第27話:保護

 ⋯って、助けないって選択は無いだろ!寝覚めが悪くなる!


「とりあえず助けに行こう!」


「先行します!」


 言うが早いか、アイビスは全力で駆け出していった。なんという反応の速さか。


 私は慌てて後を追った。



 ◆◆◆



 少女は逃げていた。その後を男が4人がかりで追っていた。


「大人しく、しろ!」


 先頭の男は小石を拾って思いきり投げ、逃げる少女の右脚に当てた。


「あうっ!」


 少女はバランスを崩し、森の斜面を転げ落ちた。その後を追うように男たちも斜面を降りた。


「⋯⋯っ」


「⋯⋯ったく、手こずらせやがって」


「!!!」


「さぁ帰るぞ!遅れると雇い主がうるせぇからな」


 男の一人が少女に手を伸ばそうとしたところで。


「させません!」


「ぶごぉっ!」


 黒いマントを羽織った長身の少女が飛び出し、男の顔を蹴り飛ばした。



 ◆◆◆



「なんだてめぇはっ!」


「この子は渡せません!」


「何を勝手に⋯⋯、っごぶっ!」


 アイビスは近づく男の腹を蹴り、倒れている少女を抱えて後退した。そこでようやく、私は追いついた。


「よぅし、⋯⋯はぁ、はぁ⋯⋯、良くやったぞアイビス⋯⋯、ふうぅ〜⋯⋯」


 息も切れぎれになりながら、一息深呼吸し、男たちに向かって言葉を投げた。


「お前たちは何者だ?⋯⋯こんなボロボロで小さな子どもを追いかけ回して、『怪しくない』は通らないぞ!」


「⋯⋯ちっ、退くぞ」


「⋯⋯!」


 意外な事に、男たちはあっさりと退いた。


 ⋯⋯と思ったら、後方のリーダーらしき男が突然振り返った。


「その『バケモン』は、お前たちの手には負えんぞ。どうなっても知らないからな?」


「⋯⋯!」


 意味深な発言をし、男たちは今度こそ退いていった。


「⋯⋯バケモノ?⋯⋯この子が?」


 少女の身なりはボロボロながらも、大きな怪我は無いように見える。首には怪しげな紋様が一周して描かれている。よく見ると、それは魔法術式のようであった。


「⋯⋯なんですか?これ」


「⋯⋯うーん。隷属魔法のように見えるけど、よく分からない⋯⋯」


「⋯⋯⋯」


「⋯⋯はっ!違う違う、そうじゃなくて」


「⋯⋯⋯」


「⋯⋯えーと、身体は、大丈夫?痛いところは無い?」


「⋯⋯⋯ない」


 少女はたどたどしく答えた。


「⋯⋯⋯」


「⋯⋯行くところが無いんだったら、ウチ、来る?良いお姉ちゃんたちがいるから、楽しいと思うよ?」


「⋯⋯⋯」


「大丈夫だよ?この人、とっても良い人だから。おいしいご飯が食べられるよ〜?」


「⋯⋯⋯いく」


『おいしいご飯』につられたのか、少女は何とかうなずいてくれた。


 ⋯⋯しょうがない、後で何かおいしいものでも作ってあげよう。


「やった。今夜のご飯が楽しみ♪」


「⋯⋯⋯」


 アイビスの独り言を聞かなかった事にして。


 私たちは、ひとまず家に帰る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る