第33話:黒いフードの男

「⋯⋯何者だ?」


 私は皆をかばうように前に出る。


「⋯⋯その娘を渡せ」


 黒いフードの男はこちらの質問を無視して要求を告げる。


「⋯⋯何故だ?どうしてこの娘を狙うんだ?この娘にどんな秘密があるって言うんだ?」


「⋯⋯ふっ」


 私の問いかけに、男はわずかに笑みを漏らした。


「⋯⋯まさか、何も知らずにその娘を護っているとはな。ふふっ、無知とは恐ろしいものだな」


 男は、馬鹿にするような笑みを浮かべながら言葉を続けた。


「⋯⋯少し、場所を変えようか。こんな往来で話せるものではない」


「⋯⋯もし断ったら?」


「断っても良いぞ?その場合、周囲の人間がどうなるか分からんがな」


 ⋯⋯つまり、断ったらその場で襲撃する。その際、街の人たちに被害が出る事もいとわない、という事か。


「⋯⋯分かった」


 選択肢は無さそうだった。



 ◆◆◆



 私たちは黒フードの男についていき、人気が無い裏路地まで入っていった。


 周りに人がいない事を確認した後、男はゆっくりと話し始めた。


「⋯⋯その娘は、『核』なのだよ」


「⋯⋯『核』、だと⋯⋯?」


「心当たりがあるだろう?⋯⋯お前もを連れているなら知ってるはずだ」


「⋯⋯っ!」


 男はファルシアとフェリシアへ視線を移した。


 こいつ、機械を知っている⋯⋯?


 いや、今気にするのはそこじゃない。


 ユニの身体と融合している魔物とその特性。


 男が今言った『核』⋯⋯。


 そして機械の存在⋯⋯。


「⋯⋯まさか」


 私は、あるものの存在を思い出していた。


 機械遺跡に封印されていた災厄。


 一つ目は、『凶暴な魔獣』。


 二つ目は、『対魔獣専用武器』。


 三つ目は、『拠点制圧兵器』。


 そのうち二つは、すでに封印は破られている。


 なら、残っているのは⋯⋯。


「⋯⋯『拠点制圧兵器』、の、事か?」


「⋯⋯ご名答だ」


 男は満足そうに答えた。


「その娘は、兵器を稼働させる為に雇い主が用意した『核』となる存在だ。それに、『鍵』はすでに出来ている。⋯⋯後は、その娘さえ連れ戻せば俺たちの仕事は終わる」


「⋯⋯お前たちの雇い主は、一体何をするつもりなんだ⋯⋯?」


「さぁな。俺たちはただ雇われただけだ。目的など知った事ではない。⋯⋯それに、仮に知っていたとしても、そこまでバラしてしまっては傭兵失格だ」


「⋯⋯なるほど。お前たちは『黒影団』か」


 私の言葉に、男は言葉を詰まらせた。


 どうやら図星のようだ。


「⋯⋯部下が吐きやがったか。使えんやつだ」


 男は吐き捨てるように言った。


「⋯⋯気が変わった。俺たちの所属を知っている以上、お前たちは消す。その娘を連れ戻した後、この街のギルドも潰す」


「なっ!」


 潰す⋯⋯?


 ギルドを?


「そんな事をしたら、お前たちだってただじゃ済まないぞ!分かっているのか!?」


「問題無い。たかだかギルド一つ潰したくらいでは、黒影団には何の影響も出ない」


 男は淡々と答えた。嘘を言っているようには見えない。


 ⋯⋯こいつは、本気で言っている。


 ギルドを潰しても平気だと。


 ⋯⋯そんな事、させる訳にはいかない。


 させちゃいけない!


「⋯⋯そんな事よりも、自分の心配をした方がいい」


「っ!」


 瞬間。


 男の手下が数人、私の横をすり抜けてユニに迫っていった。


「もらっ⋯⋯」


「シャアッ!」


 アイビスが向かってきた手下を横から蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた手下は、そのまま壁に叩きつけられて気絶した。


「⋯⋯ほぅ?」


「ユニちゃんは渡しませんよ!」


 アイビスは短剣を構えて迎撃態勢を取った。


「⋯⋯ユニ?」


「名無しじゃ困るからな。仮の呼び名として私が名付けた」


「⋯⋯ふっ。ただの部品に名前をつけるとはな」


 男は貶すかのように、信じられない一言を言い放った。


「ユニを部品扱いか⋯⋯」


「その通りだからな」


 言いながら、男はさらに手下をけしかける。


 その内の一人がアイビスに向けて火の魔法・フレイムを放った。アイビスの戦闘は短剣と体術の組み合わせだ。魔法には弱いと判断した為だろう。


 手下が放ったフレイムはアイビス目がけて飛んでいくが⋯⋯。


「⋯⋯シャッ!」


 アイビスが左手の短剣を振るうと、フレイムは着弾と同時に消滅した。


「⋯⋯え?」


 フレイムが消滅した事に動揺した手下たちは、私とアイビスによって瞬時に制圧されていった。


「私に魔法は効きませんよ!」


「⋯⋯なるほど。魔法の無効化スキルか。それにその強さ⋯⋯。道理で手こずる訳だ」


 そこまで言うと、男は手下たちに手を上げて合図を送った。


 手下たちはそれを確認すると、気絶した仲間を抱えて一斉に下がっていった。


「⋯⋯どういうつもりだ?」


「今回は負けを認めよう。⋯⋯どうやら、お前たちを仕留めるには相応の相手と準備が要りそうだ」


 男はあっさりと引き下がった。が、まだ諦めてはいないようだった。


「お前たちはいずれ思い知る事になる。自分たちがやっている事の愚かさをな⋯⋯」


「⋯⋯どういう事だ?」


「それは自分で考えろ。もっとも、最悪の展開になる前にその娘をこちらに引き渡した方が賢明だがな⋯⋯」


 男は言うだけ言って去っていった。


 しかも、建物の屋根を次々と飛び越えながら⋯⋯。


「⋯⋯お、終わったぁ〜〜⋯⋯」


 アイビスは戦闘が終了した事による安堵からか、その場にへたり込んだ。


「お疲れ様です、アイビスさん。お水飲みますか?」


「⋯⋯あ、うん。ありがとう⋯⋯」


 ファルシアはアイビスを労っていた。


 ファルシアとフェリシアも、何も言わずともユニを護ってくれていたようだ。


 機械とはいえある程度自分の判断で動ける辺り、二人とも徐々に人間に近づいてきているように感じる。


「⋯⋯ユニ、大丈夫だった?⋯⋯怖くなかった?」


「⋯⋯怖かった」


 ユニはとてとてと駆けてきて、そのまま私にぎゅっと抱きついてきた。


 その小さな身体は、わずかに震えていた。


「⋯⋯もう大丈夫。私も、頼れるお姉ちゃんたちもいるから。⋯⋯大丈夫だ」


「⋯⋯⋯⋯うん」


 私は優しく言葉をかけながら、ユニの身体を抱きしめた。


「⋯⋯よし。今度こそ帰ろうか」


「分かりました」


「は〜い♪」


「もうお腹空きましたよぉ〜⋯⋯」


 三者三様の返事を聞き、私はユニを抱き抱えながら皆と家路についた。



 ◆◆◆



 帰り道の途中、私は男が言っていた内容を思い返していた。


『⋯⋯気が変わった。俺たちの所属を知っている以上、お前たちは消す。その娘を連れ戻した後、この街のギルドも潰す』


 交渉は完全に決裂。もう話し合いでは解決出来ないところまで来てしまった。


 加えてギルドまで目をつけられてしまった。


 街のほぼ中心に位置し、毎日多くの冒険者たちで賑わっているギルドをどのようにして潰すのか分からない以上、私たちは警戒するしか出来ない。


 ⋯⋯バレンさんに報告しないといけないな。


「⋯⋯⋯」


 ⋯⋯失敗した。


 私の勝手な都合で、ギルドが巻き込まれる事になってしまった。


 ⋯⋯どのような顔で会いに行けば良いのだろうか⋯⋯。


 恐らく、解雇は免れないだろう。


 ギルドを出禁になっても、何も言えない。


 アイビスたちにも、さらに迷惑をかける事になる。


 ⋯⋯これじゃ、アイビスの師匠失格だな。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめん」


 私は、誰にも気づかれないよう謝罪の声を漏らした。


「「⋯⋯⋯」」


 誰にも聞こえていないはずの謝罪の言葉は、機械人形の二人にはしっかりと聞こえていた。


 その事に、この時の私は気づかなかった。

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