第一話 告白 少女の秘密!


              ☆☆☆その①☆☆☆


 背後からの伺う視線を感じることも無く、帝太郎はレジを済ませ、限定アイテムを無事に入手。

 いずれ販売されるフォームチェンジ用のスマフォデバイスのパッケージはカラフルだけど、限定版はモノクロに「限定版シール」というチープ感。

 これもまた、限定特典の味である。

「うしっ! スマフォ手に入れ~っ! やったやった! 帰って早速、動作チェックだ!」

 勝利者気分で下りのエスカレーターへと向かう途中で、ソフビコーナーを通りかかる。

「ソフビは来週なんだ。それにしても、最近はすっかり怪人系が出なくなったよな」

 子供のころ、叔父さんが集めていたヒーローソフビでよく遊んでいた帝太郎。

 当時は怪人のソフビも結構な種類が発売されていたと、知識はある。

 少年自身も、お風呂とかに持ち込んでのヒーロー遊びなんかに熱中したモノだった。

 ディスクで販売していたテレビシリーズや映画版だけでなく、同じ作品でも叔父さんが地方などでの再放送を録画していたビデオカセットも見ていたり。

 更に商品に至っては、叔父さんが集めていた当時品も、よく見せて貰っていた。

 そんな純粋培養なオタクの帝太郎だけど、小学校低学年くらいの頃に、変身ヒロインのソフビが発売されるようになると、ヒーロー趣味にもプラスアルファ。

 一人で隠れて、怪人のソフビとヒロインのソフビを手に取ると、ちょっとエッチなヒロインピンチ遊びを、自然に始めてもいた。

 捕らわれた変身ヒロインが、スカートを捲られてパンツを剥き出し。

 更にエスカレートすると、怪人たちの手でバストやヒップを触られる。

「や、やめて~!」

「フフフ。フフフ!」

 そんな感じの些細な興奮でひとしきり満たされると、ヒーローが怪人のアジトに乗り込んで、怪人たちを見事に撃退。

「覚悟しろ! 必殺キ~ック!」

 なんて遊びが、帝太郎のヒーロー遊びのデフォとなっていった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 怪獣のソフビを手に取って。そんな事を思い出す。

「ま、ヒロインのスカートは 当時でも今でも素材が固くて決して捲れないんだけどな。しかもやっぱり、アウトラインで成型されるからスカートの中身なんて、塵程にも存在しないんだけどな」

 とか不満を言いつつ、帝太郎は根本的にヒーロー好きだから、最後は正義の勝利が鉄則中の鉄則。

 少年の中で、ヒーローはぜったいに負けない存在へと神格化されてゆき「自分は怪人としてヒロインにHな事をして倒される」という、人にはぜったいに理解されないであろう妄想を抱く高校生へと、成長していた。

 しかも番組に登場しながらも発売されなかったアイテムなどは、躊躇う事なく自作。

 敵側の一クール幹部の武器や、コメディ回限定のアイテムなどを、プラ板やエポキシパテ、流用可能な様々なアイテムや、時には材木まで駆使して、自己満足レベルでの制作。

 特撮ファンページなどに写真を投稿すると、志を同じくする同士たちが様々なコメントや称賛をくれたりする。

 そんな帝太郎のアイテムは全て、ヒーロー趣味を教え込んだ叔父さんが経営しているマンションの一室に、叔父さんの特撮私物と一緒に預かって貰っていた。

 ちなみに、部屋代と称して週に三~四度、マンションの玄関周りを掃除させられている帝太郎でもある。

 デパートの五階フロアからエスカレーターで降り始めて、フと気づく。

「あ、そういえば単三電池、無かったんだっけ! このベルトは……」

 パッケージの裏を確認すると、最近は割と主流なボタン電池ではなく、案の定、単三電池を二本使用する玩具だった。

「ガジェットなら大抵はボタン電池だけど、このベルトは本体が電飾だもんな」

 とにかく戻って電池を買おう。

 四階フロアで下りのエスカレーターを降りて、反対側の上りエスカレーターに乗って、再び五階へ。

 レジに並んでいた電池のもとへと歩む帝太郎は、そこで予想外の人物と鉢合わせをした。

「電池電池……あれ?」

「え……ひゃあ!」

 可愛い悲鳴を上げて驚いたのは、学年一の才女、男子たちの憧れの的、帝太郎も想いを寄せる少女、風間葵。

 しかも、恥ずかしそうな愛顔の下半分を両手持ちで隠しているのは、本日発売のドライバーズベルト。

「か、風間さん……って、その、手に、しているモノは…っ!?」

 学年一の才女には似合わない、特撮ヒーローの変身ベルト。

 ヒーローマニアな帝太郎が授業も上の空で欲し、ここ十分以内に手に入れて感動したばかりなのだから、自分の目をどれほど疑おうが、間違いない。

 帝太郎の驚きに、葵は、母に連れられている幼稚園児から見ても慌てふためいているとしか見えない程の、狼狽っぷりを見せた。

「えっ–あっあのこれはつまりそのえっとっ–」

 その場で右往左往しつつ、パッケージは手放さない少女。

 しかもウソや言い訳が出てこないあたり、根が正直なのだろう。

 真っ赤になって慌てる葵に、女性店員が声をかける。

「お客様、お待たせ致しました。紙袋と、限定特典でございます」

 どうやら、済ませたレジに袋が無くて、店員さんが取りに行っていたらしい。

 これで、葵が変身ベルトを購入した事、確定だ。

「ひ、ひぃっ!」

 秘めていたかったらしい事実が白日の下に晒されて、葵は再び小さく悲鳴を上げる。

 この気持ち、ヒーローホビーを理解できない両親を持つ帝太郎には、直感的に理解出来てしまった。

 自身も中学生のころ、断りも無しで母にソフビを捨てられてしまった悲しい過去がある。

 自然と、慰めの言葉が出ていた。

「あの、風間さっ–うわわっ!」

 真っ赤になってパニックしているらしい葵は、しかし紙袋と特典を受け取ると、帝太郎の手を取って突然のダッシュ。

 生まれて初めて少女に手を引かれる少年は、階段を駆け上がって六階の屋上まで連れ去られていた。

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