第31話:最悪?

「⋯⋯」


 翌日。


 私はベッドの上で寝転がりながら昨日の襲撃を思い返していた。


 昼間からの堂々とした襲撃。正気とは思えない。


 昨日はまだ少数だったから全員捕まえられたが、今後も上手く行くとは思えない。


 ユニを手放せば襲われる事は無くなるだろうが⋯⋯。


「⋯⋯⋯」


 ユニについても分からない事だらけだ。


 何故魔物の肉体の一部が移植されているのか。そしてそれは何の為に?


 それに、あんな小さな女の子にそれをする意味は?


「⋯⋯⋯⋯」


 分からない。


 いくら考えても答えは出そうに無かった。


「⋯⋯相談役が必要だな」


 そう思いついた私は、ベッドから出て身支度を始めた。



 ◆◆◆



 私はユニとフェリシアを連れて、魔道具店ラ・フィーユへと来ていた。


 魔法その他の知識が豊富なアキナに、ユニを診てもらおうと考えたのだ。


 私はアキナにそれまでの事を全て説明した。


「⋯⋯はぁ。リゲルさんたちは凄いですね。いつの間にそんな事に巻き込まれていたなんて⋯⋯」


「好きで巻き込まれている訳じゃ無いんだけどね。それで、アキナに頼みがあって来たんだ」


「はい、何でしょうか?」


「⋯⋯この子、ユニの身体を診てもらえないか?」


「⋯⋯その子を?」


「あぁ。フェリシアたちに診てもらったところ、身体のおよそ三割は魔物の身体組織と融合しているらしいんだ。魔法に詳しいアキナなら、少しは何か判るんじゃないかと思って⋯⋯。頼めるかな?」


「⋯⋯分かりました。診てみましょうか」


「ありがとう!お願いするよ」


 アキナは快く承諾してくれた。


「その代わり、⋯⋯何かウチの商品を買っていってくださいね?それが診療代です」


「分かった」


 ユニの診療代なら安いものだ。後の事はアキナに任せよう。


 さて、買うものを決めておかないと⋯⋯。



 ◆◆◆



 それからしばらくして。


「リゲルさん、ちょっといいですか?」


 私はアキナに呼ばれた。


「⋯⋯何か分かったの?」


「⋯⋯少しは」


「本当か!」


「⋯⋯はい」


 でも、少し歯切れが悪いような⋯⋯。


「⋯⋯何か、悪い事なのか?」


「⋯⋯最悪に近いですね」


「!!」


「奥で話しましょう。ついてきてください」


 アキナに案内されて、応接室へと入っていった。


「⋯⋯あの子について分かったのは、融合している魔物の事です」


「⋯⋯」


 魔物の正体が分かったのか。相変わらず凄い人だ。


「融合している魔物は、"カルタスドラゴン"と呼ばれるものです」



 カルタスドラゴン。

 暗黒龍ダークネスドラゴンの眷属にあたるドラゴンである。全長は1,5m〜3mほど。体重はおよそ120〜250kgほど。

 全体的に青黒く、胸のところに青い水晶が埋め込まれている。

 自己再生能力も高く、周囲の生命体から魔力を吸収する性質がある。



「⋯⋯まさか」


「そのまさかです。ユニちゃんに移植されているカルタスドラゴンの心臓が、ユニちゃんの魔力を少しづつ吸収しています。このままでは、あの子は⋯⋯」


「⋯⋯そんな。⋯⋯じゃあどうすれば」


「⋯⋯残念ですが、私にはどうにも出来ません。ユニちゃんにこのような融合を施した人の元に返すしか⋯⋯」


「⋯⋯それは」


 つまり、あいつらに引き渡すしか無いと言う事か⋯⋯。


 ⋯⋯あの、人道的にも劣るあいつらに。


 ⋯⋯でも。


 本当に何も出来ないのか?


「⋯⋯ユニと魔物を融合させた理由、何か分かる?」


「カルタスドラゴンの特性を考えれば、何かの制御に利用するという事が考えられますが⋯⋯」


 制御⋯⋯。


 何の?


 まさか、の訳は無いだろう。


 だとしたら⋯⋯?


「⋯⋯やっぱり分からないか」


 一つの謎が明らかになり、また一つの謎が生まれた⋯⋯。


 アレが絡んでくるような最悪の事態にだけはならない事を祈るばかりだ。

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