第七話 神聖 創作する者!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 それから二人は毎日、放課後になると駅前で待ち合わせをして、帝太郎の部屋へ。

 叔父さんのコレクションは、年代物のヒーローアイテムが中心である。

 そのため、ベルトという大型アイテム購入が初めてな、ある意味オタク初心者の葵には、見る物も聞く事もみんな興味深々。

「これは 最初のコズミックマンの変身カプセル。今やってるコズミックマン・レインボーの変身ブレスは光ったり音声が鳴ったりするけど、この頃のは光るだけ。それでも 叔父さんたち子どもには、革新的だったんだって」

「わあぁ……本当に触っていいの?」

 変身カプセルを握って光らせる葵が、とても可愛い。

 ついでに、電気系のホビーは配線などが経年劣化して動作不良になる事が当たり前。

 なので帝太郎は、それらの修理保全の技術も、けっこう身に着いていたりする。

 このカプセルも、半年ほど前にジャンクのおもちゃから配線コードを貰って、修理したばかりだ。

 そんなアイテムを葵が楽しんでいる姿は、何だか誇らしかったりもした。

 少年に変身ポーズを教わって、右手でカプセルを高々と掲げて「変身!」とポーズ。

 男性が変身していたアイテムを、少女が使っている。

 それだけで軽い興奮状態へとトランスできる、重度のオタク帝太郎。

 オリジナルは無言で変身してたけど、そんな知識は、変身少女の可愛らしさの前では完全に無力だ。

「あ…これ、何?」

 写真撮影の合間に少女が気づいたのは、古いホビーの山に積まれた、ちょっと珍しいアイテム。

「ドライバーの…旧一号…? あ、二号かな…。オートバイじゃなくて、車に乗ってるの…?」

 バイクヒーローのドライバー二号が、なんとオープンカーに乗っているオモチャである。

「ああコレ? 当時はこんな雑多なホビーも 当たり前に販売してたんだって。ホラ、車体のシールが番組名だけじゃなくて、自動車会社のもあるでしょ。ドライバーが、当時の子供たちにどれだけ人気があったかの証だよね。今だとこういう キャラクター性を無視したオモチャとか、まず出ないだろうね」

 なんてオタク自慢も、正直に嬉しい。

 二人の時間は、それだけではない。

 今日の葵は、駅のロッカーに隠してあった、大きめの紙袋を持参している。

「あ、あの…この間のベルトを持ってきたんだけど…また、あの…か、怪人の爪でピンチになってる写真とか…撮ってもらって、いい…?」

 葵もベルトを持ってきて、ピンチの写真を撮って。と、ねだっていた。

 ヒーローの女体化を妄想する少女の、他言無用なピンチ願望が目覚めつつあるようだ。

「う、うん! すっごくいいよ! あ、でも一緒に、別のアイテムも試してみない?」

「別のアイテム?」

「そ。昨日の夜に完成した、これ」

 と言いつつクローゼットから取り出したのは、百均で売っているクリアピンクの縄跳びを加工した、悪の鞭。

 掌に被せる自作カバーから鞭が伸びていて、中にはアルミの針金が通してあって、先端はロボットプラモの棘鉄球を取り付けてある。

 針金の強度の都合上、直線状に形をキープするとかは出来ないけど、相手に巻き付けたり、とかには十分だった。

 クリアピンクの悪の鞭を手に取って、葵もドキドキし始めている様子だ。

「す、すごい…皇上くんって、なんでもできちゃうのね…!」

 少女の眼差しが、尊敬でキラキラと輝いている。

「そ、それ程でもないよ。それじゃ、まずはこれを巻き付けて ピンチにしようか」

「はいっ!」

 今日の写真は「両腕を胴体ごと鞭で絡め捕られて変身できない少女」のピンチ。

 鞭を身体にグルグルと捲いて、先端は後ろ手で葵自身が掴む。

 帝太郎が鞭のグリップカバーを左手に被せて、右手では先日も活躍した悪の爪を装着し、少女の頬へと近づける。

 カメラは三脚とリモコン。

「こんな感じかな…痛くない?」

「う、うん…!」

 モニターの中で、葵の頬が上気して、危機感を表す。

 そして眼差しには、やはり興奮の艶が隠せない。

 制服の上から鞭が軽く食い込んで、セーラー服のバストが強調されて、セーラーも僅かにズリ上がる。

 変身ベルトとの隙間からは、白くて平らなお腹と縦長の臍が覗けていた。

 日曜日の朝には絶対に放送できない感じの、背徳感が溢れまくるピンチ。

 清純な葵だからこそ、拘束されているだけで、セーラーが少し捲れているだけで、超Hなのだ。と、少年は確信していた。

 更に言えば、葵への爪責めは、頬や首よりも、胸などへの責めの方が、表情に官能性を感じさせてもいる。

 葵はきっと、Mヒロインの願望もあるのだろう。

「しゃ、写真…ちょっと、え、Hな感じ…なのかな…。皇上くん、この写真も…秘密にしてね…!」

「うん! 約束するよ!」

 正直、帝太郎だって、こういう葵をずっと独り占めしたい。

 しかし、だからこそ、可愛くてセクシーでエロピンチという申し分のない写真に対して、ちょっとした不満も感じ始めていた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「それじゃ、また明日 学校で」

 陽が傾いて葵を見送った後、帝太郎は自転車を走らせて、隣駅の駅前にある大型のリサイクルショップへ。

 エスカレーターで三階まで上がると、そこは女性物のフロア。

 帝太郎の不満とは、変身前の写真しか撮れない事だった。

 スーツそのものが無いのだから仕方がないけど、仕方がないで終わらせる常識人であったら、そもそも創作系オタクになんて、ならない。

 欲しいけど無い物は、作る。

 というワケで、ここ数日、帝太郎は葵の為のアレンジスーツを製作していたのだ。

「とにかく、グリーン系の長袖と黒系のシャツで下地は出来てるし…あとは、合皮の黒いスカートに銀色の線を入れて…ブツブツ…」

 背の高い強面男子が真剣な眼差しで、小声でブツブツと呟きつつ少女服を物色している。

 周囲のオバさんたちはともかく、OLさんたち若い女性は、不審な少年に思い切り怪訝な目つき。

 しかしその程度の威圧感など、創作意欲に燃える重度なオタクにとって、蚊ほどにも感じない。

 ラッキーな事に、数十点の中からイメージに近い素材を三点ほど見つけた。

「あ、これなんかいい感じだぞ! 形を整えるだけで、ほぼ無加工でいけそうだ! この上にコッチを被せて…ブツブツ…」

 こんな感じで物色とレジを済ませた帝太郎は、再び自転車を走らせて更に必要なアイテムを入手すると、作業場でもあるマンションの部屋へと戻っていった。

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