第32話:これからのこと

「おはよう。先日はお手柄だったね」


「はい?」


 私たちはギルドに来ていた。


 そしてギルドマスター・バレンさんに呼ばれて、今は執務室にいる。


 ちなみに、今日はユニとフェリシアが一緒にいる。アイビスとファルシアには買い物をお願いした。


「⋯⋯お手柄、というと?」


「先日君たちが捕らえたならず者たちの事だ」


「あぁ⋯⋯」


「彼らは、犯罪者集団と名高い『黒影団』に雇われた冒険者たちだった。長時間に渡って尋問した結果、ようやく情報を吐いてくれたよ」


「黒影団って、確か汚れ仕事を一手に担う暗殺者集団でしたよね?⋯⋯そんなヤツらだったなんて」


「⋯⋯君たちが狙われたのは、その娘が原因だね?」


「⋯⋯えぇ」


「となると、今後も黒影団の連中は狙ってくるだろうね。⋯⋯その娘を奪いに」


「⋯⋯」


「⋯⋯何か、策は考えているのかね?」


「⋯⋯今、考えているところです」


「⋯⋯あまり悠長にしてもいられないと思うよ。これからも彼らには狙われる。君たちが撃退を続ければ、いずれは関係ない者たちが巻き込まれる事になるかもしれない」


「⋯⋯」


「近い内に、自分の中で答えを用意しておく事だ」


「⋯⋯はい。失礼します」


 私たちは、ゆっくりと退室した。



 ◆◆◆



「⋯⋯少々、言い過ぎたかもしれないな。だが、これは必要な事だった」


 執務室で一人、マスターは呟いた。


「⋯⋯私の方でも、一つ手を打っておくか」



 ◆◆◆



「⋯⋯⋯⋯どうするか」


 確かに、バレンさんの言う通りだ。


 撃退するだけなら何とかなるだろう。


 だが、⋯⋯相手は黒影団。世界に名だたる暗殺者集団だ。


 何度もしくじれば、いずれこの街の人たちが巻き込まれる事になりかねない。


 かといって、ユニを渡す事もしたくない。


 ⋯⋯どうする。どうすればいい?


「⋯⋯」


ご主人様マスター。さっきの事、気にしてるの?」


 今までずっと黙っていたフェリシアが声をかけてきた。


「⋯⋯まぁ、ね」


「考えすぎも良くないよ。降りかかる火の粉は払わないといけないんだし、先の事は予想は出来ても予測は出来ないんだし。後の事はその時に考えれば良いんじゃない?」


「⋯⋯機械人形らしからぬ発言が聞こえたんだけど」


「それを言われるとキツいかなぁ〜。⋯⋯今は、やりたい事だけに集中しない?」


 フェリシアの言葉は、もやもやとしていた私の心を、少しだけ晴らしてくれた。


 それくらい、今の言葉は心に深くしみこんだ。


「⋯⋯そうだな。ありがとうフェリシア」


「どういたしまして♪」


「⋯⋯あ、ししょー!今帰りですか?」


 後ろから、アイビスに声をかけられた。側にはファルシアもいる。


「⋯⋯そっか。買い物は終わったんだ」


「はい!言われたものは全部買いました」


「そっか。お疲れ様」


 そう言って、私はアイビスとファルシア、二人の頭を撫でた。


「へへへぇ〜、久しぶりのなでなでだぁ〜〜♪」


「⋯⋯」


 アイビスはとても嬉しそうにしているが、ファルシアは無表情だった。


 対象的な二人の反応を見比べるのも面白い、と思った。


「それじゃあ、帰ろっか」


 そうして、帰宅しようとした時。


「⋯⋯見つけたぞ」


 黒ずくめのフードを被った男が、私たちの前に立ちはだかった。

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