第十話 挑戦 初めての野外!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 三脚に立てたデジカメで怪人が写真を撮っていると、少女戦士、零ダッシュがカメラに接近。

「今度は帝太郎くんを取りましょう。えっと…怪人さんの名前は何?」

 常識人なら悩むトコロだけど、常日頃から自分設定を遵守しているのがオタクである。

 正義少女の質問に、間髪入れずに名乗ってポーズ。

「フっハハハっ! オレ様は闇のハンター、ダーク・メタルっ–あ!」

 調子に乗って右手のメカハサミを振り上げたら、天井の照明器具にガツンと当たった。

「だ、大丈夫?」

「うん。やっぱり部屋だと ちょっと狭いね」

 威圧的な自己紹介に比して、呑気な受け答えの怪人である。

「これだと、思ったようなポーズは取れないな……あ、そうだ。どうせなら 屋上で撮らない? 一緒に動画とかも!」

「お、屋上…コ、コスプレのまま…?」

 この格好で部屋から出る事を想像したらしく、羞恥と期待と戸惑いで、愛顔が染まる。

 しかし降臨した変身天使を前にして、帝太郎もガンガン押す。

「大丈夫だよ。僕もよく屋上でアイテム系とかこの衣装の写真とか撮ってるし、エレベーターで上がればすぐだよ。屋上は基本的に出入り禁止だけど、鍵は僕が預かってるから、誰も入ってこれないし!」

 言いながら、キッチンの引き出しから屋上のカギを取り出して見せた。

「う、う~ん……」

 葵は、ドキドキしながら戸惑っている。 

 瞳が潤っているのは、実は自分でも「広い場所で思い切りコスプレアクションしてみたい」願望があるからだろう。

 コスプレした葵との写真や動画撮影というワクワクに、帝太郎も自分を抑えきれない。

 使い慣れたメカハサミで変身少女の掌を器用に優しく取ると、カメラを持って行動開始。

「さ、そうと決まったら急ごう!」

「えっ–て、帝太郎くん…っ!」

 葵の抵抗は弱かった。

 エレベーターを待つ間、少女は人が来ないかと周囲をキョロキョロ。

 扉が開くと、思わず帝太郎怪人の背後に隠れて、小さくなってしまう。

「誰もいないよ。さ、早く上がっちゃおう」

「う、うん」

 悪の怪人に手を引かれてエレベーターに乗った、正義の変身少女。

 途中の階で主婦が乗って来て、知り合いがいるらしい上層へとご同行。

 扉が開いた時には驚いた様子だったけど、マンション内ではコスプレ少年の事はそれなりに知られていた。

 主婦はやや硬い笑顔で挨拶をくれて、しかし少年たちのコスプレがなかなかの出来だったので、少し緊張が解けた様子。

 少女が恥ずかしそうに隠れてしまった事も、笑顔の要因だろう。

 帝太郎は、ヘルメットを脱いで素顔を見せると「どうも」と、常識的な挨拶。

 主婦的には「噂のコスプレ少年を見た」と、都市伝説的な驚きの笑顔で挨拶を返して、目的のフロアで降りる。

 こうして、二人は屋上へのフロアに到着した。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 エレベーターを降りた最上階から、階段を上って屋上へ。

「屋上に到着~!」

「わあぁ~、広~い」

 昼過ぎの天気は晴天で、屋上からの眺めは爽快だった。

 近所にはここ以上に高い建物が無い住宅街だから、三六〇度が解放された青い空。

  駅ビルとかの繁華街は離れた場所だから、撮影の邪魔には全くならない。

 裏の公園からも、屋上なので見られる心配もなし。

 他者の視線を気にする必要のない広い空間で、コスプレ葵の解放感も、安心している様子だった。

 初めて見る景色を楽しんでいる葵に愛しさを感じつつ、帝太郎は三脚とカメラを設置する。

「よし。それじゃ、まずは零ダッシュの撮影 しようか」

「あ、はい」

 逆光にならないように気を付けて、葵の変身ポーズをバシバシと撮影。

「何かアクションっぽいポーズ、出来る?」

「えっと…え、えいっ!」

 言いながらパンチ。目の前に怪人を想定してのチョップ。

 格闘技をやっているわけではない少女だから、全てのポーズは素人の女の子そのままで、それがまた可愛い。

「ポ、ポーズ…うまく出来ないわ」

 頭の中で考えていたキレのあるアクションが、実際に動いて見ると思っていた以上に難しいと、動いてみて初めて分かった。という感じだ。

「まあ、コスプレアクションは慣れもあるからね。僕はこういう感じも 好きだけど」

 好きという言葉に、ちょっと意識してしまったらしい葵。

「そ、そぅかな…」

 ちょっと恥ずかしそうにモジモジして、パチンと手を鳴らす。

「あ、そ、そろそろ、怪人さんも撮影しようか」

「そう? それじゃあ」

 帝太郎怪人が、カメラに向かってノッシノッシと歩を進めた。

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