第五話 脅威 暴かれる秘密!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 憧れの女子に土下座までされてしまっては、それがどれ程に残酷な願いでも、断れる男子など存在しない。

 帝太郎は、ほぼ思案する間もなく、葵にせがまれるまま恥ずかしいエロ妄想ノートを、正直に差し出すしか出来なかった。

「ど、どうぞ……」

(特撮の神様…どうかっ…どうか嫌われる事だけはっ、ありませんように…っ!)

「そ、それでは 失礼して…こくん」

 手渡しした帝太郎も緊張しているけど、恭しく両手で受け取る葵は、ナゼかもっと緊張している様子だ。

 恐る恐る、禁断の扉を開くような感じで、表紙を捲った才女は、最初のページで目が飛び出しそうな程、驚く。

「ひゃあぁあ~っ!」

「すっ、すみませんっ!」

 思わず土下座の帝太郎だとはいえ、実は最初に描かれているイラストは、それほど過激でもなかったり。

 ヒーロー戦隊「暁戦隊フジヤマレンジャーの女性戦士 フジピンクが、第三話登場の扇風機怪人の強風攻撃で、スーツのスカートが捲られている」というシュチュ。しかもモノクロ。

 もちろん、番組本編にそんなシーンはなかった。

 しかも実際の変身ヒロインのスーツは、ミニスカートに見えて下半身も含めた全身タイツというデザインだ。

 だから、オタク少年が描いた妄想イラストのように、スカートが捲れて白いパンチラ。

 なんて事は、特に昭和が過ぎてからのテレビ番組全判的に、あり得ない。

 そんなパンチライラストだけど、初めて直視した女子的にはHだし、男子の妄想そのものに驚いている様子でもあった。

「ス、スカートが捲れてパンツですっ!」

「はいっ、すみませんっ!」

 葵の驚きに、帝太郎の精神HPがダメージを貰う。

「つ、次は…ひやああぁああああっ!」

 次のページはもうカラーで「宇宙から来ました的な巨大ヒロインが、悪宇宙人の作った狭い透明カプセルで手足を伸ばした大の字姿勢で捕らえれていて、銀色のグラマーボディにはエネルギーを吸い取る虹色のスライムが滴り這いずっている」というシュチュ。

 絵は直接的でないものの、しかしページの外側には、帝太郎直筆による熱の籠った妄想解説まで書かれていたのだ。

 そんな解説まで、流れで読んでしまった少女は、愛顔を真っ赤に上気させて、しかし視線は外せなず、小さくアワアワと震えている。

「ホっ、ホンっトにっ、ホンっっトにぃっ、すみませんですっ!」

 恥ずかしいエロ妄想を、憧れの少女にガン見されている。

 もはや黒ノートではなく、自身にとっての黒歴史。

 自身のエロ妄想を使った羞恥プレイ。

 穴があったら入りたいという言葉が、このうえない実感として理解できてしまう。

 床に額を擦り付ける程にまで土下座したままの帝太郎だから、気づけなくて当然だけど、ノートを観る葵の瞳がハッキリと潤み、愛らしい小顔は頬や額だけでなく項や頭皮までもが、上気していた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 そのまま陽が傾くまで、葵は自らの熱に促されるままにページを捲っては、羞恥と歓喜と感動の可愛い悲鳴を上げ続けた。

 そしてその度に帝太郎は、額を打ち付けるような土下座をし続けた。

「……ふううぅぅ…あ…っ!」

 少女がノート一冊を見終えた頃には、室内もすっかり暗くなっていて、二人はようやく、時間の経過に気づく。

(あんな恥ずかしいエロノート……きっと心底から呆れられてしまっただろう

…うぅ…)

 正座したまま、真っ赤な額を気遣う余裕もなくガックリとうなだれる帝太郎に、葵は向かい合った正座のまま正位置で丁寧にノートを返しつつ、艶々の唇から小さく言葉を零した。

「あ、あの…大切なノート、見せてくれてありがとう。その…び、ビックリしたけど、嬉しかったし…す、凄く 興味深かったわ」

 優しい言葉に見上げると、葵は怒ってる様子も呆れている様子も嫌悪している様子も、全く無し。

 それどころか、羞恥で頬が朱くなったまま瞳を潤ませて、どこか嬉しそうにさえ見えた。

 憧れの少女による羞恥攻めをされた気分で精神HPが0になった帝太郎は、女神様にお伺いを立てるように、恐る恐るで尋ねる。

「ぁの…こんな 妄想ラクガキに必死になってる男って…け、軽蔑…とか、しないの…?」

「え…? えっとね…ド、ドキドキ しちゃいましたっ!」

 思い切ってそう告げた少女の眼差しからは、秘密にします。というメッセージが、ハッキリと感じられた。

 二人は、趣味的に極めて近接距離だったのだ。

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