第13話:報酬と鑑定と、新たな依頼

 翌日。


 私たちはギルドに来ていた。先日の魔物を討伐した事に対する特別報酬を受け取る為だ。


 アイビスとアキナは私の家に寝泊まりしていた。寝室も台所も、まるで自宅のように使っていた。今までさほど使われていなかったので、のびのびと使ってもらえるのはありがたい限りだ。放置していれば、ほこりが溜まったり錆びついたりしてダメになっていく。使っていく事で長持ちするのだ。


「おはようございます。本日は⋯⋯って、もしかして、⋯⋯あの話ですか?」


「⋯⋯レミィさん。もしかして、先日の件、私だと気づいてたんですか?」


「あ、はい。先日、冒険者の皆様がお話してるのをたまたま聞いちゃいまして。多分そうかな〜と。確証は無かったんですけど」


 ⋯⋯昨日の冒険者さんたちか。まぁ派手にやらかしてしまったし、気にする程でもないかな。


「ともあれ。もし来ていただけたなら声をかけるようにと、ギルドマスターから仰せつかっております。少しお待ちいただけますか?」


「分かった。向こうで待ってるよ」


 と言う訳で、私たちは奥の待合席で待つことにした。と言ってもそんなに待つこと事は無く、すぐに呼ばれた。






「ようこそいらっしゃいました、リゲルさん。お会い出来て嬉しいですよ」


 私たちは執務室へと通された。そこには一人の男がいた。


「それでは自己紹介を。私はバレン。冒険者ギルド、マルベラ支部のギルドマスターを任されている者です。以後、お見知りおきを」


 ギルドマスターはバレンと名乗った。見た目は40〜50歳くらいのおじさんに見える。礼儀正しく、言葉の端々からは力強さが感じられる。


「ふむ。冒険者の方々から聞いた身体的特徴は一致している。特にその右手の武器。そのような変わった武器を持つ者は他にはいない。間違いないな」


 私の姿と書類を見比べていた。あの書類には私に関する情報が書かれているようだ。⋯⋯自分が知らないところで自分の事を調べられてるのだと思うと、少し怖い。


「うん。どうやらキミで間違いないようだ。⋯⋯では、先の正体不明の巨大魔物討伐に対する、特別報酬をお渡しする。どうか受け取ってもらいたい」


 バレンさんは机の下から大きめの箱を取り出した。フタを開けてみると、お金がぎっちりと詰まっていた。


「中には1,500,000フロンが入っている。袋では底が抜ける恐れがある為、箱に入れさせてもらった。受け取ってくれ」


「⋯⋯これは依頼報酬とは別のものですよね。やや多過ぎませんか?」


「まぁな。だが、君たちの活躍はその金額にふさわしいものだ。気にする事は無い」


「⋯⋯分かりました。ありがたくお受け取りいたします」


 他でもない、ギルドマスターがそう言っているのだ。ありがたくもらう事にしよう。


「ところで⋯⋯」


 バレンさんは何か思い出したかのように話しかけてきた。


「なんですか?」


「大した事ではない。君たちは『スキル鑑定』を受けた事はあるかね?」


「スキル鑑定?」


「私は受けた事無いですね⋯⋯」


「わたくしも、受けた事はありませんわね」


 今までずっと黙っていた2人が返事をした。


 私もスキル鑑定を受けた事は無い。師匠曰く「必要ない」と言われていたからだ。それに鑑定料が高い。1回10,000フロンだ。庶民には中々手を出しづらいと言った側面もある。なので受けようと思った事も無かった。


「もし、この私でも良ければ、君たちのスキルを鑑定させてはもらえないだろうか?もちろん鑑定料を取るつもりはない。これは個人的な事だからな」


「⋯⋯してもらえるなら助かりますが。⋯⋯理由を聞いても?」


「君たちはこのギルドに登録してからまだ日が浅いと聞く。それなのにAランク冒険者と遜色の無い此度の活躍。ギルドを預かる身として実力を把握しておきたい、というのが建前だが⋯⋯」


 バレンさんは少し間をおいて、言葉を続けた。


「本音を言えば。君たちは何か、大きな冒険をしそうな気がしてならない。出来れば力になってあげたい。とはいえ、ギルドマスターが一冒険者を贔屓する事は出来ない。ならばせめて、スキル鑑定だけでも⋯⋯。と思ったのだよ」


 ⋯⋯この人は、多分本心で言っている。本気で気にかけてくれている。そんな気がする。


「⋯⋯ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」


 私たちは、スキル鑑定を受ける事にした。⋯⋯って、二人に相談しないで決めてしまったな。






「では、まずは後ろの貴女からにしようか」


 バレンさんは、最初にアキナを指名した。


「お願いしますわ。それと、わたくしはアキナと言います。どうかお見知りおきを」


「了解した、アキナさん。覚えておこう。⋯⋯では、こちらに触れてくれ」


 バレンさんが何やら大きなものを取り出した。ガラスか何かで出来た、大きくて丸くて薄いものだ。


「これは『スキルレンズ』というものだ。スキル鑑定士が使用する魔道具の一種でな。⋯⋯これの中心に触れてくれればいい」


「分かりました」


 バレンさんに指示された通りに、アキナがレンズに手を触れた。すると、レンズに膨大な文字が浮かび上がった。そして、たくさんの文字が集束されていき、いくつかの文章となって固定された。


「どれどれ。⋯⋯ふむ。これはまた、面白いスキルが出てきたものだ」


 バレンさんは、スキルレンズに浮かび上がった文章をアキナに説明した。




 《まやかしの手トリック・ハンド》 ランク:A


 1:触れた物を別の対象と入れ替える(生物も可)

 2:触れた対象の重量を変化させる。

 3:触れた対象を透明化する(生物は不可)




「⋯⋯まったく。ランクAでこの効果か。これがEXにまで昇華すれば、どういったものになるんだか。先が恐ろしいな」


「鑑定、ありがとうございます。有効に活用させていただきますわ」


 アキナの鑑定が無事終わり、次はアイビスの番になった。


「わくわく。くぅ〜、どんなスキルが出てくるんでしょうね、師匠!」


「いいから、まずは落ち着いて!ほら、早く手を触れて⋯⋯」


 大興奮する彼女を落ち着かせ、なんとかレンズに触れさせた。


「⋯⋯」


「わくわく」


 やがてレンズ内の文字が集束し、先程と同様にいくつかの文章が固定された。




 《魔力無効マジックキャンセラー

ランク:EX


 1:自身に及ぶ全ての魔力ダメージを無効。

 2:自身に及ぶ全ての魔力効果を無効。

 3:魔力の使用不可。




「⋯⋯⋯⋯」


「どうですか?どうでしたか?!」


 半ば興奮しながら聞いてくる彼女に、バレンさんは現実を突きつけた。


「君のスキルは魔力無効マジックキャンセラー。自身に対する全ての魔法を無効化する代わりに、君自身は魔法を使用する事は出来ない。というもののようだ⋯⋯」


「ガーーン!!!」


 膝から崩れ落ち、これでもかというくらいに落ち込むアイビス。見ているこっちまで悲しくなってくる。


「ま、まぁ、敵の魔法を無効化出来るのだ。魔法使いからしたら天敵のような存在だ。魔物の中にも、魔法を使ってくるものはいる。そう落ち込む事は⋯⋯」


「⋯⋯しくしく」


 バレンさんはなんとか励まそうとしてくれているが、アイビスは元気を取り戻すどころか、ついに泣き出してしまった。


「⋯⋯うぅ。魔法、使いたかったのに。一生懸命勉強したのに⋯⋯。使えないなんて⋯⋯」


「⋯⋯」


 これは重症だ。なんて声をかければ良いか分からない。⋯⋯帰りに美味しいデザートでも奢ってあげよう。


「⋯⋯さて。残るは君だけだな、リゲル君」


「⋯⋯はい。お願いします」


 ついに私の番になった。先の二人と同じように、レンズの中心にてを触れる。


「⋯⋯」


 文字が集束し、文章が固定された。⋯⋯んん?ちょっと文章多くない?


「⋯⋯驚いたな。まさか、複数のスキルを持っているとは⋯⋯」


「え?⋯⋯複数?」


 驚いた私に、バレンさんは困惑しながらもスキルを説明してくれた。






 《無限魔力》ランク:EX


 1:保有魔力の上限無し。

 2:体内の魔力精製の効果を強化する。



 《機神の手メタリクス・ハンド》ランク:EX


 1:機械の生産、及び修理が可能。

 2:電子機器の情報の書き換えが可能。

 3:一度触れた機械の遠隔操作が可能。

 4:電子機器のウイルスを除去。




「機械?」


 初めて聞いた。想像のしようも無い。イメージが湧かない。そもそも、機械ってこの世界にあるものなのか?


「困惑するのも無理は無い。私ですらも聞いた事が無いのだ。恥じる事は無い」


 バレンさんも知らないのか。これじゃあどうしようも無いな。


 ⋯⋯などと思っていたら、バレンさんの口から思わぬ情報が出てきた。


「⋯⋯もしかしたら、遺跡に関するものかもしれんな」


「⋯⋯遺跡?」


 部屋の隅でずっと落ち込んでいたアイビスが『遺跡』という単語に反応した。


「⋯⋯アイビスは何か知ってるのか?」


「遺跡って、アレですよね?確か古代の文明が残した建物やらなんやら〜ってヤツ⋯⋯」


 どうやら記憶は曖昧なようだった。けど、そういう知識が頭に入っているあたり、彼女も相当勉強したのだろう。思い出しきれないところはなんとも彼女らしい。


「その通りだ。世界各地に転々と残る、古代の人々が生きた証。文明の歴史を後世に伝える生き証人。それこそが『遺跡』だ」


 バレンさんの説明には熱がこもっていた。


「その遺跡の一部に、明らかに石などとは似ても似つかぬ謎の金属で出来た場所があるのだ。もしかしたらそれか、あるいは⋯⋯、そこにある『何か』が機械なのかもしれんな」


 謎の金属で出来た建物。⋯⋯なんだろう。手がそわそわする。落ち着かない。


「⋯⋯気になるかな?」


「⋯⋯はい。ちょっと行ってみたいです」


「よろしい。ならば、ギルドから君たちに依頼を出そう。この街から南東に行った辺りに小さな遺跡がある。そこには小さい規模の盗賊団が根城としているらしい。規模はおよそ20人前後、というところまで調べがついている。その盗賊団を討伐してもらいたい。ついでにそこの遺跡を調べてみても良いだろう」


「⋯⋯厄介事を押し付けられた気がしないでも無いのですが?」


「すまんな。なにぶん場所が場所だからな。それに、その盗賊団が街に現れたという報告も無い。故に放っておいても大丈夫だろうという事で、誰もこの依頼を受けてはくれんのだ⋯⋯」


「⋯⋯分かりました。その盗賊団を片付ければ、遺跡は好きにしても良いんですよね?」


「もちろんだ。壊してくれさえしなければ、好きにしても構わない。どの道、あの遺跡の奥には何も無いのだ。誰も何も気づかんよ」


 ⋯⋯ん?何も無い?


「報酬は、盗賊団討伐依頼の相場を考えて⋯⋯、そうだな、40,000フロンを出そう。⋯⋯よろしく頼むよ」


 遺跡を調べるのに、盗賊団の討伐を頼まれてしまった。断る理由は無いので私は大丈夫なのだが⋯⋯。


「⋯⋯⋯⋯」


 ちらっと横を見ると、アイビスが顔を青ざめさせていた。

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