第八話 その時が来た 悪者参上!
☆☆☆その①☆☆☆
翌日、帝太郎は寝坊して学校に到着。
「す、すみません遅刻しました!」
一時間目の授業中に飛び込んだら、クラスのみんなに笑われて、古文の男性教師の命令で廊下に立たされた。
放課後、新しく決めた場所で、葵と待ち合わせ。
遅刻の罰として掃除当番に加えられた帝太郎は、急いで掃除を終わらせると、待ち合わせ場所にダッシュで参上する。
校門から右に曲がって四つ角を二つほど過ぎた、大きな病院の駐車場入り口の大樹が、今日からの二人の待ち合わせ場所だった。
駅前から変更した理由は、やはり人出が多いので、待ち合わせしているとクラスの女子とかと鉢合わせしてしまうからだ。
葵的には、帝太郎といる事より、オタクばれが恥ずかしいらしい。
そんな待ち合わせ場所に、少年が走って到着した。
「はぁ、はぁ、はあぁ…。お待たせ、あ、ぁ葵ちゃん…っ!」
写真を撮った時に、つい名前で呼んでしまって、その代わりに黒ノートを見せた。
なので帝太郎も、折角だからと頑張って名前呼びだ。
「ううん。皇上くんこそ、お掃除ご苦労様でした」
汗だく少年の頬に、葵は綺麗な白いハンカチを充ててくれる。
頬に触れる柔らかいハンカチの肌触りと、薄布を通して感じられる葵の指と、弱い力が愛おしい。
(あぁ…葵ちゃんとハンカチ…良い香りだな~)
しばらく愛香を堪能していたら、乱れた呼吸が大人しくなった。
「ふぅ…ありがと。それじゃ、行こうか」
「うん」
歩きながら、少女が尋ねてくる。
「今朝 遅刻しちゃったけど、何かあったの?」
「まぁ、ちょっと明け方まで起きてて。あ、ウチにくれば解るよ」
葵は無垢な笑顔を「?」で小さくかしげて、帝太郎の横を素直についてきた。
マンションに到着。
最近は、部屋代替わりな玄関掃除を、葵も手伝ってくれていた。
帝太郎が一人で掃除していた頃よりも隅々まで綺麗になって、先日マンションに尋ねて来た叔父さんも「おい帝太郎がまともになったな」と笑っていた。
少女を部屋に入室させると、帝太郎は奥から、徹夜の要因となったブツを取り出す。
「葵ちゃん、これ」
「え……わぁあ~っ、すっ…すっご~いっ!」
床にカバンを置いた葵の目の前に広げられたのは、明け方までかかった仕上げで完成したばかりの、変身ヒロインコスプレ一式だった。
モチーフは、ドライバー零の少女アレンジ版。
頭部は葵の顔がよく見えるように、フルフェイスではなくハーフタイプのヘルメット型。
ドライバー零の顔が象ってあり、男性用の帽子やウレタンなどを使用して制作した物だ。
黒いスーツは長袖+ミニスカートで、前閉じのジッパーで、着脱し易い造り。
色的にも袖部分だけが緑色で、ちょっとしたアクセントになっている。
赤いマフラーが別パーツで、胸部は布を立体縫製してシルエットを出して、オリジナルをモチーフにしたメカディテールも適度に配置。
手袋とブーツはそれぞれDIYショップで購入した物に、元のデザインのディテールラインを書き込んで塗装した。
子供のころからアイテム等を自作していた帝太郎だから、ペイントも縫製もなかなかの上質。
本来なら一ヶ月くらいかかる作業だけど、とにかくコスプレした葵の姿を早く見たかったのと、何より、葵が喜んでくれる笑顔が見たかったから、一週間ほどで完成させてて、徹夜で仕上げたのだ。
「これ…とても、綺麗……」
差し出されたヒロインスーツを両手で受け取り、魅入る葵は、感動と興奮を隠せない様子だ。
「こ、これっ、皇上くんが作ったの!?」
「ま、まあ…」
「す…凄いっ、皇上くんって凄いわっ!」
なんだかいつもより、親し気に褒められた感じだ。
「えへへ…あ、あのさ」
照れくさい帝太郎は、以前に話したジャージ利用の怪人スーツも持ち出す。
「僕はこれを着るから、葵ちゃんもそれを着て、二人で撮らない?」
二人でコスプレ。という誘いに、少女の瞳が興味津々で濡れる。
「えっ–そ、それはいいけど……えっと…」
「着替えなら、隣の部屋を使っていいよ。中から鍵もかけられるし」
「そ、それじゃあ…失礼します」
葵はコスプレ衣装一式を抱えると、嬉しさとドキドキを隠せない様子で、隣の部屋へと小走りで駆け込んだ。
葵が購入したベルトは、少女自身のお願いで、この部屋に預かっている。
やはり年頃の女の子としては、親バレが恥ずかしいのも当然だろう。
「さて、こっちも着替えるか」
制服を脱いでパンツとシャツだけになると、自作したジャージ素材の怪人スーツを着用。
「どんな怪人系でもある程度の対応が出来るように、デザインは無個性にしたからな」
ジャージそのものを、黒系のペイントで色としてのアクセントを付けて、アルミ素材やチューブ等を加工して「生体+メカ」風にデコレートされている。
マスクも、工作用紙でフレームを作って大体の形を作り、黒系の布で全体を覆いつつ、様々なマテリアルを加工して自作した怪人系フルフェイスだ。
強そうな謎の悪役をイメージして、顔の半分は機械に覆われた感じに仕上げてある。
「さて両手はっと…」
先日に披露した悪のメカハサミや悪の鞭のほかにも、巨大な引っ掻き爪や電撃っぽいメカハンド、二の腕まるごとビーム砲など、実にバリエーション豊かだ。
今まで一人でニヤニヤしていた武装たちを、しかも憧れの少女と一緒に楽しめるなんて、まさに夢のようだった。
「ん~♪ 写真によって取り換えるとして、とりあえずは悪の鞭とメカハサミが無難かな」
帝太郎が怪人スーツに身を包んだ頃、奥の部屋から、変身完了した葵が出て来た。
「あ、あの…どぅ…かな…?」
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