第20話:魔道具店、開店

「いらっしゃいませ〜。⋯⋯って、リゲルさん!来てくださったんですね」


 私たちはアキナが開いた魔道具店 ラ・フィーユに来ていた。ギルドに通う時は決まってこの店の前を通る。そして今日、看板に"開店"の文字が出ていたので中に入ったのだ。


「開店の文字が見えたから、立ち寄らせてもらったよ」


「数日ぶりです、アキナさん」


「はい、アイビスさんもお元気そうで」


 数日ぶりに再会し、互いに挨拶を交わしていく。


 私は店内を見回してみた。店内自体はそれほど広くはないが、机や棚の上には色んな商品がならべられていた。その内の一つを手に取ってみる。


「⋯⋯なぞった文字を記憶する羽根ペン⋯⋯?」


「⋯⋯こっちは首に巻くと声が変わるリボン、ですか⋯⋯」


 何に使うのかすぐには思いつかないものばかりだった。


「そういえば、リゲルさん。そちらのお二人はどちら様でしょうか?」


 そうだった。二人の事はまだ紹介してなかった。


「紹介遅れてごめん。私たちの新しい仲間だよ。二人とも、ご挨拶を」


「初めまして、アキナ様。私はファルシアと申します。よろしくお願い致します」


「初めまして〜!ワタシは妹のフェリシアで〜す。よろしくね♪」


「はい、よろしくお願い致しますね。⋯⋯ふふ、お二人は同じ顔なのに、性格はずいぶん違うんですね」


 アキナは二人と挨拶を交わした。特に動揺も見られない。


「⋯⋯アキナは、二人を見ても動揺しないんだな」


「驚いていますよ〜。このお二人、?」


「!!!」


 アキナはさも当然のように言い放った。二人が機械だとはまだ言っていないはずだ。


「⋯⋯なんで」


「わたくし、魔力の流れが視えるんですよ。なのですぐに気づきました。人に限らず、全ての生き物は魔力が身体全体を覆うように放出されています。アイビスさんの身体はスキルの影響もあって特殊ですが⋯⋯。ですがお二人は、魔力が胸辺りに一点に集中しています。これは生き物としてはありえません」


 アキナの説明を一通り聞いても、正直内容があまり入って来なかった。


「⋯⋯他人の魔力が視えるようになるには、相当な修練が必要だと聞いた事があるんですけど」


「まぁ、魔力そのものに詳しくなければ、こんな商売は出来ませんから⋯⋯」


 アキナは苦笑しながら、近くにあった羽根ペンを手に取った。そして空中にペンを振ると、そこに白い線が浮かび上がる。


「これは空中に絵や文字が書ける羽根ペンです。消えるまでに半日くらいかかるのが難点ですが⋯⋯。一本どうですか?」


「い、いや。遠慮しとく⋯⋯」


 半日も消えないなんて、使い道に困る。⋯⋯もしかして、ここの品は難点を抱えたものばかりなのでは無いだろうか?


「アキナさん、ここの魔道具、面白いものばかりですね!これは繁盛しますよ!」


「そうかしら。褒めてくれてありがとうございます♪」


 どうやらアイビスはお気に召したようだ。


 ⋯⋯まぁ、本人が良いなら良いか。


「話が逸れましたね、リゲルさん。その娘たち、何者なのか聞いてもよろしいでしょうか?駄目でしたら良いのですが⋯⋯」


「い、いや、駄目って訳じゃない。ただ、他には内緒にして欲しいんだ。バレたら大変な事になるかもしれないし⋯⋯」


「その店はご心配なく。商売は信用第一です。秘密を口外する事はございません。なんなら、誓約を交わしましょうか?」


 そう言って、アキナはどこからか水晶玉を取り出した。


「この水晶玉を通して、お互いで約束を交わすのです。もし約束を違えようとすると、一瞬で意識を持って行かれますが⋯⋯」


「いやいやいや!そこまで物騒なものじゃない!」


 一瞬で意識を刈り取られるとか冗談じゃない。全力でお断りした。


 私はアキナに、二人の事を一通り話した。


「はぁ、機械人形ですか⋯⋯。あの二人が⋯⋯」


 アキナは、棚に飾られた魔道具を眺めている二人を見ながらそう呟いた。


「⋯⋯やっぱり、信じられないよね」


「いえいえ、信じますよ?少なくとも、大昔に存在していた《キカイ》と呼ばれるものと同じ言葉が出てきていますし、矛盾はありませんから」


 あっさりと信じてくれた。アキナはやっぱり良い人だ。


「⋯⋯ありがとう」


 私は素直にお礼を言った。


「それにしても、当時の技術は凄いですね。確か、隣国のガエリオンではホムンクルス技術について研究していると聞いた事がありますが、彼女たちに使われている技術は明らかにそれ以上ですよ」


「ホムンクルスか⋯⋯。まだ研究しているところがあるのか⋯⋯」



 《ホムンクルス計画》

 等身大の人形を作り、そこに魔石を埋め込んで起動させた人ならざるもの。また、それらを量産する為の計画。

 元々は死んだ人を蘇生させる為の手段を模索し続けた研究者たちがたどり着いた答えの一つ。埋め込んだ魔石に人の魂を刻み込めば完成するとされているが、魂を刻み込む方法が確立せず、計画は頓挫した歴史がある。

 後に非人道的だとして、研究そのものが禁止された。




「少なくとも、ガエリオンではまだ続いています。魔物の研究にも応用しているみたいですね」


「⋯⋯アキナの情報量は凄いな。情報屋としても活動出来そうなんだが」


「商売は情報戦でもありますからね。それに、この程度の情報はギルドでも手に入りますし」


「なるほど⋯⋯」


「師匠、そろそろお昼ですよ〜。ご飯食べに行きましょうよ〜」


 しまった。ついつい話し込んでしまったようだ。


「ごめん、話し込んでしまった」


「いえいえ、大丈夫ですよ〜。わたくしも楽しかったですし」


「また来るよ」


「私も、また来ます!」


「お邪魔しました」


「まったね〜♪」


「はい。またお越しくださいね♪」


 私たちは、それぞれ別れの言葉を口にしながら店を後にした。

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