第四話 仰天 土下座VS土下座!


              ☆☆☆その①☆☆☆


「あ、そうだ! どうせ写真を撮るなら…」

 可愛い変身少女に刺激をされて、帝太郎は部屋の隅のクローゼットを全開にして、自分の趣味を更にオープン。

「これっ–あわわっ!」

 正面ジッパーを思い切り降ろしたら、中から数冊のノートが雪崩れを起こした。

(き、気を付けて開けないと…っ!)

 開けるまで忘れていたけど、クローゼットの中には、帝太郎の妄想ノートがしまってある。

 決して他言無用なノートを慌てて拾おうとして、表紙の端に指が引っかかり、少しページが捲れてしまう。

 この無地のノートは「怪人に捕らえられてHな責めを受けている変身ヒロイン」という、帝太郎のエロ妄想イラストで埋め尽くされている、エロノートであり黒ノートだ。

 最初はシャーペでのラクガキで済ませていたけど、そのうちにミリペンで清書するようになっての仕上げを経て、最終的には色鉛筆での着色済み。

(さすがに、コレを見られたらドン引きだよな…)

 気を付けてノートをしまいつつクローゼットから取り出したのは、製品としてはほぼ絶対に発売される事のない、そして帝太郎が自作しまくった、怪人系のアイテムたちだった。

「見て、これ前作のライバルキャラ、カニデスロイドの鉄の爪鋏」

 プラ板やエポキシパテ等を駆使して作り上げた、腕に被せて装着できるメカっぽい悪の爪。

 六十センチ程のメカ爪を左手の被せると、開いたり閉じたりして葵に見せる。

「わああ…! これ、皇上くんが作ったの? 凄く格好良い~っ!」

 驚きながらもウットリ見つめる、変身ベルト少女。

 自作のパーツとか、叔父さんや、イベントでしか会えない友達以外で、初めて見せた。

 葵がこんなに喜んでくれている事に、少年の喜びが高まってゆく。

「ほかにもっ、中学の時のジャージを改造した、怪人スーツとかもあるよ!」

「か、怪人スーツ! そんな本格的な物まで、作っちゃうんだ…!」

 などと驚きつつ、少女は潤む瞳で少年自作の爪を眺めながら、夢見るようにおずおずと、手を伸ばして触れた。

 変身ベルトを巻いた制服少女が、悪の爪に触れている。

「ぉおおっ! こ、これは…っ!」

 帝太郎が妄想する「怪人になって正義の少女にHっぽい事をする」に、極めて近接な光景だ。という気が、とてもする。

 軽い興奮状態の帝太郎は、思い切って提案をした。

「このツメで、変身前にピンチになったってシュチュとか、撮ろうよ!」


              ☆☆☆その②☆☆☆


「えっ–ピ、ピンチって…?」

 戸惑う表情を見せた葵に、帝太郎は、はしゃぎ過ぎたと今更気づく。

「あっ–ぃや、その…」

 取り繕おうとしたと同時に、葵から小さく返事が。

「こ、皇上くんが、撮りたいなら…あの、変な感じじゃなければ…う、うん…」

「い、いいのっ!?」

 恥ずかしそうに頷く葵の瞳が、熱っぽく潤んでいる事に、怪人役の少年は気づいていない。

 帝太郎の提案で「変身前のヒロインが鉄の爪で襲われて変身できないピンチ」というシュチュに決定。

 葵が壁を背にして、帝太郎の左腕の装着されたツメで、細い首を軽く挟む感じ。

「大丈夫? 痛くない? 苦しくない?」

「う、うん。大丈夫…ぁ…」

 左右からゆっくりと、悪の爪で軽く首を挟まれる変身少女は、既にちょっと呼吸が乱れている感じだ。

 三脚とデジカメを設置して、再度、悪の爪で少女を責める帝太郎。

 爪を両手で掴んで抵抗する葵のポーズも決まると、リモコンでカメラのシャッターを押す。

 カシャ。

 機械的な合成音がすると、同時に、葵は苦し気な表情を魅せていた。

 何枚か撮影して、また二人で写真を確認。

「さぁ、どんなかな!?」

 背面ディスプレイに映し出された画面に、二人は思わず、同時に息を呑んだ。

「「こ、これは…!」」

 怪人の爪に苦しめられている少女の表情が、苦痛と同時に、ホンノリと被虐的な艶を見せている。

 下がったに細い眉に少女の儚さが表れていて、薄く開いた瞼が扇情的だ。

 頬にかかる髪が唇の端に挟まれていたりする感じなんて、煽情性を超えて背徳的な危機感すらあった。

 頬の上気が葵のガンバリを確信させて、白い首を絞める悪の爪を必死に掴む、少女らしい華奢な腕。

 肩幅よりも開いた両脚は、パツパツの腿が力んで、必死さをアピールしている。

 セーラー服のお腹に捲かれたベルトも、変身できないヒロインのピンチっぷりを、凌辱感タップリでよく表現されていた。

 特撮好きとして唯一残念なトコロは、当たり前だけど背景が室内というところ。

 これ程の素晴らしいモデルに対して、背景が失礼過ぎた。

 とはいえ、見方によっては逆に、日曜の朝では絶対に扱えないヤバい系のシュチュぽいとも言えた。

「すっ、凄く可愛いくてセクシーだよっ!」

「そ、そうかな…」

「そうだよ! なんて言うか、僕がヒーローだったらすぐにでも駆けつけて助けたくなるけどっ、怪人だったら絶対に逃がしたくないっ! みたいなっ!」

 こんな言葉でも、帝太郎にとっては感情から溢れ出る程の、最上級の褒め言葉である。

「そ、そうなの…?」

 可愛いと褒められた葵は、耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうにモジモジする。

「セ、セーラー服…だから…かな」

「それも含めてっ、いや何よりもっ、葵ちゃんのっ、このポーズと表情だよね! 変身少女の気丈な感じと少女らしい儚い感じがバッチリ伝わってくるし! 押されているけど必死に抵抗している感じの表情とか、抜群だよっ!」

 興奮真っただ中の帝太郎は、つい名前で呼んでしまっている事に、気づいていない。

「い、今…名前…」

「え……ハっ–あ、あのっ、ついっ、ごめんなさいっ!」

 ちょっと上目遣いで指摘をされた帝太郎は、慌てて土下座して詫びつつも、ちょっと困った感じな葵の表情がとんでもなく可愛い。と認識もする。

「い、いいよ~、名前で呼んでも…そ、そのかわり、お願いがあるの」

 ちょっと拗ねた感じの許しからの、拗ねたままでのおねだりが可愛い。

「な、なに…?」

 写真を消してとか言われたらどうしよう。なんて思っていたら、予想外の願い事を告げられる。

「あの、その…さ、さっきの、ちょっと捲れた…イラストが描かれたノート、見せてほしいんだけど…」

「えっ–っ!」

 僅かだけどページが開いてしまった一瞬を、どうやら見られてしまっていたらしい。

(み、見せてくれって事は…エロイラストだって、確認したいって事…つまり…)

 こんなイヤらしい妄想ばかりしているネクラキモオタと同類だなんて思われたら死んでも死にきれないから今日でサヨナラもう学校でも絶対に話しかけないでねコッチも見ないでねって言うかサッサと転校しちゃって私の前には一生現れないでね。

 とか言われたらどうしよう。

 などと恐れを抱いていたら、ナゼか葵は綺麗な土下座姿勢。

「おっ、お願いします。どうかさっきのノートを、拝見させてくださいっ!」

「土下座っ!?」

 人生で初めて見た、女性の、しかも憧れの葵の土下座。

 帝太郎は、拝見などと言われた事すら、頭に引っかからないほど、混乱していた。

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