第38話:師弟対決 リゲル対アイビス
憎い。
殺す。
殺したい。
何故?
仇?
両親の?
村のみんなの?
当然だ。
当然?
本音は?
本当の気持ちは?
本当は、ただ殺したいだけでしょ?
⋯⋯そんな事は無い。
本当に?
本当にそう言い切れる?
⋯⋯本当、の、はずだ。
でも、気持ち良かったでしょ?
剣を振るう感覚、首を断つ感触、恐怖に怯える瞳⋯⋯。
自分が上に立つ優越感。
気持ち良かったでしょ?
⋯⋯⋯。
素直になったら?
受け入れてみない?
今、あなたがやりたい事は何?
⋯⋯⋯。
さぁ、自分に正直に、嘘偽りの無い感情で。
正直に、口に出して。
言ってみて?
⋯⋯。
⋯⋯⋯■■■■ぃ。
◆◆◆
「⋯⋯師匠」
「⋯⋯⋯」
アイビスの呼びかけに、リゲルは何も反応しない。
ただ、呆然と突っ立っていた。
「⋯⋯師匠。正気に戻ってくださいよ。⋯⋯いっしょに帰りましょう?みんなと、いっしょに⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
アイビスは呼びかけを続けるが、返事は無い。
「⋯⋯ししょ」
「⋯⋯ぅぁああああああぁっ!」
「っ!」
リゲルは突然叫び声を上げ、アイビスへと襲いかかった。
アイビスもとっさに反応し、二本の短剣と足さばきで迎撃する。
最初は互角にさばき合うも、アイビスは徐々に押され始めていく。
体格差、力、反応速度、武器の長さ。
さらに、今のリゲルは自身の魔力によって身体能力を引き上げられており、アイビスには不利な状況だった。
「くっ⋯⋯!ししょ⋯⋯、なんでここまで強く⋯⋯⋯っ!」
いつもの組手、模擬戦の時とは段違いの力。
アイビスは、まだその原因に気づいていなかった。
(⋯⋯考えろ、考えろ!「いつも冷静に、相手をよく見て、瞬時に判断」、師匠に教わった事でしょ!)
アイビスはリゲルの攻撃を受け流しながら、考えを巡らせていった。
(いきなりここまで強くなるなんて、普通は考えられない!何か原因があるはず!⋯⋯師匠に出来て私に出来ない事、師匠に出来て私に出来ない事⋯⋯!)
「ああああああっ!」
「⋯⋯っとぉ!」
思いっきり上半身を仰け反らし、リゲルのハンドソードによる突きを寸前でかわし、後方に飛んで距離を空けた。
その瞬間。
「があああああああぁっ!」
「げえぇっ!」
リゲルのハンドソードが赤く光り、超巨大な炎が出現。それが矢のごとく鋭く変化し、アイビスに向けて放たれた。
それは《フレイム・ランサー》。初級クラスの魔法であり、本来は一般的な槍よりも小さい程度なのだが、リゲルの底なしの魔力によって規格外の大きさと火力になっていた。しかも、その炎の色は『蒼色』である。
「ダメーーーーー!」
アイビスはとっさに左手を前に突き出し、炎をわしづかみにした。
炎はアイビスには触れたところから次々と消滅していった。
アイビスが持つスキル《
「あ、危なかった⋯⋯。森が火事になるところだった⋯⋯。⋯⋯師匠、こんなところでも魔法を使ってくるなん、て⋯⋯⋯?」
その瞬間、アイビスはある事に気がついた。
「⋯⋯もしかして、魔力による身体強化?だとしたら⋯⋯」
そこまで気づけばやる事は一つ。
アイビスは瞬時に突撃して距離を詰めていった。
「⋯⋯⋯シャァッ!」
アイビスは身体全体に仕込んでいた短剣を次々と投擲していく。
それをリゲルは全て弾き落としていった。
「バケモノ過ぎるでしょ⋯⋯っ!師匠ぉ!」
「でやあぁぁぁぁ!」
再び二人の剣が重なり合う。
が、アイビスは真っ向から打ち合おうとはせず、ハンドソードをつけた右手を蹴り上げて体制を崩させる。
その僅かな隙をつき、アイビスはリゲルに抱きついた。
「これで⋯⋯!」
魔力無効で身体強化を打ち消せる。そう判断しての決死の行動だった。
その行動は成功した。
リゲルの身体から力が抜けるのを感じ取った。
「良いですよ、アイビスさん!上出来です!」
「おっまたせ〜♪」
どこからともなく現れる二人の人影。
見間違えようも無い、瓜二つの美少女。
ファルシアとフェリシアだった。
「え?え?」
「拘束魔法陣展開。魔力回路へと強制接続開始」
リゲルとアイビスの二人の足元に、巨大な魔法陣が展開される。
「ちょ、ちょっと?」
「そのまま
「魔力回路へ強制接続完了!魔力制御⋯⋯、膨大過ぎて抑え込めない?!」
「ご主人様の魔力をアイビスさんへ向けて強制放出します。アイビスさん、魔力の中和をお願いします!」
「え、え、え?りょ、了解?」
「放出開始」
ファルシアの合図で、リゲルの体内から魔力が放出され始めた。
その魔力はどす黒く、かつとんでもない量であった。
その魔力を、アイビスは全身に浴びる形で受け止め、浄化させていく。
「う···っ、うげえぇぇ⋯⋯。⋯⋯き、気持ち悪ぅぃ⋯⋯⋯」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん?無効化出来る量を超えちゃってるみたいだよ!」
「そこは耐えてもらう他にありません。せめて、制御出来る量まで減らさないと⋯⋯」
リゲルの体内から次々と溢れ出る魔力を、アイビスが次々と打ち消していく。
だが、打ち消す量を溢れ出る魔力量がわずかに上回り、それがアイビスの身体へ影響を及ぼし始めた。
「うっぷ⋯⋯。⋯⋯ま、魔力って、こんな感じな、の⋯⋯?⋯⋯おぇぇ⋯⋯っ」
「あわわ⋯⋯。アイビスちゃん、もうちょっと頑張って〜!」
「⋯⋯は、早く⋯⋯、⋯⋯ぅぷっ」
「⋯⋯今です!魔力放出停止、強制制御!」
「了解!一時的に意識を切り取るよ!」
二人は一気に魔力を押さえ込み、同時にリゲルを気絶させた。
「た、助かっ⋯⋯ってうわ!」
全身に浴びていた魔力が消失し、安堵したアイビスへ気絶したリゲルが寄りかかり、アイビスはその場に押し倒されるように崩れ落ちた。
「⋯⋯⋯」
「⋯⋯終了しました。お疲れさまです。アイビスさん」
「きゅう〜⋯⋯」
「あははっ、ご主人様といっしょに気絶しちゃったね〜♪」
「そのようですね。⋯⋯まぁ、一番頑張ったのはアイビスさんなので、そのまま寝かせておきましょう」
「だね〜。あ、じゃあワタシはツバキさんたちの様子見てくるね?ついでに手伝ってくるよ!」
「そうですね。お願いします」
「はいは〜い♪」
フェリシアは楽しそうに走り去っていった。
残されたファルシアは、未だ気を失っている二人の頭を撫でながらつぶやいた。
「⋯⋯たまには、こうして撫でる側になるのも良いものですね」
そうつぶやくファルシアは、わずかに笑みがこぼれていた。
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