第19話:二機の妹たち
「⋯⋯じゃあ自己修復機能は?」
「ありません。なので損傷した場合は修理をお願い致します」
「了解。じゃあ動力源はどうしてるの?」
「ワタシたちの動力源は、メインは太陽光エネルギー、サブは魔力だよ〜。だから、出来れば明るい内はお外に出たいな〜。あ、魔力は
私は道中から、家に着いてからも機械人形の二人と会話していた。機械関係の知識や専門用語に慣れる為には、毎日の会話などでよく使うようにする方が早いからだ。
まだ知らない事もあるので、色々と聞けるのは本当にありがたい。
「じゃあ姉妹⋯⋯、同型機?は、後二人はいるって事なのか?」
「はい。一機は後方支援型機械人形S−103、個体名フェノメナ。元々は砲撃支援用として開発されたのですが、仕様を変更し、精霊とリンクさせるという目的の為に改修されたフェルミドールです」
「⋯⋯精霊と?精霊って、あの精神生命体の⋯⋯?」
「はい。その精霊で間違いありません。フェノメナは精霊とリンクする事で、精霊との意思疎通を図り、精霊の力を操る事を最終目標としています」
「精霊との意思疎通、か⋯⋯」
精霊は精神生命体、魔力の塊であり、肉体を持たない。魂だけの存在とも言われている。人間には肉眼でその姿を確認するのは不可能とされており、精霊がその気にならなければ見られない。
「精霊は人には見えません。その為、フェノメナに精霊を宿らせる事で、フェノメナを介して意思疎通を図ろうとしました。⋯⋯しかし、それは失敗しました」
「失敗したんだ⋯⋯」
「はい。結局、精霊がフェノメナとリンクする事はありませんでした。精神生命体と無機物とでは相性が悪かったとされていますが、詳細は不明です」
「ふーん⋯⋯」
多分だけど、理由は分かる気がする。
精霊は非常に気まぐれであり、また邪心にとても敏感だ。だから、精霊を利用しようとする科学者がいるところには精霊は近づかなかったのだろう。あくまでも推測でしか無いが⋯⋯。
何故そうまでして精霊の力を欲したのか疑問だが、それはまたの機会にしておこう。それに、これからはずっと一緒にいられるのだから、いつでも聞ける。
「それで、最後の一人はどんな子なんだ?」
「四機目は後方支援型機械人形S−104、個体名ダリア。長距離移動ユニット『グラジオラス』の管理・運用を目的として開発されたフェルミドールです」
「長距離移動ユニット?」
「簡単に言えば、『とっても大きくて、どこまでも行ける乗り物』って事だよ♪」
フェリシアが分かりやすく説明してくれた。
「ダリアはグラジオラスの運用を前提に設計されていますので、戦闘能力はありません。ですが、グラジオラスにはいくつか武装が施されていますので、それらを用いての戦闘は可能です」
「戦闘が可能な乗り物だなんて、かなりスゴいんだな」
「グラジオラスとは、本来『移動可能な最小の基地』というコンセプトの元に設計・開発されました。最低限の武装、武器庫、数人分の寝室、作戦会議室など、基地としての最低限の設備が整えられています。また、当時最先端の小型コンピュータを搭載していた為、索敵・探索や情報収集機能も備わっております」
「⋯⋯⋯⋯」
凄すぎる。グラジオラスと凄腕の戦士が数人いるだけで戦争に勝てそうだ。もはや移動する国と言っても良いかもしれない。
「⋯⋯で、そのダリアとグラジオラスは、今どこにいるんだ?」
「不明です。グラジオラスは完成と同時に行方不明。ダリアについても、私たちが機能を停止する直前には行方不明となっています」
行方不明か。という事は、今はもう存在しないと思っても良いかもしれない。
「でも〜、あの娘がやられちゃってるとは思えないんだよね〜?」
「同感です。私も、ダリアはグラジオラスと共に潜伏している可能性があると考えます」
「そうなのか?⋯⋯何か根拠でもあるのか?」
「だって、ダリアは自信家だもん。自分が認めた人にしか従わないし、グラジオラスを何よりも大事にしてるから、破壊されずに絶対生き延びてると思うよ〜?」
「それに、グラジオラスには超強力なステルス迷彩機能もあります。一度隠れられれば、見つかる可能性はほぼありません」
「⋯⋯という事は、そのダリアは今もどこかに隠れていて、外に出る機会を伺っていると言う事で良い?」
「はい。その可能性が大です。また、潜伏中に機能を停止している可能性もあります。さすがにメンテナンスも無しで数千年も活動するのは現実的ではありませんので」
「だよね〜。グラジオラスの設備でも限界があるし、グラジオラス自体が先に駄目になっちゃうだろうしね⋯⋯」
ダリアは生き延びてる可能性はあるのか⋯⋯。それならば、私の機神の手で何とか出来るかもしれない。見つかれば、だが⋯⋯。
「という事は、フェノメナの行方も分からないのか?」
「フェノメナはユークリッド研究所内のカプセルにて機能停止。場所は現シルヴェニア国の領土内、最南端」
「シルヴェニア⋯⋯。北の雪国、難攻不落の要塞国家じゃないか⋯⋯」
シルヴェニア国。
世界で最も北にあり、雪原の大地と流氷漂う極寒の海を統治する国である。国境には超巨大かつ長大な壁が高くそびえ立っており、壁の端は海まで繋がっていて侵入する事は出来ない。ちなみに、シルヴェニアから流通している海産物は、北の宝石と呼ばれるほど高価で絶品なものばかりである。
「シルヴェニアの国境の壁付近には、強力な魔物が多く徘徊している。国内に入る心配が無いせいで放置されているから、壁にたどり着くだけでも大変だ。しばらくは行けないな⋯⋯」
「ざ〜んねん」
「少なくとも、アイビスが一人であそこの魔物を仕留められるようになるまでは⋯⋯、って、そう言えばアイビスは⋯⋯?」
「⋯⋯くー。⋯⋯くー⋯⋯」
「寝てますね」
「寝てるね〜」
話についていけなかったのか、アイビスは部屋のベッドで気持ちよさそうに眠っていた。
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