勝利だけど、とりあえずアクション撮っちゃおう」

「う、上手く出来るかな…私…」

「気軽にさ、葵ゃんがやりたいようにやればいいんだよ。攻撃の受けは、僕がなんとでもするからね。あ、それと パンチもキックも遠慮とかしなくていいからね。このスーツ ガワも厚いし、本気でやった方が絵になるから」

「…うんっ!」

 コスプレ少年が頼もしく思えて、コスプレ少女は明るい笑顔を輝かせていた。

 少し陽が動いていたので、カメラの三脚を移動させて、撮影再開。

「で、ピンチ撮影に関してだけど。葵ちゃんが無理だって思ったら、キャラ名じゃなくて僕の名前で呼んで。そうしたら、僕もそこでストップするから。遠慮しないで、安心してストップさせて構わないからね」

「う、うん。ありがとう」

 少年の気遣いに、安堵の笑みを魅せる葵だ。

 まずは、撮影の参考にという感じで、ワル側を撮ってみる。

 カメラの前に、威圧感を出そうとアオリ気味に身構えて、口の無いマスクだから頭を動かして、全身でセリフを吐く。

「フフンっ、お前がドライバー零ダッシュとかいう小娘か。なかなかの得物だっ! この俺様っ、闇の狩人ダーク・メタルが、せいぜい可愛がってやる事としようかっ!」

 まるで本当の悪人みたいな言い回しを、全身の動きと大きな声でキビキビと発する怪人。

 見ている初心者の葵は、思わず赤面。

 勿論、帝太郎は微塵も恥ずかしくなんて、ない。

 セリフを終えて二秒ほど停止してから。

「はいカット!」

 と、帝太郎の宣言。

 イソイソとカメラの後ろに戻ってきた怪人は、正義の少女と一緒に映像チェック。

「こんな感じで、葵ちゃんも気楽に楽しんで」

「う、うん…それにしても…帝太郎くん 恰好良い~」

「そ、そうかな…?」

 ガタイのある帝太郎のコスプレだから、ダーク・メタルの身長は何気に二メートル越え。

 カメラ映えもするというものだろう。 

 帝太郎の芝居に、勇気を貰った葵。

 今度はカメラの向きを変えて、零ダッシュの名乗りシーンを撮影する。

 少女のタイミングに合わせて、頷きのОKサインがでたら、撮影開始。

 はあぁ…こくん。

「はいスタート!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る