第12話:後始末と特別報酬
目の前には氷漬けにされた魔物がそびえ立っている。間近で見上げると、頂点が見えない程に巨大だった。
冒険者の皆さんと話し合った結果、魔法による爆破処理を行う事が決定した。もちろん、爆破処理担当は私だ。決して魔法が使える者がいなかった訳ではない。この場に集っている冒険者の中で、強力な魔法が使える者が私だけだったからだ。
「⋯⋯しかし、あんな大きな魔物、ホントに吹き飛ばせるのか?」
「あんなのを氷漬けにしただけでもバケモンだってぇのによ⋯⋯」
⋯⋯若干失礼な事を言っている人がいるが、聞かなかった事にして魔物を爆破する事に集中した。
やる事はさっきと一緒だ。私が魔法陣を展開し、アキナが別の魔法陣で強化する。魔力の制御をアキナが担当してくれるので、それだけでも凄い安心感がある。
冒険者の皆さんは、すでに遠くに避難している。草原の中心なので、被害が出る心配も無い。
私は、遠慮無く頭に浮かんだ魔法を発動した。
『万物を溶かす大地の窯⋯⋯。かの災厄を呑み込み、無と成さん⋯⋯。
《
超高温の熱気が噴き出る穴を対象地点に出現させ、あらゆる物を溶かす地属性の超級範囲魔法である。その性質故に地形までも歪めてしまう為、乱用は出来ない。狭い場所では敵の行動制限等に絶大な効果を発揮するが、戦闘では役には立たない。また、空飛ぶ敵には効果が無い。使い手の頭脳が問われる魔法である。
氷漬けの魔物は、超高温の熱気の穴に少しづつ呑み込まれていく。氷は完全に溶けてしまったが、魔物自体はすでに息絶えている為問題は無かった。
数十分後、巨大な魔物は跡形もなく呑み込まれて消滅した。まったく爆破してないのだが、まぁいいか⋯⋯。
「⋯⋯あぁ」
強力な魔法を短時間で2回も使ったのは初めてだからか、かなりの疲労感が襲ってきた。⋯⋯もっと体力つけないといけないな。
「お疲れ様です」
「ししょー!お疲れ様です!」
二人がそれぞれ労いの言葉をかけてきてくれた。何気ない一言だけれども、言われるとやはり嬉しいものだ。
だが、今はとにかくだるい。眠気も強くなる一方だ。どこかで一休みしたくてしょうがない。
ちなみに。
あまりにも予想外な処理の仕方だったせいか、冒険者の皆さんは放心状態となったまま突っ立っていた。
*****
とにかく眠りたかった私は、街へ着くなりすぐに冒険者たちと別れ、家へと帰った。そして部屋に入ってベッドに倒れ、そのまま気絶するように眠りに落ちた。
*****
「⋯⋯ょう。師匠ー」
「⋯⋯」
「師匠。起きてください。ししょー」
ゆさゆさ。
「⋯⋯ぅ」
ゆさゆさ。
「⋯⋯⋯⋯んぅ。な、⋯⋯なに」
「あ、師匠。やっと起きましたかー」
アイビスが起こしに来ていた。何故家にいるのか等はもうどうでもいい。
「⋯⋯用件は、⋯⋯何?」
頭がまだはっきりしない。難しい用件は勘弁して欲しいのだけど⋯⋯。
「ギルドの職員さんが来てますよ?師匠にお話があるみたいです。起きられますか?」
「⋯⋯なんですと?」
私は思わずガバッと勢いよく起き上がった。
「うわぁっとぉ!師匠、いきなり起き上がらないでくださいよー。腰抜かしたらどーするんですかー!」
「ん?あぁゴメン。ちょっと出てくるよ」
そう言って、私は部屋を出た。⋯⋯ギルドが一体何用なのだろうか。
外に出ると、見知らぬ人たちが立っていた。
「⋯⋯あなたたちは」
「突然の訪問、失礼いたしました。私たちはギルドの職員をしている者です。⋯⋯草原の巨大な魔物を討伐した冒険者とは、あなたの事で間違いありませんか?」
「⋯⋯そうですけど」
返事をすると、ギルドの職員さんは安堵したようで、胸を撫で下ろしていた。
「良かった。人違いだったらどうしようかと思っていたところです。あの場に居合わせた冒険者たちは、誰もあなたの名前を知りませんでしたから、探すのに苦労いたしました」
⋯⋯そう言えば、確かに名乗っていなかった。そんな場合では無かったというのもあったけど。
「⋯⋯あの、用件は何でしょうか?」
「あの巨大な魔物を討伐してくれたあなた方に、ギルドの方で特別報酬をご用意しております。時間がある時にでもギルドヘお越しください。本日はそれをお伝えする為に参りました」
「⋯⋯他の方々は?」
「もちろん、あの戦いにご参加していただいた冒険者の皆様にも報酬をお支払いしております。ですが、最終的にあの魔物を討伐されたのはあなたでございます。ですので、今回の報酬とは別でご用意させていただきました」
⋯⋯本当かよ。これはえらい事になった。
「分かりました。後日受け取りに行きます」
「ありがとうございます。それでは」
職員さんたちは一礼し、その場を後にした。
私は中に戻り、アイビスにその事をそのまま伝えた。
「凄いじゃないですかー!これでお金持ちですよ!贅沢さえしなければ、一生ゆっくり過ごせますってー!」
気が早い!まだ金額も聞いて無いのに。
「⋯⋯とりあえず明日受け取りに行くから。そのつもりで」
私はアイビスの頭を撫でながら、明日の予定を伝えた。
「ふあぁ〜⋯⋯。わ、分かりました〜⋯⋯」
アイビスは顔をとろけさせながら、甘ったるい声で返事した。⋯⋯ペットを飼うって、こんな感覚なのかな⋯⋯。
なんて事を考えながら、しばらくアイビスの頭を撫で続けた。
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