第34話:緊急任務

「緊急任務を伝える」


「⋯⋯緊急、ですか?」


 翌日、私はギルドへと向かった。先日の出来事をバレンさんに相談する為だ。


 だというのに、ギルド内へ入った瞬間バレンさんに出迎えを受け、緊急と言われてそのまま応接室へと案内された。


 それにしても、緊急任務とは一体何だろうか?


 私は早く先日の事を相談したいのだが⋯⋯。


「先日の出来事なら後で聞く」


「!!!」


 なぜ⋯⋯?


 なぜ昨日の事を知ってるんだ?


 情報が入ってくるにしても早すぎる。


「それで、任務の内容だが⋯⋯」


 混乱している私をよそに、バレンさんは話を進めた。


「これから会わせる人物を、北の森の奥にある目的地まで送り届けてもらいたい」


「⋯⋯その人物というのは、もしかして怪我でもしているのですか?」


「察しがいいな⋯⋯、と言いたいが。半分正解で半分ハズレだ」


「半分、ですか⋯⋯?」


「そう。まずはその人物に会ってもらうとするか、ついてきてくれ」


 そう言われ、私は隣の部屋へと案内された。


 というか、最初からそこへ案内してくれれば良かったのでは⋯⋯?


「入るぞ」


「⋯⋯失礼いたします」


 バレンさんと私は、一言だけ告げて中へと入った。


 中には一人の女性が座っていた。


 緑色で光沢がある長い髪、緑色の瞳に整った顔立ち、服装は薄い布地で出来た服。右足は大きく傷ついているらしく、ぐるぐる巻かれた包帯が痛々しく見える。そして傍らには、大きめの弓と矢筒があった。


 そして何より、先端がやや尖った特徴的な耳が目についた。


「リゲル君、彼女が今回の依頼者だ」


「⋯⋯初めまして。ツバキと言います。ご覧の通りのエルフです」


 やっぱり、エルフか⋯⋯。


「つまり目的地とは⋯⋯、森のどこかにあると言われている『エルフの隠れ里』、という事でよろしいですか?」


「はい。その通りです」


 やはりそうか。


「ツバキさん、ご安心ください。このリゲルは当ギルドの職員であり、この私が最も信頼している者のひとりです。さらに、このギルドに登録された冒険者たちの中でも、実力は頭一つ分抜きん出ております。必ずや、あなたを無事に送り届ける事が出来るでしょう」


「え」


 思わず声が漏れてしまった。


『最も信頼している』というのは初めて聞いたし、私の実力についてもそこまで高く評価してくれているとは驚きだ。


 ありがたい事ではあるけれど、そこまで持ち上げられると逆にやり辛い⋯⋯。


「そうですか⋯⋯。ギルドマスターがそこまで言うのであれば安心ですね。⋯⋯リゲルさん、よろしくお願いします」


「うっ⋯⋯」


 ツバキさんは、柔らかい眼差しを私に向けてきた。


 ⋯⋯そんな疑いの無い眼差しを向けられたら、とてもじゃないけど断れないじゃないか⋯⋯。


「⋯⋯はい、分かりました。全力で送り届けられるよう頑張ります」


 どのみち緊急任務を断れるはずも無く。


 私は、ツバキさんの依頼を受ける事になった。



 ◆◆◆



「へぇ〜。ツバキさんには娘さんがいるんですね。とても子持ちとは思えないくらいキレイで羨ましいです〜」


「ふふっ、ありがとうございます。エルフはかなりの長命ですから、老けるまではかなり先が長いのですよ」


「非常に興味深いです」


「そうだね〜。エルフに会うのは初めてだから、会えて嬉しいな♪」


 現在、私たちは北の平原を歩いている。


 この平原の向こうに森があるのだ。


 ちなみに、ユニはバレンさんに預けてきた。任務という名の強制依頼であり、危険が伴う内容でもあるのでさすがに同行はさせられないとして、ギルドで預かってもらえる事になったのだ。


 当然ユニは泣きわめいていたのだが、これも仕事。仕方が無い事なのだ⋯⋯。


 そしてツバキさんは、アイビスたちと女同士の会話に花を咲かせていた。


「ツバキさん、足の具合は大丈夫ですか?」


「はい。まだ痛みはありますが、大した事はありません」


「エルフは自然治癒力が高いと聞きます。応急処置は得意ですので、このまま私が担当します。おまかせください」


「うんうん。お姉ちゃんに任せれば安心だよ♪」


「ありがとうございます。⋯⋯それにしても、双子とは珍しいですね。私、娘以外に双子を見たのは初めてですから、少し感動しています」


「そうですか」


 へぇ、ツバキさんの娘さんも双子なのか⋯⋯。


 エルフは人間以上に双子が産まれにくいって聞くけれど⋯⋯。


「⋯⋯ん?双子?」


 最近どっかで⋯⋯。


「ツバキさん。もしかして、その双子って旅してたりしてません?」


 アイビスがそのような質問をツバキさんにしていた。


 ⋯⋯そうか!思い出した!


 二十名ほどの盗賊団をたった二人で返り討ちにしたっていう、エルフの双子の冒険者の事だ。


 さらに、その双子にはもう一名の仲間と三人でパーティーを組んでいるらしい事までは聞いている。


 まさか、ツバキさんがその双子の母親なのか?


「あら、よくお分かりですねぇ。えぇ、えぇ、この辺りで旅をしている双子のエルフでしたら、私の娘で間違いありませんよ」


「やっぱり!その子たちについて、以前聞いた事あるんですよー。東の方に出てきた追い剥ぎたちをたった二人で撃退したって!」


「アイビス。追い剥ぎじゃなくて盗賊団だぞ」


 大した違いは無いけれども。


「あらあら、あの子たちったらそんな事を⋯⋯。元気そうで何よりです」


 ツバキさんは嬉しそうに娘の話について聞いていた。


「まぁ、あの子たちは里で一番強かったですからねぇ。いえ、今は二、三番目ですね。もっと強い子がいましたし」


「えぇっ!あの双子よりも強い子ですかぁ?!」


 あの双子よりも強い⋯⋯。


 とても興味深い内容だ。


 街では大した情報が手に入らなかったからなぁ⋯⋯。


「えぇ。あの子はある日突然娘たちが拾ってきましてねぇ、それから面倒を見ていく内にどんどん強くなっていきまして⋯⋯。ついには娘たちが束になっても敵わないほどに強くなりまして⋯⋯」


 私はツバキさんの話を、前を歩きながら静かに聞いていたが、話を聞けば聞くほど驚かされた。


 その少年は里の秘宝の剣を持ち、剣術も魔法も両方を使いこなしているらしい。


 さらには精霊の加護まで受けているというのだから驚きだ。


 精霊の加護を受けていると言う事は、聖霊龍フェアリードラゴンに認められたという事なのだ。


 四大龍に選ばれた人間は大昔に数人のみがいた程度で、現在はいなかったはずである。


 これは、誰にも言えないな⋯⋯。


 そうして話を聞いている内に、目の前に森の入口が見えてきた。


「ツバキさん、森が見えて来ましたよ」


 私はツバキさんに声をかけた。



 さぁ、ここからが本番だ。

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