第37話:怒り

「⋯⋯⋯」


 私は、夢を見ていた。


 とても幼い、無力で小さな少年の夢。


 少年の目の前で、両親が斬り殺される。


『お父さん!お母さん!』


 少年は両親を呼ぶが、返事は返って来ない。


 その隣で、黒ずくめの男が佇んでいた。


 周りでは、黒い魔物たちが暴れまわっていた。


『⋯⋯お母さん』


 少年は母親の手を握るが、その手は動く事は無かった。


『お母さん、お母さん、お母さん!』


『⋯⋯うるさいガキだ』


『おか⋯⋯』


 少年の小さな身体に、ロングソードが突き刺さった。


 男が剣を引き抜くと、少年の身体はその場に崩れ落ちた。




「⋯⋯あいつらが。⋯⋯あいつらが、父さんと母さんを⋯⋯」


 黒ずくめの男たちが何者か、今なら分かる。


 黒影団。


 世界に広がる暗殺者集団。


 ⋯⋯許さない。


 ふつふつとどす黒い感情が湧き上がってくる。


 これは、怒り。


 今まで忘れていた感情。


 思い出さないよう、ずっと封印していたモノ。


 怒りを感じると、同時に殺意が芽生えてきた。


 父さんの仇。母さんの、村のみんなの仇。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯殺す」



 ◆◆◆



「⋯⋯くそっ!何なんだよ、お前?!」


「でやあぁぁぁぁあ!」


「ぎゃあああああああ⋯⋯っ!」


 一人、また一人。男たちの首が飛んでいく。


 里を襲撃した黒ずくめの男たちは、ついにリーダー格の男を残すのみとなった。


「⋯⋯ちっ、部下どもは全滅か。⋯⋯テメェ、何もんだ?」


「⋯⋯はあぁっ!」


 リーダー格の男の問いかけに答えず、リゲルは右手のハンドソードを振るう。


 男はそれに反応し、長剣を引き抜いて防いだ。


「ちぃっ!この強さ⋯⋯、魔力による身体強化も入ってやがるか!」


「あぁぁぁああっ!」


 その後何度か斬り結び、男の右手が斬り飛ばされた。


「ぐああぁっ!」


「たあっ!」


 リゲルの蹴りが炸裂し、男は大木に叩きつけられた。


 リゲルは男にとどめを刺そうと追撃をかける。


「く⋯⋯、⋯⋯ぅ。⋯⋯ここ、までか」


 男は観念しながらも、目をそらす事はしなかった。


 ハンドソードが目前に迫る。


「⋯⋯⋯?」


 だが、その剣は届かなかった。


 男の目の前には、黒いマントを羽織った赤い髪の少女の姿があった。


 少女は短剣二本を交差させ、リゲルのハンドソードを受け止めていた。


「⋯⋯⋯⋯くぅ!」


 そして思いっきりリゲルを蹴り飛ばし、距離を空ける事に成功した。


「⋯⋯何故」


「ちょっと黙っててください!」


「な⋯⋯、がっ!」


 男は頭を短剣の柄で横から殴りつけられ、一瞬で気絶させられた。


「⋯⋯⋯師匠」


 少女はリゲルの方へと振り返り、告げた。


「もう⋯⋯、やめませんか?」

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